Two seam

フロイライン

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才能

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球場内に歓声が鳴り響いた。


一塁塁審の手がセーフを示したからだ。


一塁を駆け抜けた田上は、一瞬何が起きたかわからなかったが、周囲を見て試合がまだ終わっていない事だけは確信した。




スタンドの今津は咲聖の強運ぶりに、まだ何か起きるのではないかと予感めいたものがよぎった。


「いやあ、完全にゲームセットですよ、あんな平凡なセカンドゴロ。

まさかイレギュラーバウンドするとは…」



「でも、これで水谷さんに回りましたよ。」



「一点ビハインドで九回裏ニ死一塁

相手ピッチャーは不運なランナーを出したが、まだ球威は衰えてはいない。

どっちが有利かな」




「水谷さん…

雰囲気持ってるなあ」

中里は右バッターボックスに入る美少女を見つめながら呟いた。




優里は少し疲れていた。

予選では最長の7イニングを投げ、それも6イニングを投げて一度マウンドを降りてから、また9回に登板するという変則的な形で。

優里の今の肉体ではダメージが大きく残ったのである。


だが…


優里はバッターボックスに入る前にネクストの大輔をチラッと見た。


今の優里は自分のために野球をやっているのではなかった。

最愛の大輔に1日でも長く野球をしてもらいたい…

そのことしか頭になかった。

優里は少しだけ深呼吸し、バットをゆっくりと前方に出し、そしてゆったりとしたフォームで構えた。


キャッチャーの奥田はその一挙手一投足をじっくり観察していたが、マウンド上の北城に頷き、思い切って放ってこいというゼスチャーを取った。


北城は一塁ランナーの田上を目で牽制しつつ、まだ有り余る体力を使っての速球を外角高めに放った。

ストライクゾーンではあるが、外角いっぱい
球にも力がある。

奥田は安心して捕球しようとした。


しかし、優里は予想していたかのように踏み込み、外寄りの球にもアジャストした。

一二塁間を鋭く抜け、前進守備のライトがワンバンで捕球した。


一点ビハインドでニ死一、二塁

最高のお膳立てが出来た。


「なんで三塁に行けないんだよ!」


村上は二塁に止まった田上に向かって舌打ちした。

たしかに打球は速かったが、ニ死という事を考えれば、十分に三塁に行けた打球だった。


だが、田上は足が竦み、二塁に止まらざるを得なかったのだ。



「四番、キャッチャー 富田君」


大輔はゆっくりと右バッターボックスに入ろうと歩いていった。


榮進ベンチから伝令が出てタイムを要求。
捕手の奥田と共に内野手がマウンドに集まってきた。



「ここは際どい球を続けて、カウントが悪くなったら歩かせて田宮君勝負でいくのが榮進としては得策でしょう。」

宮里が言うと、今津も頷いた。

「まあ、富田君と真っ向勝負はあり得ないですしね。」


榮進の伝令もまさに同じ内容を伝えていた。
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