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索敵
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「佐々木さあ」
仕事を終えて帰ろうとする真弥を常田が呼び止めた。
「えっ、常田さん、何スか?」
「いつになったらキャンプ付き合ってくれるんだよ。」
「キャンプ?
何でしたっけ、それ」
「おいおい、忘れたのか。
前に話しただろ?
俺の彼女の話」
「えっ…どうだったかなあ…」
「ちょ、頼むわ。
ほら、キャンプ好きな女子と付き合う事になったんだけど、俺がそういうのに全然疎くて、お前と嫁さんに助けを求めてたじゃん、一緒に行ってくれってさあ」
「あ、あー
そうでしたね!」
「いつになったらいってくれんだよ。
俺、もうボロが出まくりだぜ。」
「すいません、みっちゃん…いや、妻に相談してきます。
いつがいいっすか。」
「その辺は任せるよ。
また、都合の良い日を教えてくれよ」
「わかりました。
それじゃあ、お先に失礼します。」
真弥は常田に頭を下げ、事務所を出ていった。
真弥の戦いはいつもここから始まる。
地下鉄、JR二本を乗り継ぎ、家までの行程を一分でも縮める必要があるのだ。
都心の会社であるから、地下鉄は頻繁に来る。
だが、家に近づけば近づくほど、電車の本数は減っていき、一本逃すと、それが命取りとなる。
真弥は時計を見ながら早足で地下鉄の降り口を目指した。
しかし
「佐々木さん」
と、いう声がしたため、歩みを止めて振り返った。
「…あなたは…」
自分を呼び止めたのが達也だとわかり、一気に緊張する真弥だったが、達也の隣に桐山が立っているのを見て、さらに身を固くした。
「これからお帰りになられるところですか」
「ええ。そうです。
では、失礼します。」
真弥はそう言うと、視線を切り、その場から立ち去ろうとしたが、二人はそれを許さず、前後から挟み込むようにして立ち塞がった。
「佐々木さん、少しだけお時間をいただけませんか」
達也は申し訳なさそうに言ったが
「なんで僕があなたのために時間を作らなきゃならないんです?
ホントに急いでるんで。」
「それじゃあ仕方ありませんね。
また美智香さんのところにお伺いするだけです。」
「なんなんですか!
そんな嫌がらせをして楽しいですか?」
「いえ、別に楽しくなんかないですよ。
ただ、私は美智香さんと仕事の事で話がしたかった。
ただ、それだけなんです。」
「だから、美智香はあなたと話したくない。
仕事の件はおろか、何もかも。」
「フッ…私も嫌われたもんですねえ。
佐々木さん、率直にお話しします。今日はあなたと話がしたくてここで待たせてもらいました。」
「はっ?
僕と話がしたい?
何を言ってるんですか…こちらに何を話されても意味がないですよ。」
真弥は呆れた口調で言ったが、達也は動じる事なく、あくまでも冷静な口調で続けた。
「古い言い方ですが、私も男です。
あなたとお話をして、それで聞き入れられてもらえないなら、きっぱりと諦めますよ。」
真弥はその言葉に耳を疑った。
仕事を終えて帰ろうとする真弥を常田が呼び止めた。
「えっ、常田さん、何スか?」
「いつになったらキャンプ付き合ってくれるんだよ。」
「キャンプ?
何でしたっけ、それ」
「おいおい、忘れたのか。
前に話しただろ?
俺の彼女の話」
「えっ…どうだったかなあ…」
「ちょ、頼むわ。
ほら、キャンプ好きな女子と付き合う事になったんだけど、俺がそういうのに全然疎くて、お前と嫁さんに助けを求めてたじゃん、一緒に行ってくれってさあ」
「あ、あー
そうでしたね!」
「いつになったらいってくれんだよ。
俺、もうボロが出まくりだぜ。」
「すいません、みっちゃん…いや、妻に相談してきます。
いつがいいっすか。」
「その辺は任せるよ。
また、都合の良い日を教えてくれよ」
「わかりました。
それじゃあ、お先に失礼します。」
真弥は常田に頭を下げ、事務所を出ていった。
真弥の戦いはいつもここから始まる。
地下鉄、JR二本を乗り継ぎ、家までの行程を一分でも縮める必要があるのだ。
都心の会社であるから、地下鉄は頻繁に来る。
だが、家に近づけば近づくほど、電車の本数は減っていき、一本逃すと、それが命取りとなる。
真弥は時計を見ながら早足で地下鉄の降り口を目指した。
しかし
「佐々木さん」
と、いう声がしたため、歩みを止めて振り返った。
「…あなたは…」
自分を呼び止めたのが達也だとわかり、一気に緊張する真弥だったが、達也の隣に桐山が立っているのを見て、さらに身を固くした。
「これからお帰りになられるところですか」
「ええ。そうです。
では、失礼します。」
真弥はそう言うと、視線を切り、その場から立ち去ろうとしたが、二人はそれを許さず、前後から挟み込むようにして立ち塞がった。
「佐々木さん、少しだけお時間をいただけませんか」
達也は申し訳なさそうに言ったが
「なんで僕があなたのために時間を作らなきゃならないんです?
ホントに急いでるんで。」
「それじゃあ仕方ありませんね。
また美智香さんのところにお伺いするだけです。」
「なんなんですか!
そんな嫌がらせをして楽しいですか?」
「いえ、別に楽しくなんかないですよ。
ただ、私は美智香さんと仕事の事で話がしたかった。
ただ、それだけなんです。」
「だから、美智香はあなたと話したくない。
仕事の件はおろか、何もかも。」
「フッ…私も嫌われたもんですねえ。
佐々木さん、率直にお話しします。今日はあなたと話がしたくてここで待たせてもらいました。」
「はっ?
僕と話がしたい?
何を言ってるんですか…こちらに何を話されても意味がないですよ。」
真弥は呆れた口調で言ったが、達也は動じる事なく、あくまでも冷静な口調で続けた。
「古い言い方ですが、私も男です。
あなたとお話をして、それで聞き入れられてもらえないなら、きっぱりと諦めますよ。」
真弥はその言葉に耳を疑った。
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