カジュアルセックスチェンジ

霹靂

膵臓癌はステージIVで発見される人が最も多く、手術ができるのはステージⅠまでの症例と、ステージII、IIIの一部だということ。そのため、手術できる患者が非常に少なく、その割合はすべてのがんの中で最少である。
それでも、現状、膵臓がんの発見時に、手術の対象になる人は20％ほどいるが、一方で、手術をしても約80％の人は再発し、手術を受けた患者でも、5年生存率は約20％と、全ての癌で一番少ない。

智は調べれば調べるほど、希望を無くしていった。

初期には全く自覚症状がなく、早期発見が難しいことは、奈々を見ていてよくわかった。

だが、諦めるわけにはいかない。
智は自分に出来る事は全てやってしまおうと、家での殆どの時間を費やして、ありとあらゆる情報に目を通した。

現状、かなり厳しい事はわかったが、一方で保険適応外の治療や、保険の適応内ではあるが、とても高額な免疫チェックポイント阻害薬の存在がある事がわかり、その有効性について調べ上げた。

そして、一つの結論に達した。

（やってみる価値はある）

ということを。

実際に改善された患者、効果の出なかった患者の例など、様々であったが、何もやらないより、出来る事は全てやる‥智はそう誓いを立てた。


問題は治療にかかるお金の工面であった。

智には亡くなった両親の残した遺産などの蓄えはあったが、奈々の治療が長引けば、そんなものはすぐに吹っ飛んでしまう。

今の仕事だって、親子三人が食べていけるほどの給料はもらっておらず、持ち出しをする月もあり、とてもじゃないが、治療費にまで回す余裕はない。

自ずと答えは出た。

（もう道は一つしかない）

智は携帯を取り出し、思い詰めた様子で連絡先をスワイプしていった。