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六回裏

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優里の頭上を越えた打球はフェンスを直撃し、この回、興院に三点目が入った。


遂に9対7と逆転されてしまい、項垂れて汗を拭う岸。

マウンド上で伝令と内野陣から激励を受けた岸は力を振り絞って後続を断ち、なんとか二点差で六回を終えた。


「水谷、すまないが次の回から頼む。」

ベンチに戻ってきた優里に、村上は頭を下げるようにして言った。

「大丈夫です。」

優里は腕から肩に貼られたテーピングを剥がした。

咲聖の攻撃は三者凡退ですぐに終わり、準備もままならないまま優里はマウンドに上がった


(球は走ってる…)


何球か受けた大輔はその球筋と伸びに頷いた。

優里自身、かなり疲れてはいたが気持ちの面では相当に乗っていた。

最愛の人を勝たせたい

ただ、その一心で。



テンポの悪かった岸とは打って変わって、優里はストライク先行で強打の興院打線を簡単に追い込み、わずか十球で七回裏を抑えきった。


(さすがだな…)

ベンチの村上も、その華麗なピッチングに、思わず第三者的な目で見てしまう自分を感じていた。


八回表の咲聖の攻撃は三番の優里からであった。

この回、この八回表に追いつけなければ敗色濃厚なのは誰の目にもわかっていた。



初球を打ちにいった優里は、バットの真芯でボールを捉え、痛烈な打球が三遊間をライナーで破っていった。

ノーアウトランナー一塁

攻守にわたる優里の活躍で、球場内は俄然盛り上がった。


次に打席に入る大輔は、このチャンスを逃すまいと、気合いを入れた。

自分の後、特に六番以降は全く期待が出来ない。

ここはホームランで同点に追いつく事がベストであり、最低限の自分の仕事だと、大輔は心に誓った。


その気勢に押されたのか、初球がスーッと甘いコースに入ってきた。

千載一遇!


大輔はバットを振り抜いた


高い金属音が球場内に鳴り響き、両軍ベンチ、スタンド全員がレフト上空を見上げた。


高く舞い上がったレフトへの打球はきれいな放物線を描いてそのままスタンドに入った



かに思えたが、フェンスギリギリで、興院レフトの佐久間が捕球した。

ファーストランナーの優里は二塁付近から慌てて一塁に戻った。


「富田…気負いすぎたな」


村上は、この場面で入れ込みすぎて仕留め損ねた大輔を見ながら呟いた。
そして、この試合の負けをも確信した。


(この回、点が入らなければ次の回からレフトに回した岸を投げさせるか)

高校野球では珍しい敗戦処理の起用を頭に描いていた。
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