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沢木組編
新田 薫
しおりを挟む「オヤジは?」
「またコレ(愛人)のところッスよ。」
山崎の問いに神田は小指を立てて答えた。
「抗争が激しゅうなっとるときやいうのに…
ホンマ、オヤジも好きやな。」
そこに、若頭の庄山 茂が入ってきた。
「おい、オヤジは?」
「はいっ。 例の阿波座の…」
庄山は忽ち険しい顔になった。
「で、誰が行っとるんや?」
「新田を付けてます。」
「そうか。薫やったら大丈夫やろ。」
庄山は頷いて事務所を出て行った。
沢木組組長 沢木健吾は こんな非常時でも女の家に通うほどのいわゆる好き者であった。
今日も若い衆を車で待たせ、阿波座に住む愛人の亜矢の部屋で二時間ほど情事を楽しんでいた。
新田薫が沢木の運転手役で駆り出されるようになってからもう二年になる。
薫は今二十歳で、十八で免許を取ってからずっとこの役をやらされているのだ。
車のシートを少し倒し、手を頭の後ろで組みながらあくびをして、沢木の帰りを待つ。
この繰り返しなのである。
しかし、一見のんびりとして楽なように見えるが、常に緊張感を持ちながら注意を払っていなければならない。
薫の携帯電話が鳴る。
「はい。」
「おう。帰るで」
沢木からだった。
薫は車を降りてマンションのエントランスまで行き、周囲を気にしながら沢木が出てくるのを待った。
しばらくすると、上機嫌の沢木が片手を上げながらエレベーターから出てきた。
薫は一礼して出迎えると、また辺りを見回しながら沢木を車に乗せた。
「どちらに行かれますか?」
「おう、家に向こうてくれ」
沢木はそう答えると後部座席でいびきをかいて眠ってしまった。
薫はルームミラーでそれを確認すると、少しだけ口元を緩めた。
だが、その目は無機質に乾き、すべての感情を失ってしまったかのような冷たさだった。
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