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刺客

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エレベーターが開くと、予約していた客が出てきた。

リピーターではなく、初めての客だったので、智も少し緊張気味に出迎えたが…
その客は初見ではなかった。

その証拠に、男は

「久しぶりだね」

と、言った。


「えっ…

お義兄さん?」

智はそう言って、男の顔をまじまじと見つめた。



見間違いではなく、男は美智香の元夫の達也だった。


部屋に案内し、ソファーに座らせたはいいが、マニュアル通り進めるなんて、到底出来ず、智は横に座らず、茫然と立ち尽くした。


「智君、ニューハーフになったとは聞いてたけど
実際に目の当たりにすると、驚いちゃったな

どこからどう見ても女になってんだもん」


「姉から、離婚したって聞きましたけど…

いや、そんなことより、なんでここへ?」

どう考えても、達也が自分への興味目当てでここに来たのではない

それだけはわかる


智は、注意深く達也の表情を観察しながら質問した。


「そうなんだよ。

俺が至らないばかりに、美智香を傷つける羽目になってね
申し訳ない事をしたと思ってるよ。」


「夫婦間の事はワタシ等外部の人間にはわからない事ですし、それについてとやかく言うつもりも権利もないと思ってます。

それにもう二年以上前の事ですし、姉も今は立ち直って前向きに生きていますので、どうか、そっとしておいて下さい。」

「そうか、前向きに頑張ってるんだね。
良かった…

そう聞いて俺も少しは救われた思いになったよ。

この前、美智香に電話してみたんだけどね。
番号は変えてないみたいなんだけど、電話に出てくれないから心配になっててね。」


「お義兄さん。

そういうわけですので、姉は元気にやっています。
もし、今の姉の様子を心配してワタシのところに来られたのなら、本当に大丈夫なんで…

お金はけっこうなので、お引き取り下さい。」


「いやいや、ちゃんと支払うよ。

キミがニューハーフになったって最初に美智香から聞いた時、面食らっちゃってさあ、で、こういう風俗店で働いてたじゃない?

店のホームページ見たら、少し面影はあるけど完璧な美女に変身してて、あの時は本当に驚いたよなあ。

エリートの肩書捨ててこの世界に飛び込んだのも潔いってか…

で、今回美智香に連絡つかないから、ひょっとしたら智君が、まだ風俗店で働いてないかなって思って覗いてみたら、本当にいたから。
本名のトモを名乗ってるから、見つけやすかったよ。」


「引退していましたけど、ワケあって三か月限定で復帰したんです」


「そうなんだね。
偶然、復帰中にこうやって会えた俺はラッキーなんだね。」

達也は意味深な笑みを浮かべ、智を見つめた。
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