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さよならの向こう側
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蒼が転院する日を迎えた。
親父は車椅子が乗せられる仕様の車を用意して上京してきており、福山まで車で帰ることにしたとの事だった。
蒼は福山の病院でリハビリを行い、社会復帰に向けて頑張らなければいけない。
倒れてここに運ばれてきて以来、蒼は化粧もせず、すっぴんのままだ。
でも、蒼は元々女顔をしているし、すっぴんでも全然綺麗だ。
たしかに、半身麻痺の影響で、顔も引き攣り、喋りにくい状況だが…
蒼の両親は、暫しの別れをする俺達の事を思い、席を外し、二人きりにしてくれた。
俺は、蒼のベッドの横の椅子に腰掛け、色んな話をした。
蒼は笑ったり、頷いたりしてくれたが、やはりすごく寂しそうで、今にも泣きそうな状態になっていた。
「愁ちゃん…」
「ん?どうした…」
「本当にありがとう。
短い間だったけど、大好きな愁ちゃんと一緒にいられて、本当に楽しくて幸せな日々だったよ。
ワタシにとって、キラキラしてて毎日が一生の宝物と言えるくらい、夢のような時間の連続だった。」
「相変わらず蒼は大げさだな。
でも、俺にとってもそうだよ。
蒼との時間はこれ以上のものはないってくらい幸せだった。」
「愁ちゃん
これはワタシの本心として言うんだけど…
実家に戻るのを機に、別れよう。
これ以上愁ちゃんに迷惑をかけたくないし、好きな人が苦しく思うのはワタシにとっても本意じゃないし…
これがいい機会だと思うから。」
「バカ、何言ってんだよ。
俺達は結婚すんだよ。
そんな話を聞けるわけねえじゃんか」
「ううん。それはワタシが倒れる前の話だし、今は状況がこうして変わってしまったの。」
やはりそう来たか…
「蒼、お前の親父さんも俺達の仲を認めてくれたんだぜ。
その上で俺も福山に来てくれないかって」
「えっ、お父さんが?」
「蒼に家業を継がせたいけど、俺が継いでもいいからって」
「そんなこと…」
「まあ、俺もまだ大学生だし、ちゃんと卒業もしときたいので、今すぐ福山に行く事は固辞させてもらったんだけど…
でもな、卒業したら福山で仕事を探そうと思ってんだ。
そしたら、また一緒に住めるだろ?」
「愁ちゃん…」
「って俺が言っても、蒼はネガティブだし、不安に思うかなって思うからさ、これ買ってきたんだよ。」
俺はポケットから小さな箱を出し、中身を見せた。
「これは?」
「結婚指輪」
「えっ…」
「法的にも入籍できたら一番良いんだけど、諸般の事情によりムリだから、せめて心の契りだけは結んどきたいってな。
だったら離れていても不安がないだろ?」
「愁ちゃん、そんな事考えてくれてたの…」
「ああ。だから、少しの間、向こうで待っててくれ。
必ずお前を迎えに行くから」
「うん…ありがとう…愁ちゃん…」
蒼は右手で顔を押さえて泣き、何度も頷いた。
親父は車椅子が乗せられる仕様の車を用意して上京してきており、福山まで車で帰ることにしたとの事だった。
蒼は福山の病院でリハビリを行い、社会復帰に向けて頑張らなければいけない。
倒れてここに運ばれてきて以来、蒼は化粧もせず、すっぴんのままだ。
でも、蒼は元々女顔をしているし、すっぴんでも全然綺麗だ。
たしかに、半身麻痺の影響で、顔も引き攣り、喋りにくい状況だが…
蒼の両親は、暫しの別れをする俺達の事を思い、席を外し、二人きりにしてくれた。
俺は、蒼のベッドの横の椅子に腰掛け、色んな話をした。
蒼は笑ったり、頷いたりしてくれたが、やはりすごく寂しそうで、今にも泣きそうな状態になっていた。
「愁ちゃん…」
「ん?どうした…」
「本当にありがとう。
短い間だったけど、大好きな愁ちゃんと一緒にいられて、本当に楽しくて幸せな日々だったよ。
ワタシにとって、キラキラしてて毎日が一生の宝物と言えるくらい、夢のような時間の連続だった。」
「相変わらず蒼は大げさだな。
でも、俺にとってもそうだよ。
蒼との時間はこれ以上のものはないってくらい幸せだった。」
「愁ちゃん
これはワタシの本心として言うんだけど…
実家に戻るのを機に、別れよう。
これ以上愁ちゃんに迷惑をかけたくないし、好きな人が苦しく思うのはワタシにとっても本意じゃないし…
これがいい機会だと思うから。」
「バカ、何言ってんだよ。
俺達は結婚すんだよ。
そんな話を聞けるわけねえじゃんか」
「ううん。それはワタシが倒れる前の話だし、今は状況がこうして変わってしまったの。」
やはりそう来たか…
「蒼、お前の親父さんも俺達の仲を認めてくれたんだぜ。
その上で俺も福山に来てくれないかって」
「えっ、お父さんが?」
「蒼に家業を継がせたいけど、俺が継いでもいいからって」
「そんなこと…」
「まあ、俺もまだ大学生だし、ちゃんと卒業もしときたいので、今すぐ福山に行く事は固辞させてもらったんだけど…
でもな、卒業したら福山で仕事を探そうと思ってんだ。
そしたら、また一緒に住めるだろ?」
「愁ちゃん…」
「って俺が言っても、蒼はネガティブだし、不安に思うかなって思うからさ、これ買ってきたんだよ。」
俺はポケットから小さな箱を出し、中身を見せた。
「これは?」
「結婚指輪」
「えっ…」
「法的にも入籍できたら一番良いんだけど、諸般の事情によりムリだから、せめて心の契りだけは結んどきたいってな。
だったら離れていても不安がないだろ?」
「愁ちゃん、そんな事考えてくれてたの…」
「ああ。だから、少しの間、向こうで待っててくれ。
必ずお前を迎えに行くから」
「うん…ありがとう…愁ちゃん…」
蒼は右手で顔を押さえて泣き、何度も頷いた。
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