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大阪抗争編
導火線
しおりを挟む翌朝、三人は立正会の事務所に行き、例の店の権利の売買契約を取り交わした。
「おおきに、多村はん、ワシもあんたに売る事が出来て嬉しいわ。よろしく頼んまっせ。」
立正会会長である山際清孝は、多村とガッチリ握手して満面の笑みを浮かべた。
「どうも有難うございます。立正会さんとさらなる友好関係を、こういう形で結べる事になり、私も本当に嬉しく思ってます。」
多村も笑みを浮かべた。
「しかし、多村はん。せっかく東京にしっかりとした基盤を持ってるのに、わざわざ経済規模の小さい大阪に出てくるのには、なんか意味ありまんのか?」
会長の弟である山際二郎が声をかけると、多村は首を横に振った。
「確かに東京と大阪では比べものにならんくらいの差があります。フツーで考えれば
東京で勢力を拡大する方が楽だと思うでしょう。しかし、東京には日本のヤクザだけではなく、外国マフィアが数多くいます。
アイツらの恐ろしいところは、モラルもクソもないところです。」
「なるほど」
「まあヤクザがモラルを唱える事自体間違ってるかもしれませんがね。 警察も我々に対しては厳しく取り締まりますが、アイツらに対しては野放し状態です。
東京で生き抜くにはアイツらと協力してジリ貧になるか、徹底的に戦うしかないんです。
私は目先を変えて生きる道を探したというのが本当のところです。」
「さすが経済ヤクザと呼ばれるだけはありまんなあ。」
山際清孝は感心して多村の言葉に耳を傾けた。
亮輔は多村の隣りで不安げな表情のまま、会話を聞いていた。
一々もっともらしい言葉を並べているが
そこに「綾香」というフレーズが加わった瞬間に、まともな思考でいられなくなる。
そして、その後に待っているのは泥沼の戦争…
最前線にいる多喜や自分が巻き込まれるのは必至の状況だ。亮輔が多喜の顔をチラッと見ると、多喜は正面の壁の一点を無表情で見つめていた。
彼もこの先に何が待っているのか想像出来ているのであろう。
無表情ではあるが、内面から滲み出る緊張感が、体全体を覆っているようだった。
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