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帰国
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ついに和俊が日本に帰ってきた。
智は莉愛を連れて空港まで迎えに行ったのだが、飛行機の到着が遅れ、莉愛は眠ってしまった。
空港で待つ事二時間、あのときと変わらない姿の和俊は智を見つけると笑みを浮かべ片手を上げた。
「お帰り、カズ」
「ああ、ただいま…
なんだ、莉愛ちゃん寝ちゃったのか?」
智におんぶされてスヤスヤ眠る莉愛に、和俊はフッと笑いながら呟いた。
三人はタクシーに乗り、智のマンションにやってきた。
智は莉愛を寝かせると、和俊にお茶を出した。
「お疲れ様、カズ」
「ああ。ありがとう」
それから二人は、離れている間にあった出来事を話し合ったが、智の方が遥かに波瀾万丈で、なんと言っても莉愛を引き取り生活を共にするようになった事が、一番大きな出来事であり、変化であった。
智は決めていた。
こうなるとは予想もしていなかったが、現実は娘を抱えての生活になったんだから仕方がない。
それを和俊に押し付けるわけにはいかない。
その事をきちんと話そうと心に決めてこの場に臨んでいたのだった。
「カズ、ワタシさ、莉愛を引き取った事でずっと考えてたんだけど…」
智が意を決して話したところで、和俊がその言葉を遮って話を始めたのだ。
「トモ、その話を聞く前に、先ずは俺の話を聞いてくれるかな。」
「えっ、あ、うん。
どうぞ。」
少し戸惑いながら返事をする智に頷き、和俊は話を続けた。
「俺、引きこもりみたいになっちゃってどうしようもなくなってたときにトモに再会して、元気を貰えたっていうか、もう一度人生をやり直すきっかけをもらった事には心から感謝してる。
それにトモを女性として心から好きになった事にも」
「…」
「回りくどい言い方するべきじゃないな。自己弁護みたいだし…
実は、トモ…
俺、向こう…フランスで好きな女性が出来てしまったんだ。」
「えっ」
「日本人で同じ会社のスタッフの人なんだけど、早くから俺のこと好きだって言われてて、俺は婚約者がいるからって断ってたんだけど…
結局、そういう関係になってしまったんだ。」
「そうなんだ…
いつ?」
「最近…
トモが莉愛ちゃんを引き取るって話をされた後くらいに」
「そっか」
「ごめん」
「謝らないで。ワタシが悪いんだから…」
「違う。俺が悪いんだ。
俺が本心を言ってなかったからこんなことになったんだよ。」
「本心?」
「ああ。トモの事は俺は心から愛してたし、本当に結婚したいと思ってた。
でも、一方で、なんていうか、本物の女性と付き合う事なく一生を終えていいのか、なんて思う事もあり…
一人っ子の俺が両親に孫を見せられないのはとんでもない親不孝なんじゃないかって。
口では綺麗事並べてたけど、そう思ってた。
いや、もっと本音の部分を言えば…
仕事が順調で、周囲に認められてくると何だか妙に自信がついてしまったんだ。
今の俺ならフツーの女性と恋愛をして、結婚して家庭を持てるって、時が経つにつれ段々そう思うようになってきてしまったんだ。」
和俊はこの期に及んで取り繕う事はできないと、思いの丈を智にぶつけてきた。
智の女の勘はやはり当たっていた。
和俊に向こうで女が出来たことで生じた違和感…
だが、智はショックではあったが少し気が楽になったのも事実であった。
もし、和俊が何でもなかったとしても、別れを切り出すべきだと考えていたからだった。
「カズ、よくわかったよ。
カズにとってはその方が幸せになれると思うし、それはワタシにとっても嬉しい事なの」
「トモ…」
「お互いにとって、この短期間で環境が大幅に変わったの。
だから、以前のような関係にはもう戻れないと思うしね。
今までありがとう。
こんなワタシを好きになってくれて。」
「…」
和俊は智の方を泣きそうな顔で見つめ、そして俯いてしまった。
