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絡まる糸

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「えっ」

いつものように自宅に遊びに来ていた智の言葉に、貴島は驚いて顔を上げた。

「ごめんなさい。
元々はワタシが原因なのに、また勝手に別れて欲しいだなんて。」

「どうしたの?何かあった?」

「やっぱり妻を裏切っちゃいけないって。
もう十分すぎるくらい裏切ってますが。」

「うーん‥」

「課長はワタシの心を救って下さいましたし、本当に好きな人です。
でも、やっぱり、それに甘えてちゃいけないって‥」

「トモ、最初はキミにここまでのめり込むことはないと思ってたんだが、やっぱりこうして一緒にすごしてると、心からキミの事を好きになって、夢中になっている自分に気付いた。
それくらい、キミは魅力的だ。」

「ありがとうございます。
そう言ってもらえてすごく嬉しいです。」

「家庭を壊してはいけない、キミに負担をかけてはいけないと強く思ってたけど、俺はトモを独占したくなってしまって、どうしようもない気分になっているんだ。
別れるなんて、考えもしなかった。
むしろ、奥さんと別れてもらって、俺と結婚して欲しいと思ってる。」

「ありがとうございます。ワタシみたいなものにそんな言葉をかけていただいて。

でも、ワタシは性同一性障害でもないし、性転換手術をするつもりもないんです。

だから戸籍も変えられないし、女性として男性と結婚する事も出来ません。」

「俺もそれについては調べたさ。
たしかに今の法律では、トモの状態で性別変更をする事は不可能だろう。
でも、今後変わってくると思うし、ヨーロッパでは手術していなくても性別変更を認める動きが広がっている。

日本だってそのうち潮目が変わる時が必ず来るはずだ。
もし、そうならなくても、たとえば俺と養子縁組をするなどして籍を共にする事も可能なんじゃないか。」

「課長、そこまで‥」

「ああ。キミを知って、そしてキミの魅力に虜になった今、俺にはすんなり諦めるって選択肢はないよ。
今言った話、真剣に考えてみてくれよ。
それと、差し出がましい言い方になるけど、キミがムリして奥さんと一緒に暮らすのって、本当に二人のためなのかな。」

「えっ?」

「奥さんは色々大変な事があってキミの元に帰ってきたそうだけど、去勢して女性のような外見になったキミの事を本当はどう思ってるんだろうって。
同情や今まで自分が置かれていた環境より良いからって、錯覚を起こしてしまってるんじゃないかな。」

「妻は今まで働いた事がなくて、社会に出た事がないですから、今後そういう場面に遭遇して、考えが変わる事があるかもしれません。
でも、ワタシがそれを期待して浮気するのは、やっぱり違うんじゃないかって思います。」

「‥キミの言う事もよくわかるよ。
でも、俺はトモのことをやっぱり諦められない。
だから、俺が言った話をよく考えてみてくれないか。
俺はいつまでも待ってるよ。
勿論キミの答えがどうであれ、公私の区別はちゃんとつけるから。
上司と部下の関係はこれからも変わらないよ。」

「課長‥
すみません…」

「トモ、最後にもう一度キミを抱かせてくれ」

貴島は智を抱きしめ、そして激しいキスをした。
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