カジュアルセックスチェンジ

醜聞

親権とは、未成年の子を育て、財産を管理し、子どもの法律行為を代理する権利のことで、子どもは、父母の婚姻中は両親の親権に服し、父母が共同して親権を行使する。（民法818条1項・同条3項）
一方の親が亡くなった場合は、もう一方の親が単独で親権を行使する　（民法818条2項）父母が離婚した場合には、その一方が親権者となる（民法819条1項）
つまり、原則として親権者は父母に限られ、祖父母は原則として親権者になることができない。
この事から、祖父母は原則として親権者にはなれないが、例外的に親権者となることが認められる場合がある。
また、親権が認められないとしても、法的に孫と一緒に暮らし、親権者同様の権利行使が可能になる手続きもある。
祖父母が孫の親権者となるには「養子縁組」という方法もある。
養子である子に対しては、養親が親権を持つことになるからだ。（民法819条2項）。

養子縁組は、祖父母または孫の本籍地か住所地を管轄する市区町村役場に対して、養子縁組届や必要書類を提出することで行う。
養子縁組の手続を行うことによって、祖父母は孫の養親となり、親権者となる。
未成年の孫が15歳未満の場合は現親権者である父または母の承諾が必要になる。（民法797条1項）。
つまり、親権者である親が承諾しなければ祖父母は孫を養子にすることができないのだ。

この点から、法的には父親である智が圧倒的に有利で、一見すると莉愛を奪われる事はないはずだが、俊之は敏腕弁護士に依頼し、智にとって一番痛い点を突いてきた。

それは、智による虐待で、子（莉愛）の利益の観点から相応の事情があるという主張だ。

勿論、智が虐待などするわけがないが、父親としての役目を果たさず、性転換して女性として暮らしている。
それも法的に女性として認められた状態ではなく。
父親としての役目を果たさない事が、虐待であり、子の利益の観点から相当の理由があると主張し、家庭裁判所に対して親権喪失に関する申立てをしようと画策したのだ。
家庭裁判所に「親権喪失の審判」を申立て「父母が親権を濫用し又は著しく不行跡である」と認められた場合に、親権喪失の審判がされる。この「親権喪失の審判」により現親権者に親権喪失させた上で、祖母が孫の未成年後見人となることによって、事実上、親権者と同様の権限を持つことが可能となる。
ただ、親権喪失は親権を完全に剥奪するものであり、戸籍に「親権喪失宣告の裁判確定」と記載されるといった強力な方法だ。

このような主張が認められるかどうかは過去の判例と裁判官の判断に委ねられるが、俊之が依頼した弁護士は、徹底的に智の外堀を埋め、激しい攻撃をしてきた。

智も黙って引き下がる事は出来ない。

莉愛は血を分けた可愛い一人娘であるのと同時に、自分が責任を持って育てると奈々と約束をしたのだから。

智も弁護士に依頼し、徹底抗戦する事を決め、決着は法廷へと持ち込まれたのだが‥




裁判所の判断は以下の通りであった。

智の養育能力には問題はないが、風俗店に勤務し、莉愛と一緒に生活する時間が限られる事。
戸籍上の性転換申請をしておらず、女性として生活する事は、将来的にも莉愛に不利益をもたらす可能性が高い、として
俊之の主張を認める形となった。
ただ、妻がいて子供までいる状況での戸籍上の性別変更など、認められるわけがないので、やや、こじ付けをされた感は拭えなかった。

実際、智のようなパターンは、似たような例はあったが、ここまでの状況での裁判は、過去に無く、判例からでは無く、裁判官の判断に委ねられたという部分が大きい。


こうして、智は奈々と莉愛を僅かな期間に失ってしまい、独りぼっちになってしまった。

もう、風俗店で働く必要もなく、とうに辞めていたが、かといって、前職に戻る事も、他の仕事を探すこともせず、無気力な生活を送るようになった。

ニューハーフとなって五年以上が経過し、智は生きる目的、支え、意味など、全てを失ってしまった。