Two seam

dynamite

優里が右バッターボックスに入り、バットをピッチャーのほうに掲げ、雄叫びを上げた。

しかし、女子そのものの甲高い声に、場内はどよめきと笑い声が交錯した。

優里自身は集中力を切らさず、相手のピッチャー濱口に鋭い視線を送った。

ネクストバッターズサークルでは大輔がスイングをやめて、優里の一振りを見逃すまいと、やや緊張した面持ちで見つめていた。

しかし


（水谷、胸でけーな
っつーか、あれバット振る時邪魔にならね？）

ふと、優里に湧いてきた疑問を頭に思い浮かべる大輔だったが、そんな不安をよそに、優里は初球から打ちに行き、三遊間を痛烈に破るヒットを打った。

一塁上で大輔に手を上げて何やら叫んでる。

（打てということね）

大輔は、右打席に入り足元を慣らしたあと、バットを長く持って構えた。

いかにも打ちそうな構えに、完全にビビってしまった浅丘バッテリーだったが、ノーアウト満塁で歩かせる愚策も取れず、とにかくくさいところを突いていくという作戦に出た。

だが、浅丘の二年生ピッチャーの平田 秋生は球場の雰囲気に完全にのまれてしまい、尋常ならざる汗をかいていた。

そして、外角高めのボール球を要求されたにもかかわらず、手元を誤り、すーっと吸い込まれるようにボールが中に入っていった。
明らかな失投であったが、全ての失投を全て打ち返されると決まったわけではない。

平田は内心しまった！と思ったが、大輔の仕留め損ないを願わずにいられなかった。

しかし、次の瞬間

切り裂くような金属音がしたかと思うと、打球はライトフェンスを越え、低い弾道のまま場外に消えた。

満塁ホームラン‥

アウト一つも取れずに4失点
立ち上がりに落ち着く間もなく、あれよあれよと四連打で、初回にして既に勝負があったと、誰もが思った。

その後も立ち直りの気配を見せない平田に咲聖打線が襲いかかり、初回に7点をもぎ取り、三回終了時には12-0と、五回でコールドが成立しそうな状況であった。

村上もさすがに安心したのか、三回までパーフェクトピッチングの優里をベンチに下げ、四回から岸をマウンドに送り込んだ。

岸は、優里と大輔が作り上げた球場の異様な雰囲気にのまれて、全くストライクが入らず、四球を連発したが、バックの堅実な守備にも助けられ、なんとか後続を打ち取った。

つづく五回はヒットを2本許しながらもなんとか0点に抑え、五回コールドが成立した。

16-0 咲聖の圧勝であった。

地区予選の一回戦を無事に終え、ナイン達は上機嫌でバスに乗り込んだ。