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沢木組編
identity
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自分が他の子ども達と違うと気付いたのは、幼稚園の頃だった。
近所の女の子が持っている人形を欲しがったり、男の子の遊びに全然興味が持てなかったり‥
それが普通の事だと思ってたけど、両親は俺がそういう事をするのをすごく嫌がった。
特に厳しかった父は、軟弱な俺の性根を叩き直すとして、幼い時から空手や柔道などを習わせた。
自分が男らしくしないと、両親が悲しむ事を知った俺は、自分の気持ちに封印し、期待に応えるべく、武道の稽古に励んだ。
結果、小学生になると、俺は数々の大会で好成績を収め、地元でも有名な存在となっていった。
でも、心の中でずっと腑に落ちないものを持ち、日々、俺は苛立ちを感じるようになっていった。
歯車が狂い出したのは、中学に入ってすぐの事だった。
父が病気で亡くなったんだ。
忽ち生活が困窮し、習い事を全てやめ、近所で仲の良かった中華料理屋の出前のアルバイトをさせてもらい、家計の足しにした。
毎日を生きるのが精一杯になり、俺はいつしか、自分の本当の姿をどうのこうのと考える余裕も無くなり、少しは気を紛らわせる事が出来た。
再び転機が訪れたのは高校に入ってからだった。
一緒のクラスに俺と同じタイプの人間が存在したんだ。
悠生っていう名前のその少年は、心と体の性が一致しない、いわゆる性同一性障害に苦しんでいた。
だけど、悠生は俺のように自分の本性を隠そうとせず、いや、隠しようがなかったのかもしれないけど、自分に正直に生きる事を選んだ。
そんな彼をクラスの連中は面白がって虐めるようになった。
俺はその虐めから、悠生を守ろうとして、間に入るようになり、悠生と仲良くなっていった。
悠生との出会いは、俺にとって、新鮮な衝撃を与えられる事ばかりで、忘れ去ろうとしていた本当の自分を取り戻すきっかけとなった。
俺は、母に偽らざる正直な気持ちを伝え、こらから前向きに生きて行こうと誓った。
しかし、母は父が死んでから塞ぎ込む事が多くなっており、金がないから医者にも診てもらわなかったんだけど、鬱病を発症させてたんだ。
そして、俺のカミングアウトがトドメとなって、しばらく経ったある日、母は首を吊って自殺してしまった。
俺が殺したようなものだった。
あんな事を言わなければ、母が死ぬ事もなかったのに‥
俺は高校を中退し、知り合いを頼って大阪に出てきて、夜の街でバーテンダーとして働き出した。
もう、本当の自分を出すとか出さないとかはどうでもよくなり、荒れた生活を送る日々が続いた。
そんな一番どん底にいるとき、客として来たのが沢木組長と小百合さんだった。
何故か二人とも俺の事を気に入ってくれて、沢木組に誘ってくれたんだ。
近所の女の子が持っている人形を欲しがったり、男の子の遊びに全然興味が持てなかったり‥
それが普通の事だと思ってたけど、両親は俺がそういう事をするのをすごく嫌がった。
特に厳しかった父は、軟弱な俺の性根を叩き直すとして、幼い時から空手や柔道などを習わせた。
自分が男らしくしないと、両親が悲しむ事を知った俺は、自分の気持ちに封印し、期待に応えるべく、武道の稽古に励んだ。
結果、小学生になると、俺は数々の大会で好成績を収め、地元でも有名な存在となっていった。
でも、心の中でずっと腑に落ちないものを持ち、日々、俺は苛立ちを感じるようになっていった。
歯車が狂い出したのは、中学に入ってすぐの事だった。
父が病気で亡くなったんだ。
忽ち生活が困窮し、習い事を全てやめ、近所で仲の良かった中華料理屋の出前のアルバイトをさせてもらい、家計の足しにした。
毎日を生きるのが精一杯になり、俺はいつしか、自分の本当の姿をどうのこうのと考える余裕も無くなり、少しは気を紛らわせる事が出来た。
再び転機が訪れたのは高校に入ってからだった。
一緒のクラスに俺と同じタイプの人間が存在したんだ。
悠生っていう名前のその少年は、心と体の性が一致しない、いわゆる性同一性障害に苦しんでいた。
だけど、悠生は俺のように自分の本性を隠そうとせず、いや、隠しようがなかったのかもしれないけど、自分に正直に生きる事を選んだ。
そんな彼をクラスの連中は面白がって虐めるようになった。
俺はその虐めから、悠生を守ろうとして、間に入るようになり、悠生と仲良くなっていった。
悠生との出会いは、俺にとって、新鮮な衝撃を与えられる事ばかりで、忘れ去ろうとしていた本当の自分を取り戻すきっかけとなった。
俺は、母に偽らざる正直な気持ちを伝え、こらから前向きに生きて行こうと誓った。
しかし、母は父が死んでから塞ぎ込む事が多くなっており、金がないから医者にも診てもらわなかったんだけど、鬱病を発症させてたんだ。
そして、俺のカミングアウトがトドメとなって、しばらく経ったある日、母は首を吊って自殺してしまった。
俺が殺したようなものだった。
あんな事を言わなければ、母が死ぬ事もなかったのに‥
俺は高校を中退し、知り合いを頼って大阪に出てきて、夜の街でバーテンダーとして働き出した。
もう、本当の自分を出すとか出さないとかはどうでもよくなり、荒れた生活を送る日々が続いた。
そんな一番どん底にいるとき、客として来たのが沢木組長と小百合さんだった。
何故か二人とも俺の事を気に入ってくれて、沢木組に誘ってくれたんだ。
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