Two seam

RUN

大輔の打ったボールはライナーでセンターの頭を越え、ダイレクトでフェンスに直撃した。

センターの尾形は大輔がバッターだったために完全なる前進守備を取らず、ほぼ定位置にいたことが幸いし、打球に最短距離で追いつき、クッションボールも正確に処理した。


一塁ランナーの優里は投球と同時に走り出していた為、この時点でセカンドを回っていた。

その際、チラッと打球の方向を見た。

大輔の打った球の速度、センターの守備位置、肩の強さはわからなかったが、現在の自分の走力を鑑みたところ、ホームでのクロスプレイになることが予想された。


優里はゾーンに入った。

周りの音が聞こえなくなり、自分の呼吸音だけがはっきり聞こえた。


乳房が揺れる


その揺れと痛みで、現在の自分の立ち位置を思い知らされた。

だが、大輔が作った千載一遇の好機を逃すわけにはいかない。

絶対にホームに向かう！

たとえ止められても…


しかし、三塁コーチャーズボックスの石村は腕をぐるぐる回していた。

これで、ホーム突入はチームの総意となった。
勇気づけられた優里は三塁を蹴り、ホーム目指して走った。



一歩一歩進む度に、ホームベースとキャッチャーの奥田の姿が大きくなってくる。

ホーム直前で奥田が捕球の体勢になった。


このままいけばアウトのタイミングだ…


だが、中継のショートが投げた球がやや、ファースト方向に逸れた。

優里は内側からスライディングの体勢になり、すべり込んだ。

ほぼ同時に奥田が捕球し、こちら側に飛び込んできた。


球審の田所は、右足を捩じ込んだ優里と、ホームベース上にミットを出した奥田を見つめ、しばらくの間が出来た。

















「セーフっ！」


田所は思いっきり両手を外側に広げた。


優里は立ち上がり、両手を上げてその喜びを表現した。

ベンチから咲聖メンバーがダッシュで優里の元に駆け寄ったが、セカンドから猛烈な勢いでホームに走ってきた大輔が一番乗りとなり、優里と抱き合って雄叫びをあげたのだった。




「やりましたね！

準決勝ですよ！」

光岡が興奮気味に村上に言ってきたが、村上は少しだけ笑みを浮かべて頷くだけで、それ以上は感情を表に出す事はなかった。


（勝つには勝ったが、水谷は次は使えん

いや、使えたとしても、勝てば決勝…

決勝では絶対に無理だ…

ここらが限界…か…）

村上は自分達が置かれた立場を正確に認識していた。