ニューハーフ極道ZERO

フロイライン

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代理戦争編

千載一遇

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チャンスは突然に訪れた。

多村が体調不良を訴え、その日の午後、急遽入院する事になったのだ。

「専務、社長の容態は?」

病院に駆けつけた多喜が聞くと、待合室の椅子に腰掛けていた亮輔は表情を変えず

「大した事ないわ、胃潰瘍よ。
しばらく絶飲絶食だけど、手術する必要はないみたい。」

と、淡々と述べた。

「そうですか。なんか悪い病気じゃないかと心配しましたよ。」


「という事で、帰るわよ。」

「えっ?」

「このご時世よ。病院に泊まりで看病なんて出来ないもの。」


「そうですね。ご自宅までお送りします。」


多喜は車のキーを取り出して解錠すると、後部座席のドアを開けて亮輔を座らせた。

自らも運転席に乗り込み、エンジンをかけると、左右に視線を送り、ゆっくりと病院の駐車場から車を出した。

しばらく車を走らせると、赤信号となり、サイドブレーキをかけた多喜に、亮輔は身を乗り出して顔を近づけ、囁くように言った。

「多喜、今夜、例の病院に行って男に戻してもらうわ」

「えっ?」

「チャンスは今日しかないわ。綾香にも病院にも既に連絡してあるわ。」

「でも…」

「大丈夫、きっと上手くいくわ」

「俺は何をすれば?」

「男に戻るのはそんなに難しい事じゃないんだけど、問題はコレ」

亮輔は自分の乳房を両手で掴んだ。

「ワタシ、豊胸してるのよ。

だから、先ずはシリコンの摘出手術をしなきゃなんないのよ。
それから注射って流れ。

手術後、すぐには動けないから、そこで多村の手の者に捕まったらジ・エンドよ。

多喜にはその間、ワタシのボディーガードをお願いしたいの。」

信号が変わり、多喜は車を発進させながら、ルームミラーに映る亮輔を見つめた。車内という密室空間で、誰も聞いてないという安心感から、多喜の口調が変わった。

「亮輔、綾香さんは?」

「勿論一緒よ。そのまま二人で遠くまで逃げるわ。」

「事はそんな簡単な話じゃねえよ。

綾香さんは沢木組が囲ってる女だぞ。
下手すりゃ、お前や綾香さんは二つの組から追われるハメになる。」

「覚悟の上よ」

「…

わかった。手伝うよ
でも、そうなったら俺もタダじゃ済まねーし…
俺も薫を連れて逃げる事にする。」

「ごめんね、多喜
変な事に巻き込んじゃって」

「いや、俺もきっかけが欲しかったんだと思う。
だから、これは俺にとってもチャンスなのかもしれない」

多喜は自分に言い聞かせるように頷きながら呟いた。
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