Two seam

CAPTAIN咲聖

大輔がゆっくりと打席に入ってきた。

大輔は、一塁ランナーの優里を見つめ、軽く頷いた。

それが何を意味するのか、優里にはわかったような気がした。

必ずお前を返してやる。

そして、必ずお前を甲子園に連れていってやる。

それを自分に伝えようとしていると、優里は思った。


大輔ならきっと打ってくれる。

ワタシは思いっきりホームまで駆け抜けるだけだ。


優里はそんな事を考えながら、リードする距離を広げていった。

敷島は、それを見て、すかさず牽制球を一塁に投げた。

帰塁する優里。


一塁からピッチャーに球が返されると、敷島はそれを受け取り、大輔の方に向き直った。


山東は、勝負をすることにこだわり、七回とは正反対のリードをする事となった。

しかし、敷島にはイヤな予感しかせず…


結局、勝負と見せかけつつ、際どい球を投げ続け、ストレートのファーボールとした。

大輔は悔しそうな表情を浮かべ、一塁に向かった。

大輔が歩かされた事により、高島大、咲聖の両校共が、難しい選択を迫られる事になった。


同点でノーアウト一、二塁

バッターは五番のキャプテン田宮。

大輔、優里の次に打率の高いバッターだ。


しかし、三番目に期待できるとはいえ、大輔、優里との差は如何ともし難く、敷島、山東からすれば、安牌と言っても過言ではなかった。


ただ、局面が局面である。

ここで一点取れば優里の調子からして押し切れる可能性が高い。

しかし、無得点に終わった場合、スタミナ面から考えて、高島大が圧倒的に有利になる。

監督の村上は、大いに頭を悩ませていた。


七回にノーアウト満塁のチャンスをものに出来なかったのは、相手の上手さや運もあったが、やはり、この田宮以下の打者の信頼性の無さ…
コレが大きかった。

この場面も、田宮に送らせて、一死二、三塁にしたとしても、六番、七番で得点する事はまず不可能であろう。

だったら強硬策？


それも、可能性は限りなくゼロに近い。



どうする！？


村上は、既にバッターボックスに入ろうとし、こちらのサインを求める田宮と目が合った。


頭が真っ白になっていた村上だったが、目が合った瞬間、サインが自然と出たのである。


「打て！」


と、いう指示の…


田宮はサインを確認し、視線を切った。
表情は変わっていない。


二塁ランナーの優里も、表情が引き締まった。


大輔も同様だ。


敷島と山東も、その雰囲気から、強硬策に出ると、何となくであるが感じ取っていた。