それから長い沈黙があった後、和俊は部屋を後にした。
智は莉愛を連れて空港まで迎えに行ったのだが、飛行機の到着が遅れ、莉愛は眠ってしまった。
空港で待つ事二時間、あのときと変わらない姿の和俊は智を見つけると笑みを浮かべ片手を上げた。
「お帰り、カズ」
「ああ、ただいま…
なんだ、莉愛ちゃん寝ちゃったのか?」
智におんぶされてスヤスヤ眠る莉愛に、和俊はフッと笑いながら呟いた。
三人はタクシーに乗り、智のマンションにやってきた。
智は莉愛を寝かせると、和俊にお茶を出した。
「お疲れ様、カズ」
「ああ。ありがとう」
それから二人は、離れている間にあった出来事を話し合ったが、智の方が遥かに波瀾万丈で、なんと言っても莉愛を引き取り生活を共にするようになった事が、一番大きな出来事であり、変化であった。
智は決めていた。
こうなるとは予想もしていなかったが、現実は娘を抱えての生活になったんだから仕方がない。
それを和俊に押し付けるわけにはいかない。
その事をきちんと話そうと心に決めてこの場に臨んでいたのだった。
「カズ、ワタシさ、莉愛を引き取った事でずっと考えてたんだけど…」
智が意を決して話したところで、和俊がその言葉を遮って話を始めたのだ。
「トモ、その話を聞く前に、先ずは俺の話を聞いてくれるかな。」
「えっ、あ、うん。
どうぞ。」
少し戸惑いながら返事をする智に頷き、和俊は話を続けた。
「俺、引きこもりみたいになっちゃってどうしようもなくなってたときにトモに再会して、元気を貰えたっていうか、もう一度人生をやり直すきっかけをもらった事には心から感謝してる。
それにトモを女性として心から好きになった事にも」
「…」
「回りくどい言い方するべきじゃないな。自己弁護みたいだし…
実は、トモ…
俺、向こう…フランスで好きな女性が出来てしまったんだ。」
「えっ」
「日本人で同じ会社のスタッフの人なんだけど、早くから俺のこと好きだって言われてて、俺は婚約者がいるからって断ってたんだけど…
結局、そういう関係になってしまったんだ。」
「そうなんだ…
いつ?」
「最近…
トモが莉愛ちゃんを引き取るって話をされた後くらいに」
「そっか」
「ごめん」
「謝らないで。ワタシが悪いんだから…」
「違う。俺が悪いんだ。
俺が本心を言ってなかったからこんなことになったんだよ。」
「本心?」
「ああ。トモの事は俺は心から愛してたし、本当に結婚したいと思ってた。
でも、一方で、なんていうか、本物の女性と付き合う事なく一生を終えていいのか、なんて思う事もあり…
一人っ子の俺が両親に孫を見せられないのはとんでもない親不孝なんじゃないかって。
口では綺麗事並べてたけど、そう思ってた。
いや、もっと本音の部分を言えば…
仕事が順調で、周囲に認められてくると何だか妙に自信がついてしまったんだ。
今の俺ならフツーの女性と恋愛をして、結婚して家庭を持てるって、時が経つにつれ段々そう思うようになってきてしまったんだ。」
和俊はこの期に及んで取り繕う事はできないと、思いの丈を智にぶつけてきた。
智の女の勘はやはり当たっていた。
和俊に向こうで女が出来たことで生じた違和感…
だが、智はショックではあったが少し気が楽になったのも事実であった。
もし、和俊が何でもなかったとしても、別れを切り出すべきだと考えていたからだった。
「カズ、よくわかったよ。
カズにとってはその方が幸せになれると思うし、それはワタシにとっても嬉しい事なの」
「トモ…」
「お互いにとって、この短期間で環境が大幅に変わったの。
だから、以前のような関係にはもう戻れないと思うしね。
今までありがとう。
こんなワタシを好きになってくれて。」
「…」
和俊は智の方を泣きそうな顔で見つめ、そして俯いてしまった。
それから長い沈黙があった後、和俊は部屋を後にした。
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