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代理戦争編
逃避行
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綾香は後方から聞こえる銃声に、一瞬ビクッとしたが、走る速度は緩めずそのまま突っ切ると、地下鉄の降り口を見つけた。
そして、階段を下り、改札を抜け、丁度到着していた四つ橋線西梅田行きに飛び乗ると、息を切らしながら、車内の路線案内を見つめた。
(大国町で御堂筋線に乗り換えて、そのまま新大阪駅に)
心の中でそう反芻すると、少しだけ落ち着きを取り戻した。
予定通り大国町で下車すると、向かい側に御堂筋線も入線してきており、スムーズに新大阪行きに乗る事が出来た。
大阪で一番混雑するといわれる御堂筋線だが、時間帯と千里中央行きではなく新大阪行きだったこともあり、車内は空いており、綾香は椅子に腰掛けることが出来た。
額の汗を拭おうとバックからハンカチを取り出したが、その手はガタガタと震え、日頃の彼女からは考えられないほど取り乱し、動揺している事が窺えた。
二十分ほどで新大阪駅に到着すると、綾香は改札を通り、小走りで新幹線乗り場に向かった。
やたらと遅いエスカレーターに乗り、イライラしながら新幹線中央改札口に上がってきた綾香は、亮輔の姿を探した。
きっと亮輔は来ているはず
確信めいたものを持って辺りを見回す綾香だったが、その姿は何処にもなかった。
しくじった?
綾香は心配しながらも時計を見た。
約束の時間までまだ三十分以上ある。
ギリギリまで待つべきだ。
そこまで待って来なければ、自分一人で出発するしかない。
もはや沢木のところに戻るわけにはいかない。
多喜と一緒にいるところを赤石に目撃されているはずで、今度こそ言い訳が出来ない。
「亮ちゃん、早く来て…」
祈るような気持ちでもう一度全方向に視線をやる綾香だったが、自分と同じように左の方からキョロキョロしながら歩いてくる女性がいた。
「あっ」
声をかけようとした綾香だったが、よく見ると似ているが別人だった。
第一にその女性は背が低かったのである。
落胆した綾香はまた違う方向に視線を向けた。
しかし、その女性は綾香の方を見つめて近づいて来たのである
「綾香!」
と、言いながら。
「亮ちゃん!?」
「綾香、無事に逃げ切れたのね。」
「亮ちゃん、なんで背が低くなってるの?」
「性転換薬を打たれて、体つきが変わったのよ。」
亮輔は多村からの罰で女性ホルモンの投与を受け、胸にシリコンを入れられ、睾丸の摘出もされていた。
おまけに声帯の手術までされて、声が甲高くなっていたのだが、今の亮輔は以前のような不自然な高い声ではなく、ごく普通の若い女性の声をしていた。
「綾香、そんなことより多喜は?」
「…、沢木の赤石ってやつの車に追いかけられて、私だけ降ろされて一人でここまで来たの。
多喜さんがその後どうなったかわからない…
でも、車を降りて走ってる時に銃声が聞こえたわ」
綾香の言葉に亮輔の表情はみるみる曇っていったが、気を取り直すと、綾香の手を取り
「綾香、多喜はきっと大丈夫よ。
今は自分達の安全を第一に考えましょ。」
そう言って新幹線の切符を綾香に手渡した。
「三分後に発車するのぞみがあるわ!
早く!」
二人は21番線から博多行きののぞみに乗り、西へと向かっていくのだった。
そして、階段を下り、改札を抜け、丁度到着していた四つ橋線西梅田行きに飛び乗ると、息を切らしながら、車内の路線案内を見つめた。
(大国町で御堂筋線に乗り換えて、そのまま新大阪駅に)
心の中でそう反芻すると、少しだけ落ち着きを取り戻した。
予定通り大国町で下車すると、向かい側に御堂筋線も入線してきており、スムーズに新大阪行きに乗る事が出来た。
大阪で一番混雑するといわれる御堂筋線だが、時間帯と千里中央行きではなく新大阪行きだったこともあり、車内は空いており、綾香は椅子に腰掛けることが出来た。
額の汗を拭おうとバックからハンカチを取り出したが、その手はガタガタと震え、日頃の彼女からは考えられないほど取り乱し、動揺している事が窺えた。
二十分ほどで新大阪駅に到着すると、綾香は改札を通り、小走りで新幹線乗り場に向かった。
やたらと遅いエスカレーターに乗り、イライラしながら新幹線中央改札口に上がってきた綾香は、亮輔の姿を探した。
きっと亮輔は来ているはず
確信めいたものを持って辺りを見回す綾香だったが、その姿は何処にもなかった。
しくじった?
綾香は心配しながらも時計を見た。
約束の時間までまだ三十分以上ある。
ギリギリまで待つべきだ。
そこまで待って来なければ、自分一人で出発するしかない。
もはや沢木のところに戻るわけにはいかない。
多喜と一緒にいるところを赤石に目撃されているはずで、今度こそ言い訳が出来ない。
「亮ちゃん、早く来て…」
祈るような気持ちでもう一度全方向に視線をやる綾香だったが、自分と同じように左の方からキョロキョロしながら歩いてくる女性がいた。
「あっ」
声をかけようとした綾香だったが、よく見ると似ているが別人だった。
第一にその女性は背が低かったのである。
落胆した綾香はまた違う方向に視線を向けた。
しかし、その女性は綾香の方を見つめて近づいて来たのである
「綾香!」
と、言いながら。
「亮ちゃん!?」
「綾香、無事に逃げ切れたのね。」
「亮ちゃん、なんで背が低くなってるの?」
「性転換薬を打たれて、体つきが変わったのよ。」
亮輔は多村からの罰で女性ホルモンの投与を受け、胸にシリコンを入れられ、睾丸の摘出もされていた。
おまけに声帯の手術までされて、声が甲高くなっていたのだが、今の亮輔は以前のような不自然な高い声ではなく、ごく普通の若い女性の声をしていた。
「綾香、そんなことより多喜は?」
「…、沢木の赤石ってやつの車に追いかけられて、私だけ降ろされて一人でここまで来たの。
多喜さんがその後どうなったかわからない…
でも、車を降りて走ってる時に銃声が聞こえたわ」
綾香の言葉に亮輔の表情はみるみる曇っていったが、気を取り直すと、綾香の手を取り
「綾香、多喜はきっと大丈夫よ。
今は自分達の安全を第一に考えましょ。」
そう言って新幹線の切符を綾香に手渡した。
「三分後に発車するのぞみがあるわ!
早く!」
二人は21番線から博多行きののぞみに乗り、西へと向かっていくのだった。
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