Two seam

フロイライン

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駆け引き

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大輔は山東から危険な香りを感じ、三球目を外角に外れていくボールを要求したが、優里の顔を見ると、三球勝負させろという意思が感じられた。


(まあ、いいか

優里、好きに投げろ)


大輔はど真ん中、やや低めにミットを構えた。


優里は納得したように投球モーションに入り、柔らかな肢体を思いっきり反り返したかと思うと、その反動を利用した勢いで、地面に叩きつけるように力強い直球を放り込んだ。

揺れる長髪、乳房、そして汗

汗以外は高校野球ではまずお目にかかれない姿から投じられた球は、大輔の希望とは正反対に、高めになってしまった。


山東もタイミングを合わせて力強く振る体勢になっていたが…



「ストライッ!」

球審の手が高々と上がり、見事に三振を奪ったのだった。


空振りの後、少しバランスを崩し、ホーム上に体が流れてしまった山東は、俯いたままベンチに引き上げていった。


優里は五番六番もきっちり抑え、淡々とした表情でマウンドを降りた。


ベンチ後方でタオルで顔の汗を拭う優里に、村上は後ろを振り向いて声をかけた。

「水谷、疲れてないか?」

優里は、一瞬驚いたような表情を浮かべて顔を上げたが、すぐに頷いた。


「大丈夫です。
全然疲れてません。」

優里は笑みさえ浮かべる余裕を見せ、村上を安心させた。

それもそのはず、100球限定という制限を設けているとはいえ、優里はこの高島大附属の強力打線を前に、2イニングでわずか15球と、極端な省エネ投法を繰り広げていた。

その投法を可能にしていたのは、優里の信じられないような投球技術と、大輔のリードに依るものだった。


六人のバッターに対し、それぞれの球数は以下の通りである。


一番 村瀬 二球
二番 鳴海 三球
三番 敷島 三球
四番 山東 三球
五番 北村 二球
六番 上園 一球

2イニングでまだ二十球も投げていない。


村上はこの分なら完投できるのではないかと考えたが、もう一度優里の顔を見て、その考えを改めた。


たしかに少ない球数で、肉体的な疲れはないかもしれない。
しかし、これまでで最も強力な高島大付属打線と対峙した優里は、精神的にかなり疲労していたのだった。

心の疲れはやがて肉体にも及ぶ。


代えどきを見極める


それが自分に課された使命である。

村上はそう強く心に誓ったのだった。

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