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懐柔編

非力学

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実戦形式の組み手稽古をする薫と未来は、激しく打ち合いを行った。


「押忍!」

組み手を終え、一礼すると未来は驚きの表情で薫に言った。

「薫さん、スゴイです。

蹴りも突きもめちゃくちゃ強いです!」


「ううん。
まだ未来ちゃんほど力強く打てないし、全然よ。」


「何言ってるんですか
薫さんの正拳突き、マジでヤバいですよ
ホントに。」

二人でそんな話をしていると、一人で稽古をしていた亮輔が話に入ってきた。

「二人共すごいわねえ

ワタシなんていくら頑張っても全然よ。」

亮輔は首を竦めて悲しげな顔をした。


「沙織さんは仕方ないですよ。
性転換薬使ってるんだから。

筋力がすごく落ちるんでしょ?」


薫がタオルで顔を拭きながら聞くと、亮輔は頷いた。


「そうね。

ホントに自分でもビックリするくらい力が無くなっちゃったよ。」


「完全なる女性になれるっていうメリットもありますけどね。」


「そこはね。

でも、今抗争中じゃない?
大西から一旦男に戻れって言われちゃったわ。」


「えっ、男に戻るんですか?」


「戻るんなら女のままでこんなところに稽古にこないわよ。

男になんて戻りたくないから、なんとか女の体のままで鍛えようとしてるの。」


「沙織さんてワタシや薫さんみたいなニューハーフじゃなくて、フツーの男の人だったのに、そんな風に思うようになるんですね。」


未来は亮輔の話に少し驚きながら言った。


「たしかに、多村に無理矢理去勢させられてニューハーフにされた時はそんな考えはなかったけど、徐々に心境の変化があったっていうか…
決定的だったのは、やっぱりこの性転換薬で女になったことね。

あのイケイケヤクザの多村だって今も女のままでいるところを見ると、やっぱりそういうことなんだろうなって思う。」


「そうですね…」

薫も未来も神妙な顔で頷いた。


「ところで、未来ちゃん
垂水の七代目とは上手くやれてるの?」


「はい、おかげさまで。」


「それは何よりね。
薫さん、多喜も変わりない?」


「ええ。
ワタシの後輩だったニューハーフの子が店でバイトしてくれてて、彼もワタシもすごく助かっています。」


「多喜はヤクザだった事が信じられないくらいマジメな男だから、たまにカチンとくる時もあると思うけど、見捨てないでやってね。」


「はい。でも、見捨てるなんてとんでもないです。
彼のことを心から愛していますし、ワタシが捨てられないようにもっと尽くしていきたいって思ってます。」

薫は少し恥ずかしがりながらも、堂々とした口調で惚気た。

三者三様に幸せいっぱいだった。

このときまでは…


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