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思惑
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桐山は慣れた手つきでお茶を入れ、智に差し出しながら言った。
「吉岡さん、この前私が提案した件について、答えをいただけますか。」
「そんな急に答えを出せるわけないじゃないですか。」
「いえ、奈々が私の元を出て行ってから膨大な時間が過ぎました。
もうこれ以上は待てませんよ。
じゃあ、こうしませんか。無制限にあなたに会うのも何だか不公平な気もしますし、そうだなあ‥
週に一度、全部で十回あなたと会うというのはどうですか?
つまり十週間過ぎたら、もう私はあなたに会うなんて言いませんし、奈々の事もスッパリ諦めます。」
「それは本当ですか?
私が十回会えば、奈々を諦めてくれるということなんですね」
「そういうことですね。」
「桐山さん、あなたの真意は一体何です?
あれだけ奈々に執着していたのに、そんな簡単に心変わり出来るとは信じ難いです。
それに、私は男だということを知った上でこのような話をしてきた事についても、私は疑っています。」
「真意も何も、この前言った通りですよ。
私はあなたの美しさに心奪われ、そして、恋心を抱いた。これじゃあ、いけませんか。
では、私からも聞きたいが、何故あなたはそんな事がわかってるにもかかわらず、私の求めに応じてここにやって来たんですか?」
「奈々を守りたいからです。あなたには半径5キロ以内にも近づいて欲しくないんです。」
「辛辣だなあ。まあ、いい。
とにかく、私の真意は余すところなくお伝えしましたよ。」
桐山はそう言うと、コーヒーを一口飲み、そして智の方に視線を向けた。
「桐山さん、何度も言いますが、私は男です。下も付いたままです。フツーに女性が好きなあなたを満足なんてさせられませんし、あなた自身も気持ち悪い思いをするでしょう。悪い事は言いません、もう一度よく考え直して、生まれながらの女性とお付き合いする方が断然いいですよ。あなたは顔も良いし、すぐに見つかります。」
「褒めていただき光栄です。でも、大丈夫です。前にも申しましたが、私は面食いでね。
あなたの顔の美しさに心を奪われたのです。それからすれば、他の事等どうでもいいし、極々小さな事ですよ。」
「桐山さん、あなたの話が全て本当だとして、私があなたの求めに応じたら、奈々に近づかないと約束できますか?
よくよく考えたら何の保証もない話じゃないですか。」
「吉岡さん、私はあなたが思うほど悪人じゃないですよ。
ちゃんと約束は守ります。その点は信じてもらうしかないんですがね。
さあ、今のこの状況をどう転ばせるかはあなたに決定権があります。私はそれに従うだけですよ。」
桐山の言葉に、智は暫く何も反論せず、沈黙の中、時間が経過した。だが、智は顔を上げ、桐山を見つめると
「わかりました。あなたの提案を受け入れます。その代わり、二度と奈々に近づかないと約束して下さい。」
と、しっかりとした口調で言い切った。
「ありがとうございます。約束は守りますよ、神に誓っても。」
桐山は笑みを浮かべながら智に言った。
信用など出来るわけがない。けれども信用するしかない、奈々を守るには‥
智は諦めと強い意思の狭間の中にいた。
「吉岡さん、この前私が提案した件について、答えをいただけますか。」
「そんな急に答えを出せるわけないじゃないですか。」
「いえ、奈々が私の元を出て行ってから膨大な時間が過ぎました。
もうこれ以上は待てませんよ。
じゃあ、こうしませんか。無制限にあなたに会うのも何だか不公平な気もしますし、そうだなあ‥
週に一度、全部で十回あなたと会うというのはどうですか?
つまり十週間過ぎたら、もう私はあなたに会うなんて言いませんし、奈々の事もスッパリ諦めます。」
「それは本当ですか?
私が十回会えば、奈々を諦めてくれるということなんですね」
「そういうことですね。」
「桐山さん、あなたの真意は一体何です?
あれだけ奈々に執着していたのに、そんな簡単に心変わり出来るとは信じ難いです。
それに、私は男だということを知った上でこのような話をしてきた事についても、私は疑っています。」
「真意も何も、この前言った通りですよ。
私はあなたの美しさに心奪われ、そして、恋心を抱いた。これじゃあ、いけませんか。
では、私からも聞きたいが、何故あなたはそんな事がわかってるにもかかわらず、私の求めに応じてここにやって来たんですか?」
「奈々を守りたいからです。あなたには半径5キロ以内にも近づいて欲しくないんです。」
「辛辣だなあ。まあ、いい。
とにかく、私の真意は余すところなくお伝えしましたよ。」
桐山はそう言うと、コーヒーを一口飲み、そして智の方に視線を向けた。
「桐山さん、何度も言いますが、私は男です。下も付いたままです。フツーに女性が好きなあなたを満足なんてさせられませんし、あなた自身も気持ち悪い思いをするでしょう。悪い事は言いません、もう一度よく考え直して、生まれながらの女性とお付き合いする方が断然いいですよ。あなたは顔も良いし、すぐに見つかります。」
「褒めていただき光栄です。でも、大丈夫です。前にも申しましたが、私は面食いでね。
あなたの顔の美しさに心を奪われたのです。それからすれば、他の事等どうでもいいし、極々小さな事ですよ。」
「桐山さん、あなたの話が全て本当だとして、私があなたの求めに応じたら、奈々に近づかないと約束できますか?
よくよく考えたら何の保証もない話じゃないですか。」
「吉岡さん、私はあなたが思うほど悪人じゃないですよ。
ちゃんと約束は守ります。その点は信じてもらうしかないんですがね。
さあ、今のこの状況をどう転ばせるかはあなたに決定権があります。私はそれに従うだけですよ。」
桐山の言葉に、智は暫く何も反論せず、沈黙の中、時間が経過した。だが、智は顔を上げ、桐山を見つめると
「わかりました。あなたの提案を受け入れます。その代わり、二度と奈々に近づかないと約束して下さい。」
と、しっかりとした口調で言い切った。
「ありがとうございます。約束は守りますよ、神に誓っても。」
桐山は笑みを浮かべながら智に言った。
信用など出来るわけがない。けれども信用するしかない、奈々を守るには‥
智は諦めと強い意思の狭間の中にいた。
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