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誇りと埃
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美智香と真弥の生活は団地に引っ越した事により、微妙な変化が表れるようになった。
先ずは家が圧倒的に狭くなった事。
普通に生活するのにも窮屈で、特に料理や風呂に関してはかなり苦労している。
そして築年数も四十年以上の物件のため、設備も古い。
次に都心から離れてしまった事
これにより、真弥の通勤時間は以前に比べ一時間近く余計にかかってしまうようになった。
そして、美智香が作る料理が質素になった事
真弥の給料でなんとかやりくりする事を決めた為、安い店を探して遠くまで買いに行くなどの努力はしているが、美智香自身が納得できるようなメニューが作れなくなってしまった。
それでも、二人の互いに対する愛情は増すばかりで、こんな状況の中だからこそ、もっと協力して頑張ろうという結束も生まれる事になった。
その日も八時頃に帰宅した真弥は、美智香が作った料理を、文句一つ言わずに美味しそうに食べていた。
美智香は向かい側に座って、真弥が食べる様子を見るのが大好きで、真弥が食べ終わってから、自分は台所などでささっと済ませるのを日課としていた。
「みっちゃん、スーパーの仕事は慣れた?」
「うん、なんとかね
変なお客さんに怒鳴られる事もあるけど」
美智香は真弥の問いかけにそう答えて笑った。
「でもなあ、みっちゃんの今までの経歴を考えたら、もっと違う仕事して欲しいって思うんだけど」
「真弥君
前も言ったけど、私は今の仕事もこの生活も、今までの人生で一番幸せに思ってるのよ。
これは紛れもない事実なの」
「うん。僕もそうだよ。
みっちゃんがそう思ってくれる事は嬉しい事だよ。」
「たしかに、以前の私は仕事に燃えて、社長なんて事もしてたけど、元旦那の浮気が原因で、結局は辞任してしまったわ
それでも皆んなには気丈に振る舞ってたけど、悔しくて情けなくて、逃げるように東京に引っ越してきて、二年以上仕事もせずにいたのは、ずっと引きずっていたから。
なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないの?
悪いのは向こうの方なのに…
もう仕事なんてしたくない…
誰とも会いたくない…
でも、仕事をしない私に何の価値がある?
これからの人生を生きてく意味があるの?
って、ずーっと自問自答する日々だった。
あの頃はちょっと鬱も入っていたかもしれない。
多分、あのままだと私、どうなってたかわかんない。
それを救ってくれたのは真弥君なんだ。
真弥君は私に人を愛する事を教えてくれて
また、自分を必要にしてくれる人がいるって事を教えてくれたの。
仕事なんかよりもっともっと大切なものがあるって事も。
だから、私は今、すごーく幸せなの。」
美智香がそう言うと、何故か真弥が声を上げて泣き出した。
「もう、みっちゃん…
泣かせないでよ」
と、言って。
「もう、先に泣かないでよ」
美智香はそう言って泣きながら笑みを浮かべた。
先ずは家が圧倒的に狭くなった事。
普通に生活するのにも窮屈で、特に料理や風呂に関してはかなり苦労している。
そして築年数も四十年以上の物件のため、設備も古い。
次に都心から離れてしまった事
これにより、真弥の通勤時間は以前に比べ一時間近く余計にかかってしまうようになった。
そして、美智香が作る料理が質素になった事
真弥の給料でなんとかやりくりする事を決めた為、安い店を探して遠くまで買いに行くなどの努力はしているが、美智香自身が納得できるようなメニューが作れなくなってしまった。
それでも、二人の互いに対する愛情は増すばかりで、こんな状況の中だからこそ、もっと協力して頑張ろうという結束も生まれる事になった。
その日も八時頃に帰宅した真弥は、美智香が作った料理を、文句一つ言わずに美味しそうに食べていた。
美智香は向かい側に座って、真弥が食べる様子を見るのが大好きで、真弥が食べ終わってから、自分は台所などでささっと済ませるのを日課としていた。
「みっちゃん、スーパーの仕事は慣れた?」
「うん、なんとかね
変なお客さんに怒鳴られる事もあるけど」
美智香は真弥の問いかけにそう答えて笑った。
「でもなあ、みっちゃんの今までの経歴を考えたら、もっと違う仕事して欲しいって思うんだけど」
「真弥君
前も言ったけど、私は今の仕事もこの生活も、今までの人生で一番幸せに思ってるのよ。
これは紛れもない事実なの」
「うん。僕もそうだよ。
みっちゃんがそう思ってくれる事は嬉しい事だよ。」
「たしかに、以前の私は仕事に燃えて、社長なんて事もしてたけど、元旦那の浮気が原因で、結局は辞任してしまったわ
それでも皆んなには気丈に振る舞ってたけど、悔しくて情けなくて、逃げるように東京に引っ越してきて、二年以上仕事もせずにいたのは、ずっと引きずっていたから。
なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないの?
悪いのは向こうの方なのに…
もう仕事なんてしたくない…
誰とも会いたくない…
でも、仕事をしない私に何の価値がある?
これからの人生を生きてく意味があるの?
って、ずーっと自問自答する日々だった。
あの頃はちょっと鬱も入っていたかもしれない。
多分、あのままだと私、どうなってたかわかんない。
それを救ってくれたのは真弥君なんだ。
真弥君は私に人を愛する事を教えてくれて
また、自分を必要にしてくれる人がいるって事を教えてくれたの。
仕事なんかよりもっともっと大切なものがあるって事も。
だから、私は今、すごーく幸せなの。」
美智香がそう言うと、何故か真弥が声を上げて泣き出した。
「もう、みっちゃん…
泣かせないでよ」
と、言って。
「もう、先に泣かないでよ」
美智香はそう言って泣きながら笑みを浮かべた。
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