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懐柔編
緩衝地帯
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薫と亮輔は西長堀駅のの2番出口を降り、南巽行きの地下鉄に乗った。
「薫さん、何食べたい?」
「え、ワタシは何でも大丈夫ですよ。」
「ねえ、何か今日は飲みたい気分なんだけど、お酒出す店でもいい?」
「ええ。それは…」
「じゃあ、宗右衛門町の方に行こうよ。
良いお店知ってんのよ、ワタシ。」
亮輔からの提案に、頷いた薫だったが、漠然と嫌な予感がした。
「沙織さん、今はあっち方面に行くの…
まずくないですか?」
「えっ、抗争の件?」
「そうです。
神頭会の構成員が殺されたのもあの辺でしょ?
ちょっと危ない気がします。」
「大丈夫よ。
そのお店、ウチの人の知り合いでね。
会員制だし、お客さんの筋もすごくいいのよ。
それでも心配だったら、若い衆に来てもらうわ。」
「いえ、そこまでは…」
結局、薫は断りきれずに、亮輔に連れられてその店に行く事になった。
「今川」というその店は、飲食店などが入ったビルの五階にあり、寿司屋という形態を取ってはいるが、寿司を肴に酒も楽しめるバーでもあり、完全予約制且つ会員制で運営されていた。
「大将、予約なしでいきなり電話しちゃってごめんね。」
亮輔は薫と横並びに座りながら、カウンター越しに立つ大将に詫びた。
「いえ、この時間は予約入ってませんでしたんで、大丈夫ですよ。」
「ありがとう。」
「おまかせで始めさせてもらってもよろしいですか。」
「うん。お願いします」
大将は丁寧に前にあるまな板を拭き、準備を始めた。
一見して高級そうな店に圧倒され、緊張して表情が固まる薫だったが、それを見越してか、亮輔がいつもより饒舌に会話の主導権を握った。
「ねえ、薫さん
ラーメン屋の方は順調なの?」
「ええ。おかげさまで。
結構常連さんも付いてもらえて、いつも営業時間中にスープが無くなりますので、早めに店を閉める状況になってます。」
「そうなの?
それは何よりね。
多喜にその辺りの才能があったとは、思ってもみなかったわ。」
「しんちゃん…
あ、いえ、主人は何をするにもマジメに取り組むので、たとえ他の仕事を選んでいたとしても、それなりにいけたんじゃないかって思います。」
「相変わらずラブラブだね。」
「はい。
心から愛しています。」
薫は照れる事なく、淀みのない言葉で亮輔に伝えた。
「ワタシも状況が落ち着いたらお店でも始めようかなあ。」
「何のお店ですか?」
「小ぢんまりとした小料理屋みたいなの、何かいいと思わない?」
「はい。すごくいいと思います。」
薫はそう答え、深く頷いた。
「薫さん、何食べたい?」
「え、ワタシは何でも大丈夫ですよ。」
「ねえ、何か今日は飲みたい気分なんだけど、お酒出す店でもいい?」
「ええ。それは…」
「じゃあ、宗右衛門町の方に行こうよ。
良いお店知ってんのよ、ワタシ。」
亮輔からの提案に、頷いた薫だったが、漠然と嫌な予感がした。
「沙織さん、今はあっち方面に行くの…
まずくないですか?」
「えっ、抗争の件?」
「そうです。
神頭会の構成員が殺されたのもあの辺でしょ?
ちょっと危ない気がします。」
「大丈夫よ。
そのお店、ウチの人の知り合いでね。
会員制だし、お客さんの筋もすごくいいのよ。
それでも心配だったら、若い衆に来てもらうわ。」
「いえ、そこまでは…」
結局、薫は断りきれずに、亮輔に連れられてその店に行く事になった。
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「大将、予約なしでいきなり電話しちゃってごめんね。」
亮輔は薫と横並びに座りながら、カウンター越しに立つ大将に詫びた。
「いえ、この時間は予約入ってませんでしたんで、大丈夫ですよ。」
「ありがとう。」
「おまかせで始めさせてもらってもよろしいですか。」
「うん。お願いします」
大将は丁寧に前にあるまな板を拭き、準備を始めた。
一見して高級そうな店に圧倒され、緊張して表情が固まる薫だったが、それを見越してか、亮輔がいつもより饒舌に会話の主導権を握った。
「ねえ、薫さん
ラーメン屋の方は順調なの?」
「ええ。おかげさまで。
結構常連さんも付いてもらえて、いつも営業時間中にスープが無くなりますので、早めに店を閉める状況になってます。」
「そうなの?
それは何よりね。
多喜にその辺りの才能があったとは、思ってもみなかったわ。」
「しんちゃん…
あ、いえ、主人は何をするにもマジメに取り組むので、たとえ他の仕事を選んでいたとしても、それなりにいけたんじゃないかって思います。」
「相変わらずラブラブだね。」
「はい。
心から愛しています。」
薫は照れる事なく、淀みのない言葉で亮輔に伝えた。
「ワタシも状況が落ち着いたらお店でも始めようかなあ。」
「何のお店ですか?」
「小ぢんまりとした小料理屋みたいなの、何かいいと思わない?」
「はい。すごくいいと思います。」
薫はそう答え、深く頷いた。
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