Two seam

フロイライン

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凌ぎ合い

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咲聖の一、二番があっさりと凡退し、優里に打席が回ってきた。

いつものように打席に入ると、優里はヘルメットの鍔を親指と人差し指で摘み、軽く会釈した。

そして、リラックスしたフォームで構えると、マウンド上の敷島に視線を送った。


敷島は優里をマウンド上から落ち着いた表情で見下ろすと、大きく振りかぶった。


「えっ」

ネクストの大輔は思わず声を上げた。


現代高校野球において、絶滅危惧種とも言われているワインドアップ投法を、優里の打席で仕掛けてきたからだ。

力を伝達しやすいそのフォームは、185センチと長身の敷島のポテンシャルと相俟って、球に信じられないような勢いを与えた。


「ストライクっ!」

ど真ん中のボールを優里は見逃した。

選球眼の良い優里が甘いゾーンを見逃す事はそうそう無い事である。

しかし、優里は球の勢いに押され、手が出なかったのである。



「水谷が見逃すなんて珍しいな」

村上は独り言のように呟いた。





「あの球、一体何だ」

今津は敷島が投げた優里への初球を見て、驚きの表情を見せた。


「準備してたんでしょうね。

昨日、私は高島大附属のグランドに取材に行き、敷島君から話を聞いたんですけど、並々ならぬ闘志を湧かせていましたよ。」

「まあ、決勝だしね。」

「敷島君は富田君と中学時代同じチームでバッテリーを組んでたらしく、友徳に二人で進学しようって約束していたらしいんです。

しかし、水谷さんの球と野球センスに惚れ込んだ富田君が、水谷さんが進学した丸和に行ってしまったと。

そのときのショックだった気持ちをこの試合にぶつけるんだって言ってました。」


「ほう。
そんな因縁があるのか」


「ワインドアップはランナーさえいなければどんどん使ってくると思いますよ。
咲聖は一、二番が機能してませんから、ランナー無しで水谷さんに回ってくるのは確実です。」


「こりゃ、キツイかもしれんね」


今津は優里に第二球を投げ込む敷島を見つめながら呟いた。



今度は、優里のバットが空を切り、ヘルメットが足元に落ちた。

ほとんど空振りをしない優里が、ストレートにバットを当てられず、僅か二球で追い込まれてしまったのだ。


優里のしなやかな長髪が観衆の眼前に晒され、空振りした事実とその美しい容姿が相俟って、スタンドは大きくどよめいた。


優里は髪を整え、ヘルメットを被り直した。


大輔は次もストレートで来ると確信していた。
それが敷島の性格であり、良さであると。

最初の打席で圧倒できれば、この先の打席でも意識させる事が出来、迷いを生じさせられるからだ。

(優里、ストレートを打て!)

大輔は心でそう叫んだが、優里もまた同じ考えだった。

バットを若干短く持ち、敷島の投球を待った。

敷島は先ほどまでと全く同じ、大きく振りかぶって、三球目を放った。

ストレート真ん中高め

読み通り、タイミングもドンピシャ

優里は脇を締め、その球を強振した。


バットに当たった球は、優里の思いとは裏腹に
ボテボテのセカンドゴロとなった。


(優里が振り遅れた…)

大輔は信じられない面持ちでその光景を見ていたが、チェンジとなった為、ベンチに戻った。

優里もまた、一塁を駆け抜けた後、今のスイングを心の中で反芻していた。
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