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フロイライン

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初戦に圧勝し、意気揚々と引き上げてきた咲聖ナインに、監督の村上はその頑張りを讃えた。

特に優里に対しては疲労をなるべく残さない為にすぐ家に帰した。

大輔も一緒に、という配慮もして。




「いやあ、水谷のおかげで俺まで先に帰らせてくれたよ
ありがてえ」


「でも、荷物まで持ってもらうの、悪いよー
自分で持つ」


「いいよいいよ

家まで持ってくから」



「えーっ!


でも、嬉しい。」



優里は振り返って悪戯っぽい笑みを浮かべた。



(コイツ、こんなに可愛かったかな)


大輔はまじまじと優里を見つめていたが、少しだけ笑い、首を横に振った。


「どうしたのよ、大輔」


「いや、なんでもねえよ。

あのさあ、今日のお前の球…めちゃめちゃ良かったぜ。」 


「えっ、ホント!?

ワタシも自分で思ってたの。なんか今日調子がいいなって
大輔もそう思ってくれてるんだったら、ワタシの勘違いじゃなかったんだね」


「ああ。
多分、一年の時に投げてた球とほぼ同じくらい走ってたよ。」


「やったー」


「てか、その体でよく投げれんな

まるっきり女の体じゃん。それであの速い球が投げれるとはな」


「大輔、違うのよ
この体だから投げれるんだよ。

どう言ったらいいかなあ。
たしかに一年の時が一番筋力もバネもあって、速いボールを投げれてたよ。
でも、あのままやっててもワタシ、途中でダメになってたと思うの。

こうやって手術して、本来の自分の体になれたことで、なんか気持ち的にも楽になれたっていうか…

体よりも心なんだよ

心が満たされてないと、いいボールは投げられないんだよ、ワタシは。」


「そういうもんなんかな」


「うん。そういうものよ」


「まあ、俺はお前とこうして一緒のチームで野球やれてるって事が、心を満たしてくれてるなあって思うよ。

だから、夏の予選でどこまで行けるかわかんねえけど、もう悔いはないよ。」


「大輔…」


「ありがとうな、水谷」


「うん。ワタシの方こそ…
ありがとう…」


二人の間に妙な空気が流れたが、それ以上はお互いに言葉に出さなかった。

これ以上互いの気持ちを外に出すとと、二人の間の微妙なバランスが崩れてしまうと思ったからだ。





その日の晩
優里は久々にオナニーをした。
大輔に抱かれているところを想像しながら…

芽生え始めた大輔への想いに、ようやく自分で気付き始めた優里だったが、絶対に口に出してはいけないと思った。
この想いを大輔に伝えるべきではないと。
でないと、二人の関係性が壊れてしまう

それならば、せめて想像の中だけでも…



大輔もまた、その夜
優里に想いを馳せていた。
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