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顔合わせ

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「いかがでしたか? 温泉は。」 

迎えに来た男が二人の荷物を車に積みながら 
美沙子に聞いた。 

「ええ。本当に最高でした。 

親子でゆっくり出来る時間をいただいた上に 
送り迎えまでしてもらって、何とお礼を言っていいのか…」 

「今から家まで送らせていただきます。夜は社長が三人で食事をしたいと申しておりますので、また迎えに参ります。」 

「今日帰ってくるの?」 

亮輔は驚いて車のルームミラー越しに男を見た。 

「はい。やっと仕事が片付きましたので、今日東京の方に戻られます。」 

亮輔は多村に会えるのが素直に嬉しかった。 

こうして何日か会えない日が続くと無性に寂しくなるからだった。 

(でも、母ちゃんがいるからなあ…) 

ただ、今日は愛し合うことが出来ないのが 
少し残念に思ったが… 

家に着いて、少し休憩すると、また男が迎えにに来て車に乗り込んだ。 

「母ちゃん、疲れたんじゃない?」 

亮輔はハードスケジュールを心配して美沙子に声をかけた。 

「ううん。旦那さんに会えるのが 
楽しみだわ。ちょっと緊張してるけど。」 

美沙子は疲れた様子もなく、楽しそうに返事した。 

二人はかなり高級そうなイタリアンレストランの個室に通され、しばらく待っていると、多村が入ってきた。 

「遅くなって申し訳ない。」 

美沙子は慌てて立ち上がり、深々と頭を下げた。 

「これはお母さん、はじめまして、多村潔です。」 

「この度は色々と気を遣って頂いて有難うございます。亮輔の母の西堀美沙子です。」 

「西堀? 松山さんじゃないんですね。」 

「あ、母は再婚して西堀になったの。私はずっと松山を名乗ってるんだけど…」 

亮輔がすぐにフォローを入れた。 

「なるほど、そうでしたか。まあ、私も今回の結婚が二度目になります。ですが、お嬢さんを絶対に幸せに致しますので、それだけは信じて下さい。」 

押しの強い多村らしい台詞に、亮輔は妙に感心してしまった。 

「いえ。こちらこそ、宜しくお願い致します。何も出来ない子ですが、結婚式までに私が厳しく鍛えますので…」 

美沙子がそう言うと、多村は声を出して笑った。 つられて二人も笑い出した。
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