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鹵獲編
凶行
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綾香の車が地下駐車場に降りて来た。
「片山、行くぞ」
大西と片山を乗せたワンボックスカーは、ぴったりと綾香の後ろに付き、そのまま薄暗い中を進んだ。
「段取り通りいくぞ。女が車を降りたところで、このスタンガン、そしてコイツを嗅がして眠らせて車に運び込む。
とにかく、手早くやるからな。」
大西は緊張感をもって、綾香が車を駐車させるところを窓の中から見守っていた。
「よし、行くぞ!」
大西が声を上げた瞬間、助手席にいた片山が
「ちょっと待て!」
と、制止した。
「誰か来た‥」
それは、彼女の隣りにやって来た車の存在に気付いたからだ。
大西らの車は筋を挟んで向かい側に停車させており、その二台の姿はよく見通せた。
「ちょっと様子を見よう。」
片山は、そう言って前方の光景に注視した。
「綾香さん、勝手に出かけてもろたら困りますわ。」
綾香の隣りの車から、功太が降りて来て言った。
「沢木の人?
もう、遅いよ。なんで今なのよ!」
「そんなん言わんとって下さいよ。組からは行かんでええって指示やったのを、何となく気になって見に来たんですから」
そう言いながら、功太は周りをぐるりと見渡した。
そして、前方に停車している、明らかに不自然な車にも、鋭い視線を送った。
「ちっ、クソ
目が合っちまった。早く車を出せ」
片山は苛立った口調で、運転手の男に言った。
外に出て来た大西らは、車を走らせ、その場を立ち去った。
「帰るところをもう一回襲いますか?」
片山が後部座席の方に視線をやりながら質問すると、大西は首を横に振った。
「今の男、多分、沢木組の者に違いない。
最近、見張りが付いていないって話だったにもかかわらず、俺たちが襲う寸前の良いタイミングで現れやがった。
多分、情報が漏れてたと考えるのがフツーだ。
オヤジにこの件を報告し、指示を待とう。」
「なんだと!」
大西の連絡を受けた多村は、怒りに満ち満ちた表情になり、机を叩いた。
「どうしたんですか?」
亮輔が聞くと、多村はその表情を観察するように、じっと見ながら言った。
「綾香の元に沢木組が駆け付けたらしい。」
「えっ」
亮輔も多喜も、ホッと胸を撫で下ろした。もちろん表情は変えず、内心だけ、ではあるが。
「おかしいよなあ、まるで、こっちの計画が漏れてたみたいに、タイミングが良すぎる。
こんな事あるんだなあ、亮輔。」
「‥そうですね。」
亮輔はなるべく表情に出さないよう、敢えて落ち着いた口調で答えた。
「まあ、いい。これも折り込み済みだ。
小手先の事ばっかしてるから、こうなっちまう。
木の実が食いたくなったら、その大木ごと倒しちまうのが俺のやり方よ。」
すかさず多喜が口を挟む。
「どういう事ですか?」
「沢木と戦争するんだよ。真正面からな。」
「そんな事したら、警察に組が潰されちまいます。
いや、警察が動く前に垂水組が出てくるかも‥」
「そんな事は百も承知だ。
二手、三手先を読めなきゃあ戦争も金儲けも出来ねえってことだ。」
多村は、少し冷静な口調に戻り、不敵な笑みを浮かべた。
「片山、行くぞ」
大西と片山を乗せたワンボックスカーは、ぴったりと綾香の後ろに付き、そのまま薄暗い中を進んだ。
「段取り通りいくぞ。女が車を降りたところで、このスタンガン、そしてコイツを嗅がして眠らせて車に運び込む。
とにかく、手早くやるからな。」
大西は緊張感をもって、綾香が車を駐車させるところを窓の中から見守っていた。
「よし、行くぞ!」
大西が声を上げた瞬間、助手席にいた片山が
「ちょっと待て!」
と、制止した。
「誰か来た‥」
それは、彼女の隣りにやって来た車の存在に気付いたからだ。
大西らの車は筋を挟んで向かい側に停車させており、その二台の姿はよく見通せた。
「ちょっと様子を見よう。」
片山は、そう言って前方の光景に注視した。
「綾香さん、勝手に出かけてもろたら困りますわ。」
綾香の隣りの車から、功太が降りて来て言った。
「沢木の人?
もう、遅いよ。なんで今なのよ!」
「そんなん言わんとって下さいよ。組からは行かんでええって指示やったのを、何となく気になって見に来たんですから」
そう言いながら、功太は周りをぐるりと見渡した。
そして、前方に停車している、明らかに不自然な車にも、鋭い視線を送った。
「ちっ、クソ
目が合っちまった。早く車を出せ」
片山は苛立った口調で、運転手の男に言った。
外に出て来た大西らは、車を走らせ、その場を立ち去った。
「帰るところをもう一回襲いますか?」
片山が後部座席の方に視線をやりながら質問すると、大西は首を横に振った。
「今の男、多分、沢木組の者に違いない。
最近、見張りが付いていないって話だったにもかかわらず、俺たちが襲う寸前の良いタイミングで現れやがった。
多分、情報が漏れてたと考えるのがフツーだ。
オヤジにこの件を報告し、指示を待とう。」
「なんだと!」
大西の連絡を受けた多村は、怒りに満ち満ちた表情になり、机を叩いた。
「どうしたんですか?」
亮輔が聞くと、多村はその表情を観察するように、じっと見ながら言った。
「綾香の元に沢木組が駆け付けたらしい。」
「えっ」
亮輔も多喜も、ホッと胸を撫で下ろした。もちろん表情は変えず、内心だけ、ではあるが。
「おかしいよなあ、まるで、こっちの計画が漏れてたみたいに、タイミングが良すぎる。
こんな事あるんだなあ、亮輔。」
「‥そうですね。」
亮輔はなるべく表情に出さないよう、敢えて落ち着いた口調で答えた。
「まあ、いい。これも折り込み済みだ。
小手先の事ばっかしてるから、こうなっちまう。
木の実が食いたくなったら、その大木ごと倒しちまうのが俺のやり方よ。」
すかさず多喜が口を挟む。
「どういう事ですか?」
「沢木と戦争するんだよ。真正面からな。」
「そんな事したら、警察に組が潰されちまいます。
いや、警察が動く前に垂水組が出てくるかも‥」
「そんな事は百も承知だ。
二手、三手先を読めなきゃあ戦争も金儲けも出来ねえってことだ。」
多村は、少し冷静な口調に戻り、不敵な笑みを浮かべた。
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