カジュアルセックスチェンジ

娑婆

佐藤達也…美智香の元夫は、既に服役生活を終え、塀の外に出てきていた。

これほど早くに出所するとは、美智香、真弥、そして智は、全く予想していなかった。

元々達也は主犯ではなく、桐山の共犯というポジションにいた。

事件の大半は桐山が計画したものであり、達也は協力したにすぎない。

それに、達也には犯罪歴がない事も量刑の判断に有利にはたらいた。

そして、何よりも大きかったのは、事件に至るまでの過程であり、その背景が世間に注目された事だった。

国内最大手の量販店レギンドーは、その圧倒的規模と力から、自分達に有利な条件で取引先との契約を結び、強者対弱者の構図を作り上げていた。

この構図自体は当然の事なのだが、レギンドーの規模にもなると、社会貢献云々を言われてしまうわけで、このような弱いものイジメのような取引は、批判の対象となっていた。

達也が事件の容疑者に至った背景も、まさにそこにあり、レギンドーから契約を切られ、事業が立ち行かなくなったがためにこのような事件を起こしたと、一部週刊誌が書き立て、ネットも追随した。

裁判では、達也側の弁護士が世論を背景にし、同情を買うべく、その一点を集中的に訴え、強行突破を図る戦術に出て、それが見事にハマったのだった。

美智香達被害者にとっては納得いかざる判決だったが、もう関わりを一切持ちたくないと考えた美智香は、敢えてその判決を受け入れたのだった。

結果として、こんなにも早く達也は野に放たれたのだった。


だが、達也はもう、手元に何もない状態だった。

会社を失い、財産も失い、愛人も何もかも、彼の前から消えてしまっていた。

しかし、これからの長い人生を、まだまだ頑張って生きていかなければならない。

達也は帰る家もない状態で、途方に暮れ、公園のベンチに座り、無為の時間を過ごした。

服役生活で真っ白になった髪を掻き分けながら、ため息をつき、また俯いたのだった。