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必罰

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ボロボロの姿で店に戻ってきた智に、同僚やマネージャーが何事かと周りに集まってきた。

智は木村にされた事を報告したが、警察に連絡しようとするスタッフを制止した。

それは違法ドラッグを使われてしまった事実があり、被害者であっても疑われてしまう事を恐れたのだ。

以前にも似たようよな経験があり、その時の苦労と恐怖について、未だに思い出す事があった。

智はその日はもう客を取らず、早退した。


風俗嬢の仕事をしている限り、今日のような事が起きないとは決して言い切れないと、智も覚悟をして働いていたが、さすがに今日の出来事についてはショックが大きく、肩を落として店を出た。

だが、こんなときには悪い事が重なるものである。



店を出たところで、後ろから声がかかった。

「トモさん」

と。

さっきの事もあり、ビクッとして振り返る智だったが、
声をかけた主は木村ではなく、少し若めのスポーツマンタイプの男がそこに立っていた。

たまに外で声をかけてくる客がいるにはいるが、これはルール違反である。
智はその不届者に少しムッとした感じで視線を送った。

(?)

よく見ると、立っていた男の服装、雰囲気…
いわばその佇まいが、よくありがちな客のスタイルではないということがわかった。


智が戸惑いの表情を見せると、男は頭を下げた。


「すいません。
私、読学社の中西というものです。」 

「読学社?」

「はい。ウチの雑誌、文秋にあなたの記事を載せる事になりまして、コメントをいただけないかなって。」

「ワタシの?」

「普通なら事務所に問い合わせをするんですが、今あなたはフリーですよね?
不躾なんですけど、店の前で待たせていただきました。」


中西と名乗ったその男は、智にA4サイズの紙に写真を印刷したと思しきものを差し出した。

「…!!」

写真には、ホテルを出る智と伊東の姿があった。


「掲載時にはお相手の方は一般の方なので目線を入れますのでご心配なく。」

「ちょっと待ってください。
ワタシも今は一般人です。」

「いえいえ、あなたはまだ芸能界におられると私たちは判断させていただいております」

「…」

「掲載にあたり、少しお話をお聞かせ願いたいんですが」

「何もお話することはありません」

「お相手の男性はどこで知り合われたんですか?」


「本当に失礼します」



「小学校の先生らしいですね。
娘さんの学校の担任をしてらっしゃるとか」
 

勿論、智は何も答えず、足早にその場から立ち去った。


終わった…


ささやかな幸せの中で暮らしていけると信じていたのに、こんなに早く崩壊するとは…

自分はどうでもいいが、伊東の人生と莉愛の心を大きく傷つけてしまった…

僅か一日の間に起きたダブルの凶事に、智は絶望感に包まれながら家路についた…
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