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分水嶺
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伊東の実家は驚くほどの田舎で、在来線を乗り継いで降り立った駅から、車で一時間半かかるような辺鄙なところにあった。
駅には先に実家に移り住んでいた伊東が迎えに来ており、車に智と莉愛を乗せて、山の中を延々と運転していった。
「あまりの田舎ぶりに驚いた?」
伊東は後部座席の二人に語りかけたが、智は
「ううん。
すごく良いところね」
と、当たり障りのない感想を述べた。
ここまで来たら田舎や都会などと言ってられないとは思っていたが、ここ住むにあたって、智には一つの問題があった。
それは、定期的に打つ女性ホルモンの注射についてである。
智の体は去勢した事もあり、ホルモンバランスが崩れている。
それを補うのがこの女性ホルモン剤であり、そのおかげで智の体の健康と女性らしい肉体が維持されているのだ。
しかし、田舎に住むとなると近くに美容外科などもないだろうし、忽ち困ってしまうだろうと…
(ネットで経口のお薬を買うしかないか…)
智はそう考えたが、経口の錠剤は手軽に自宅で女性ホルモンを体に入れられるという利点もあるが、経口の場合、内臓に負担がかかりやすく、あまり勧められるやり方ではなかった。
だが、自分の置かれた立場を考えると贅沢も言ってられないのは確かな事で…
そんな事を考えていた智は、運転席の伊東から実家に着いたと教えられた。
顔を上げて、窓の外を見ると、古いが大きな一軒家がポツンとあり、いわゆるお隣さんというものがない。
「ウチの村は全部で27軒しかなくてね。
一番近いところでも車でしか行けないんだよ。」
「立派なお家…」
「土地はタダみたいなもんだからね。
ただ大きいだけだよ。」
山間の限界集落
これは相当覚悟しないと、とんでもなく苦労すると思った。
だが、今は、伊東の母親に挨拶をするのが一番大事な事だ。
母親らしき人も家から出てきて車の方に歩いてきている。
伊東は車から降りて
「母さん、紹介するよ
こちらが吉岡智さん」
と、車を降りかけていた智を母に紹介した。
「はじめまして
吉岡智です」
智は慌てて深々と頭を下げた。
「ウチの母で
光江です」
今度は母親を智に紹介する伊東。
「ようこそ、こんな遠いところへいらっしゃいました。
淳の母親の光江と申します。
どうかよろしくお願いします。」
光江は深々と頭を下げ、それを見た智もまた深く頭を下げた。
「えっと、この可愛い子が莉愛ちゃん」
「こんにちはー」
莉愛は物おじする事なく、光江に挨拶をした。
「こんにちは、莉愛ちゃん。
疲れたでしょう?
中でご飯を用意してるから、入ってください。」
光江に案内され、三人は車から荷物を出すとそれを持って家の中に入っていった。
光江は典型的な田舎の良いおばあちゃんという感じで、初めて会ったのにそんな気にさせない空気を持っていた。
智は、少し安堵した。
駅には先に実家に移り住んでいた伊東が迎えに来ており、車に智と莉愛を乗せて、山の中を延々と運転していった。
「あまりの田舎ぶりに驚いた?」
伊東は後部座席の二人に語りかけたが、智は
「ううん。
すごく良いところね」
と、当たり障りのない感想を述べた。
ここまで来たら田舎や都会などと言ってられないとは思っていたが、ここ住むにあたって、智には一つの問題があった。
それは、定期的に打つ女性ホルモンの注射についてである。
智の体は去勢した事もあり、ホルモンバランスが崩れている。
それを補うのがこの女性ホルモン剤であり、そのおかげで智の体の健康と女性らしい肉体が維持されているのだ。
しかし、田舎に住むとなると近くに美容外科などもないだろうし、忽ち困ってしまうだろうと…
(ネットで経口のお薬を買うしかないか…)
智はそう考えたが、経口の錠剤は手軽に自宅で女性ホルモンを体に入れられるという利点もあるが、経口の場合、内臓に負担がかかりやすく、あまり勧められるやり方ではなかった。
だが、自分の置かれた立場を考えると贅沢も言ってられないのは確かな事で…
そんな事を考えていた智は、運転席の伊東から実家に着いたと教えられた。
顔を上げて、窓の外を見ると、古いが大きな一軒家がポツンとあり、いわゆるお隣さんというものがない。
「ウチの村は全部で27軒しかなくてね。
一番近いところでも車でしか行けないんだよ。」
「立派なお家…」
「土地はタダみたいなもんだからね。
ただ大きいだけだよ。」
山間の限界集落
これは相当覚悟しないと、とんでもなく苦労すると思った。
だが、今は、伊東の母親に挨拶をするのが一番大事な事だ。
母親らしき人も家から出てきて車の方に歩いてきている。
伊東は車から降りて
「母さん、紹介するよ
こちらが吉岡智さん」
と、車を降りかけていた智を母に紹介した。
「はじめまして
吉岡智です」
智は慌てて深々と頭を下げた。
「ウチの母で
光江です」
今度は母親を智に紹介する伊東。
「ようこそ、こんな遠いところへいらっしゃいました。
淳の母親の光江と申します。
どうかよろしくお願いします。」
光江は深々と頭を下げ、それを見た智もまた深く頭を下げた。
「えっと、この可愛い子が莉愛ちゃん」
「こんにちはー」
莉愛は物おじする事なく、光江に挨拶をした。
「こんにちは、莉愛ちゃん。
疲れたでしょう?
中でご飯を用意してるから、入ってください。」
光江に案内され、三人は車から荷物を出すとそれを持って家の中に入っていった。
光江は典型的な田舎の良いおばあちゃんという感じで、初めて会ったのにそんな気にさせない空気を持っていた。
智は、少し安堵した。
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