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約束

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「有紀が来て半年か…」 

控え室にいたヒロミに向かって、槇村がぽつりと言った。 

「あそこまで稼ぐとは思わなかったんじゃない?」 

ヒロミはタバコをくゆらしながら片眉を上げて、槇村を横目で見た。 

「まあな。元極道だけあってガッツも相当なものだし、休みもあんまり取らねえもんな。」 

「ところでさあ、社長が肩代わりしたっていう有紀ちゃんの借金て、あといくら残ってるの?」 

ヒロミにそう聞かれた槇村は少し真剣な顔をして首を横に振った。 

「俺は肩代わりなんかしてねえよ。多村組長からあの子を預けられて働かせてるだけさ。」 

「えっ? じゃあ…」 

「有紀のモチベーションを下げちゃあダメだから一年頑張ったら自由の身だ、なんて言ってるけど、実際は多村組長が許しを出さない限り、有紀は絶対にここを抜けられねえ…」 

ヒロミは声を荒げて槇村に詰め寄った。 

「それはあまりにもヒドイんじゃない!? 
あの子が頑張って稼いだお金はどうなってんのよ!?」 

「こっちの取り分を差し引いて、残った金額の半分は多村組長に納めてるよ 。そこから有紀に二十万を渡し、余った分はちゃんとキープしてあるよ。 
多村組長の許しが出たときに、祝いとして全部有紀に渡すつもりさ。 
俺だって鬼じゃねえから…」 

「そうなの… 
社長、あんたもそんなに悪い人じゃなかったんだね…」 

ヒロミはホッとしたような表情で槇村を見つめた。 

「バ、バカ… そんなんじゃねえよ。 

アイツのおかげでウチもかなり儲けさせてもらってるからな。 
あくまでもビジネスライクに考えてるさ。 
しかし、逸材としか言いようがねえな。 
ここが出来たときから在籍してるお前が見ても、歴代一位の働きだろ?」 

「それは間違いないわね。 
でも… あの子は本来ここにいるべきじゃないのよ。早く抜けられたらいいわね…」 

ヒロミはしんみりした表情で言った。 

「まあな。でも、あの体じゃあ、極道… 
いや、男に戻って生活することは不可能だ。 
不本意だろうが、女として生きるしか道はねえだろうな。」 

槇村はそう言って、ヒロミの肩をポンと叩き 
部屋を出て行った。
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