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告白

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奈々と待ち合わせをしたのは、智が現在住んでいる家の最寄駅の中に入るファーストフード店にした。

智が店内に入ると、奥の方の席に奈々が座っていた。
そして、隣には二歳くらいの女の子が子供用の椅子に座らされていた。
自分と離婚して子供が出来たのかと、智は自分がしてあげられなかった事が叶ってよかったと、二人を見て思った。
奈々はあの頃と何も変わっておらず今も美しい。
ニューハーフになってみて、あらためて奈々の自然の美しさを認識する事が出来た。

そんな思いに包まれながら奈々達の方に近づいていく智だったが、視線が合っても奈々はその女性が元の夫だとは気づく素振りも見せなかった。

「お待たせ。」

間近まで来て、ようやく智が声をかけた。
奈々はきょとんとした表情で智を見つめるだけだった。
隣の子供はというと、人見知りしない様子で智を見て笑った。

そこからのリアクションは姉や友人達とほぼ同じで、ある程度落ち着ける時間が経ってから、智は離婚してから現在に至るまでの話を奈々にした。
話の内容に理解したのかしてないのか、智の変わり果てた姿に言葉を失った奈々であったが、気を取り直して話を始めた。


「智、ごめん、こんな事頼める筋合いはないのは重々わかってるんだけど、お金を貸してもらえないかな」


「お金??いいけど、いくらくらい必要?」

「できたら50万」

「いいよ、すぐに用意するよ」

「ありがとう」

そう言うと、奈々は安堵した表情を浮かべ、顔を押さえて泣き出した。

自分の元の夫がニューハーフになった事は相当インパクトのある事なのに、そのリアクションもそこそこに切羽詰まった様子でお金を無心する元妻に、智は事態の深刻さを見る事ができた。

「奈々、ワタシが聞く権利はないと思うんだけど、よかったら何があったか話してくれる?」

言葉遣いには注意しようと心に決めてきた智だったが、ついついワタシと言ってしまった。だが、そんな事にも奈々は気にせず、話を始めた。

「うん。実は、智と別れてから、すぐに同棲を始めたの。」

「あの時の人?」

「そう。最初は優しかったの。

でも、莉愛が生まれてから何もかもが変わってしまって。
イライラして、当たり散らすことが多くなって、段々暴力を振るわれるようになっていたったの。」

「えっ」

「莉愛がいるし、私も自立出来ないし耐えるしかないって自分に言い聞かせて頑張ってた。ちょうどその頃、うちのお父さんの会社が倒産して実家も大変で頼れなくて。」

「そうだったんだ‥‥でも、なんで旦那さんは豹変しちゃったの?」

「彼も智に負けず劣らずのエリートで人生負け知らずって感じだったんだけど、仕事で大きな失敗をしたらしくて、それと、やっぱり一番の原因は莉愛の事が引っかかってたみたい。」

「どういうこと?」

「莉愛は彼との間の子供じゃないの」

「えっ、それって」

「うん、智との間に出来た子」

「ま、まさか」

「別に責任取って欲しいとかじゃないから安心して。
私もそれは納得の上での事だったし、彼にもそれは告げて、了解してもらってた事だから」

義務的に行っていたセックスで、奈々を妊娠させ、自分の知らないところで出産していた。
智はあまりの出来事に愕然とした。


「ワタシの子供‥」

もはや父親としての責任を果たせる肉体ではない。性別すら変わってしまっている。

「ホントにその事はいいの。今はただ、あの地獄から逃げ出したくて、どこかに身を隠すためのお金を貸してもらえたらって」

「お金はもちろんだけど、もう、あっちに未練はないの?」


「ないわ、莉愛の事もあったから籍も入れてないし。
身の危険を感じるようになってきた今、この子だけはどうしても守りたいの。」

「奈々、それだったら話は早いわ、ウチに来なよ。引っ越してそんなに広いとこには住んでないけど、環境が落ち着くまでいくらでもいてくれたらいいから。」

「そんなの悪いよ。智も自分の生活があるんでしょ?彼氏とか来たりしたらややこしくなるし」

「そんなのいないから大丈夫。性転換はあくまでも自分の変身願望を満たすだけのものだし、男の人との恋愛には全然興味ないから。
とにかく、危険を回避しないとダメだよ。見つかったら大変な事になっちゃう。一人より、こんなオカマでも少しは役に立てるから」

智は少し笑みを浮かべて言った。

「ありがとう、智、お言葉に甘えさせてもらってもいいかな」

奈々は申し訳なさげに言うと、また涙を流した。
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