Two seam

フロイライン

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ノーアウト三塁で、三番の水谷…

水谷と勝負を避けると、四番の富田とは尚更勝負は出来ない。

ノーアウト満塁は、さっきと同じ形だ。

ここで五番のキャプテン田宮。

七回は抑えたが、この回は何故だか危ない気がする…

山東は、さっきとは全く違う思いでいた。

敷島も疲れがないと言ったら嘘になるだろう。

七回のピンチは神経をすり減らしたはずだ。


どうすればいい?


監督に全ての権限を与えられている山東は、自分で決めなければいけない。


「無視満塁策は今回は危ない気がする。」


山東にそう告げられた敷島は深く頷いた。

「山東、それは俺も同じ考えだ。

水谷と勝負だな。」


「ああ、水谷を打ち取れたら、富田を歩かせて田宮勝負でいい。」


「わかった。」


バッテリーの打ち合わせが終わり、内野陣が守備位置に散った。


今日一番の盛り上がりを見せるスタジアム

誰もが優里のこの打席に注目した。

スタンドで見守る今津と宮里もかなり緊張していた。


「こういう場面なんて、職業柄何回も見てきたけど、これほど緊張した事はないよ。」


今津が呟くように言うと、宮里も頷いて

「たしかに。

バッターがドラマ性を持った水谷さんだからなんでしょうね。

甲子園を賭けたこの場面で、似つかわしくないビジュアルの美少女がバッターボックスに立っている。

こんなシチュエーション、世界どこ探したってないでしょう?

野球だけじゃなく、サッカーやバスケでもね。」

と、興奮気味にまくし立てた。


「マスコミ関係者の端くれとして、こんな事言っちゃダメなんだけど、どうしても水谷さんに肩入れしちゃうよなあ。

ここで打ってくれって。」

 
「まあ、そうでしょうね。

ですが、まともに勝負しますかね」


「いや、するだろ、今回は。

7回みたいなやり方がそう何度も通用するはずがない。

ここは水谷さんを全力で抑えることに専念し、上手くいけば富田君と無理に勝負しなくても、圧倒的に高島大が有利になる」


「同感です。

注目しましょう。」


二人の意見も、高島大バッテリーと同じであった。

三番水谷優里さえ抑えることが出来たら、この試合はこっちの勝ちだ


山東は優里の表情をマスク越しに観察したが、特段気負ったところもなく、自然体で打席に立っていることが見て取れた。


末恐ろしい選手だ…

ひょっとしたら、高島大の打の柱は富田ではなく、水谷なのでは?

そんなことが脳裏を横切ったが、必死に打ち消し、グラブを構える山東であった。
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