Two seam

意地

ノーアウト満塁でバッターは大輔、優里の次に信頼されているキャプテンの田宮

監督の村上は、この絶好のチャンスの中、大きな迷いの中にいた。

スクイズが成功すれば、今日の優里の出来からして、大きなアドバンテージとなり、そのまま勝ち切る可能性が高まる。

しかし、満塁だけに、田宮のバントが打球の勢いを殺せないと、ホームでのフォースプレイになり、下手をすればダブルプレーとなり、一気にチャンスの目が萎む可能性も否定出来ない。

だが、突如制球が乱れたとはいえ、敷島に対して田宮を好きに打たせてもいいものか…

様子を見る？

いや、その間に追い込まれたら、バント成功の確率が一気に下がってしまう。


村上は決意した。


初球スクイズ


田宮はサインを受け、無表情でスイングをすると、ゆっくりとバッターボックスに入っていった。
三塁ランナーの田上も、ホームに突っ込むため、敷島が投球に入る、その間合いを測っていた。


敷島は三塁ランナーを目で牽制し、いつでも刺せるという事をわからせた上で、クイックモーションで第一球を放った。

これ以上ないタイミングでスタートを切る田上。


（よしっ！）


村上は確信した。

転がせばセーフだと


田宮はバントの構え

ボールは外しておらず、プレート付近に来ている！

全てが村上が描いた通りの流れ…


球場内に抑え目の金属音が鳴り響いた。

難しいコースと速さであったが、器用な田宮は見事にバットに当てて転がした。

村上は身を乗り出し、その打球の行方を見た。

一塁方向に転がったボールは…

いや、猛ダッシュしてきたファーストの中村が素早く打球を処理し、キャッチャーの山東に体を前方に伸ばすようにして素早くトス

田上が滑り込んでくる寸前に、フォースプレーでホームでアウトにした。

山東はファーストにベースカバーに入っていた二塁手の村瀬に送球したが、田宮が一塁を駆け抜けるのが僅かに早く、セーフとなった。

ノーアウト満塁からアウトカウントが一つ増えて、一死満塁となった。

続いてバッターボックスに入ったのは六番の佐藤

ここから信頼度が著しく劣るバッターが続くことになる。

村上の選択も、高島大ベンチの読みも、ここは再びスクイズだった。

つまり、佐藤がスクイズを成功させるか失敗するかで全てが決まってしまうと、皆が理解していた。

ここで一点取れば、優里の今日の出来からして咲聖の勝利が濃厚。

逆に無得点に抑えられた場合は、敷島が有利になる可能性が高い。

佐藤はこのバント見え見えの場面で、とにかく落ち着こうと両肩を二度ほど上下させ、リラックスし、心の中で呟いた。


（スクイズなんて簡単じゃねえか
ヒット打てって言われるより何倍もな）

と…