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最終回

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場内は異様な雰囲気に包まれていた。




「咲聖が一番恐れていたパターンですよね。」

喧騒の中、中里は今津にそう話しかけた。


「水谷さんが六回をカンペキに抑え、2点リードの状況で二番手の岸君がマウンドに上がる。

しかし、七回、八回をなんとか抑えたが、ついに最終回に捕まり、ヒット六本を浴びてあっさり逆転を許し…


ノーアウト二、三塁のピンチを招くと、たまらず水谷さんに交代。

彼女が後続を抑えて、なんとか1点ビハインドを保ったまま最終回の攻撃…」



「せっかく水谷さんの体力温存を考慮しながらの作戦が破綻したわけです。

水谷さんを再登板させるという愚策まで出して。

たとえ、このあと逆転できたとしても準決勝で水谷さんをこれまで通り使うのには少し無理が生じます。」


「まあ、負けたら終わりの一発勝負だからねえ

無理もさせたくるわなあ。」


「最終回は9番からの攻撃です。

今日ノーヒットの9、1、2番では望み薄ですね。
快進撃を続けてきた咲聖もいよいよ止まっちゃいそうです。」


「中里さん

まあ、僕もそうだとは思うけど、淡い期待をかけてみたいもんだ。」



二人の視線の先に、9番バッターの重松が素振りをしてバッターボックスに入ろうとしていた。




「頼むぞ重松…」


部長の光岡は重松の方を祈るような目で見た。


「重松は球をバットに当てることに長けている。

チャンスメイクの九番バッター

それがアイツをあの打順に据えた1番の理由だよ。」

村上は光岡に、というよりも、自分に言い聞かせるように言った。




「ストライッ!」


重松は三球三振に倒れた。


バットに当てることが上手く、技術もあったが、極度のあがり症で、この緊張する場面で、全く力を発揮できなかったのだ。


咲聖ベンチでは優里以外のメンバーがベンチの前に陣取り、奇跡を信じて次の打者である斎藤に声がけをした。


一番打者斎藤翔太…

俊足巧打を買われて新チーム発足からずっと一番を任されてきた。


自分の役割は塁に出ること。

ただその一点のみ…

斎藤はベンチのサインを見たが、ノーサイン
自由に打てというものだった。


(よし、ここは)

三塁手は定位置


斎藤は初球セーフティーバントをする事を決めた。

この場面では考えられなくもない策であったが、失敗すれば一気に終わりへと向かう

それほどの場面で果たして出来るのか…



榮進の右腕北城は疲れを見せる事なく、斎藤への初球、ストレートを選択。

思いっきり腕を振り、キャッチャー奥田の構えるところにズバリ投げ込んだ。

斎藤はすぐさま、バントの構えを取り、重心を落とした。


(よしっ)

ストレート、外角寄り

これを三塁側に勢いを殺した打球を転がせれば、確実にセーフだ。

全ての条件が揃う中、斎藤はバットを投げ出すようにして速球に合わせ、体の重心を一塁側に向け、走り出した。


コンっという金属音が球場内に鳴り響いた。

絶妙なタイミング…


ではあったが、球は転がらなかった。


力なく小フライとなった打球は、奥田がファールグランドで2歩ほど下がっただけで、簡単に捕球し、アウトとなった。

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