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新田薫編
偶然の確率
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「あっ」
昼過ぎにスーパーで買い物をしようとエレベーターに乗った薫は、六階から乗ってきた多喜と顔を合わせた瞬間、驚きの声を上げた。
「昨日はどうも」
多喜もビックリして、目を白黒させながら挨拶をした。
「こちらの方こそ、本当に有難うございました。」
二人とも同じスーパーに行くということで、また驚きの声を上げた。
「今まで、会った事もなかったのに、二日連続で‥なんか面白いっすね。」
「そうですね。ホントは会ってたかもしれないですけど。」
二人は心地良い会話をしながら、スーパーまでの十分ほどの道中を歩いていった。
「なんか、俺、ストーカーみたいっすね。
ホント偶然なんで、信じて下さい。」
「そんな事思ってないですよ。」
薫は口に手を当て、声を出して笑った。
「俺、水商売してて、いつも帰るの夜中なんすよ。日曜日くらいはちゃんと自炊しないとって、買い物するんです。」
「あ、私もそうですよ。お休みの日は少し料理頑張るって決めてて。」
「ミナミのcool girlsってキャバで雇われ店長してるんです。毎日夜が遅くてね。もう一年になるかなあ。」
「えっ、めっちゃご近所ですね。ワタシはbigっていうお店です。」
薫は、既に多喜の事が気になり始めている自分に気付いていた。
このままいくと、好きになり、そして、辛い結末を迎えるのが目に見えていた為、敢えて自分がニューハーフだということを、店の名前を伝えて多喜にわからせようとしたのだった。
「新田さんてニューハーフさんなんですか?」
「あ、そうです。気持ち悪くてすみません‥」
「いや、そんなことないです。俺の親友もニューハーフになったんすよ。だから、いつも身近に感じてて。」
「そうなんですか?」
「新田さんが美人なのには驚いてますけど、ニューハーフってことには全く驚いてないですよ。」
「気を遣わせちゃってすみません。」
「いえ、気なんて全然。」
そんな会話を交わしているうちにスーパーに着き、二人はそこで別れた。
互いに、帰りも一緒だと良いな、なんて思いながら、スーパーの中を歩いていたが、買い物については、どうしても薫の方が長くかかり、多喜はその半分の時間で終えた。
多喜の方も、すっかり薫の事が気になる存在となっていた為に、外で薫が出てくるのを待つ事にした。
薫がまだ買い物中であるという事を目視で確認した上で。
待つ事およそ二十分、薫が袋を二つ持って出てくると、声をかけた。
「やっぱり、ストーカー気質があるみたいです、俺」
薫は、自分の正体を告げたにもかかわらず、自分を待っていた多喜に対し、この時点で、完全に心を奪われてしまった。
「一年も住んでて、昨日まで新田さんの存在を知らなかったなんて、俺も見る目ないですよね。」
「ワタシは一年三ヶ月ですよ。ワタシの方こそ見る目ゼロです。」
二人は遠回しに、好意がある事を伝え合った。
多喜はそれだけでは不安に思ったのか、マンションに着いて、一階でエレベーターを待っている間に
「新田さん、昨日言ってたラーメンの話。
今度本当に行きませんか。」
と、思いきって誘った。
「是非。ワタシにご馳走させて下さい。」
それを聞いた薫も、勇気を出して踏み込んだ返事をした。
「それと‥
よかったら、LINE交換してくれませんか。」
薫の反応に少し自信を持った多喜は、ここで勝負に出た。
「はい。是非」
薫がこう返事するのは、ある程度予測出来た話だったが‥
昼過ぎにスーパーで買い物をしようとエレベーターに乗った薫は、六階から乗ってきた多喜と顔を合わせた瞬間、驚きの声を上げた。
「昨日はどうも」
多喜もビックリして、目を白黒させながら挨拶をした。
「こちらの方こそ、本当に有難うございました。」
二人とも同じスーパーに行くということで、また驚きの声を上げた。
「今まで、会った事もなかったのに、二日連続で‥なんか面白いっすね。」
「そうですね。ホントは会ってたかもしれないですけど。」
二人は心地良い会話をしながら、スーパーまでの十分ほどの道中を歩いていった。
「なんか、俺、ストーカーみたいっすね。
ホント偶然なんで、信じて下さい。」
「そんな事思ってないですよ。」
薫は口に手を当て、声を出して笑った。
「俺、水商売してて、いつも帰るの夜中なんすよ。日曜日くらいはちゃんと自炊しないとって、買い物するんです。」
「あ、私もそうですよ。お休みの日は少し料理頑張るって決めてて。」
「ミナミのcool girlsってキャバで雇われ店長してるんです。毎日夜が遅くてね。もう一年になるかなあ。」
「えっ、めっちゃご近所ですね。ワタシはbigっていうお店です。」
薫は、既に多喜の事が気になり始めている自分に気付いていた。
このままいくと、好きになり、そして、辛い結末を迎えるのが目に見えていた為、敢えて自分がニューハーフだということを、店の名前を伝えて多喜にわからせようとしたのだった。
「新田さんてニューハーフさんなんですか?」
「あ、そうです。気持ち悪くてすみません‥」
「いや、そんなことないです。俺の親友もニューハーフになったんすよ。だから、いつも身近に感じてて。」
「そうなんですか?」
「新田さんが美人なのには驚いてますけど、ニューハーフってことには全く驚いてないですよ。」
「気を遣わせちゃってすみません。」
「いえ、気なんて全然。」
そんな会話を交わしているうちにスーパーに着き、二人はそこで別れた。
互いに、帰りも一緒だと良いな、なんて思いながら、スーパーの中を歩いていたが、買い物については、どうしても薫の方が長くかかり、多喜はその半分の時間で終えた。
多喜の方も、すっかり薫の事が気になる存在となっていた為に、外で薫が出てくるのを待つ事にした。
薫がまだ買い物中であるという事を目視で確認した上で。
待つ事およそ二十分、薫が袋を二つ持って出てくると、声をかけた。
「やっぱり、ストーカー気質があるみたいです、俺」
薫は、自分の正体を告げたにもかかわらず、自分を待っていた多喜に対し、この時点で、完全に心を奪われてしまった。
「一年も住んでて、昨日まで新田さんの存在を知らなかったなんて、俺も見る目ないですよね。」
「ワタシは一年三ヶ月ですよ。ワタシの方こそ見る目ゼロです。」
二人は遠回しに、好意がある事を伝え合った。
多喜はそれだけでは不安に思ったのか、マンションに着いて、一階でエレベーターを待っている間に
「新田さん、昨日言ってたラーメンの話。
今度本当に行きませんか。」
と、思いきって誘った。
「是非。ワタシにご馳走させて下さい。」
それを聞いた薫も、勇気を出して踏み込んだ返事をした。
「それと‥
よかったら、LINE交換してくれませんか。」
薫の反応に少し自信を持った多喜は、ここで勝負に出た。
「はい。是非」
薫がこう返事するのは、ある程度予測出来た話だったが‥
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yoshieeesan
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