ニューハーフ極道ZERO

決意

「亮ちゃん… 来てくれてありがとう。 
マンションの下に見張りがいたでしょ？」 

「うん。オヤジは用心深いから。 
でも、気づかれないように入って来たよ。言われた通りの入り方でね。 
ところで、荷造りは済んだの？」 

「もう出来てるわ。」 

「じゃあ、私は何を手伝えばいいの？」 

「亮ちゃん… この服を着て。」 

綾香は紙袋を亮輔に手渡した。 

「これは…」 

紙袋の中には黒のキャミソールが入っていた。 

「そう。私が今着てるのと同じものよ。」 

「つまり…」 

「私が逃げる際に、亮ちゃんが見張りを引きつけて欲しいの。」 

多村が亮輔を綾香の影武者に仕立て上げたように、彼女もまた同じ使い方をしようと画策していたのだ。

「大丈夫かな…」 

「大丈夫よ。 背も顔も同じだし… 髪型やメイクも、昨日亮ちゃんに会って研究したし、完コピ出来てるでしょ。」 

「所詮、私は元男だし… そんなことで取り繕っても絶対バレるわよ。」 

亮輔が不安げに言うと、綾香はため息をついて首を横に振った。 

「亮ちゃん… 自分のことがわかってないわね。 
今の亮ちゃんは私なんかよりはるかにキレイだし魅力的だわ胸だってそうでしょ？」 

「これは豊胸手術で‥」 

「でも、最初は私の胸より小さかったわ。 
それが、どんどん成長して、今は亮ちゃんの胸の方が大きいもの。」 

「女性ホルモンは脂肪が付いちゃうから…」 

「まあ、いいわ。とにかく今夜だけは亮ちゃんの力が必要なの。これ以上は迷惑かけないから… お願い。」 

綾香は頭を下げた。 

「わかったわ。 私も性転換さえさせられなかったら綾香ときっと逃げてたと思うし… 協力させてもらうわ。」 

「ありがとう…亮ちゃん。」 

「じゃあ、準備を急ごう。」 

少しだけ、男時代の頼もしさを取り戻した亮輔は、綾香を見つめて頷いた。