Two seam

投手戦

大輔のヒットが起点となるかと思われたが、敷島は後続をきっちり打ち取り、小走りでマウンドを降りていった。


「優里、この回の先頭の山東は要注意だぞ」


守備位置に着く前、大輔は優里の肩に手を置き、注意喚起を行った。


四番の山東はこの予選の打率が5割8分を超え、総安打数の半分が4本のホームランを含む長打だった。
しかも、まだ一回も三振をしていなかった。


大輔は優里にサインを出した。
優里は頷き、セットに入った。


（アイツ、疲れてるくせに調子が良いみたいだな。
どうせストレート投げさせろってんだろ…）

大輔は変化球から入るのを諦めて、ストレートから入るようにサインを出したのだった。

優里はゆったりとしたフォームから、体を目一杯しならせて、渾身のストレートを大輔のミット目掛けて投げ込んだ。


（バカっ！ど真ん中…）


大輔は球の軌道を見て背筋が冷たくなった。

全国屈指の強打者である山東がそんな甘い球を見逃す事はない。


見事にタイミングを合わせてバットを出した。


大輔はバットの軌道、優里の球の軌道を見ながら、レフトスタンド中断に入るホームランの映像が脳裏をよぎった。

思わず目を瞑りたい心境になったが、そういうわけにもいかず、目を見開きミットを差し出した。




「ストライッ！」



（えっ！）


予想に反して優里の球は大輔のミットに収まった。


山東が空振りしたのだ。


（どういう事だ…）


大輔は山東の表情を見つめた。


山東は無表情のまま、ボックスの外で素振りをしている。

続いて、優里の方を見ると、優里も無表情のままだったが、大輔と目が合うと、少し笑ったような気がした。


（アイツ…）


大輔は、優里の球に、スピンが相当かかっており、多分バットがボールの下を潜ってしまったのではないかと予想した。


（もう一球行くか？）


大輔は今と同じ球を投げるようにサインを出した。


もちろん優里は頷いた。


（だけど、今度はもうちょい内角やや低めに来いよ）


大輔が山東の膝付近にミットを構えると、優里はそこを目指してまた全力でストレートを投げ込んだ。

（よし、厳しいコースに来た）


大輔は安堵した


しかし


甲高い金属音が大輔の耳に飛び込んできた。


山東の打った球はフライとなり一塁側スタンドに飛び込んでいった。


二球目はかなり厳しいところに投げたにもかかわらず、山東はバットに当ててきた。

見事な修正ぶりに、大輔の額から汗が流れた。


（コイツはやっぱりスゲェ）

たった二球の攻防だったが、大輔の頭を大いに悩ませ、三球目のサインを躊躇させた。