Two seam

1回裏

「勝俣君…

なかなか良いボールを放るね。」

村上はマウンドに上がり投球練習する敵のエース勝俣のボールを見て呟いた。

咲聖の一番は二年の俊足左打ち、斎藤

「当てるのが上手い斎藤にどんな投球をするかだな。」

左腕の勝俣はスリークォーター気味のフォームから斎藤から逃げていく球を選択した。

空振り


「いや、良いよ
あの勝俣君ていうピッチャー

あれは左は苦労するよ」

村上の予言通り、一、二番に左を置く咲聖打線はわずか四球で凡退し、2アウトとなった。

三番は…


「水谷」

バッターボックスに向かう優里を呼び止めた大輔は、拳を上げて鼓舞した。

優里は頷き、右バッターボックスに入り、若干バットを短く持って構えた。

キャッチャーの西山は、バッターボックスを足で馴らす優里を見つめながら思った


（可愛い…）

と。

しかし、同時にどこからどう見ても女子高生にしか見えないこの水谷という選手に打たれるわけにいかないと、気を引き締め、一球目は外角高めにやや外れていく球を要求。

勝俣も頷き、お馴染みのスリークォーターで、力を込めて投げ込んだ。

優里は外角いっぱいの球にタイミングを合わせ、追っつけるようにして軽くバットを出した。

小気味のいい金属音が響くと、打球は一二塁間を真っ二つに破り、ライト前ヒットとなった。

優里は胸を揺らしながら一塁を回ったところで打球を見ながら帰塁した。

そして、優里は右手を挙げてベンチに何か大声で言うと
ベンチのメンバー全員が同じように手を突き出してそれに応えた。

続いて大輔が右バッターボックスに入る。

西山はこの富田大輔がよく打つという事を知っており、勝俣に初球は大きく外すように指示した。

外角高めの球を立ち上がって捕った西山は、二回大きく頷いて勝俣に返球

（ここは歩かせてもいい）

西山はストライクゾーンで勝負しない選択をし、二球目もくさいところに要求

勝俣は頷き、またしても外角にストライクからボールになる球を選択、絶妙のコントーロールを見せた。

しかし、大輔はその外角球を踏み込んで強振すると、真芯は外したが、鋭い打球がライト方向に飛び、瞬く間にフェンスにライナーが直撃した。

打球が速かったために優里は三塁にストップ。

大輔は悠々と二塁に到達した。

二塁上で大輔は無表情で手袋を外した。

丸和にいた時代から、打線で期待できるのは優里と自分だけで、優里が出たら確実に自分が返すのが使命で、このように二塁三塁となり、点が入らなければ自分の負けだと思っていた。



五番の主将田宮大吾が左バッターボックスに入ると、二塁上から大輔はリードを取りながら見つめた。

（なかなか…）

大輔は主将の構えを見て、なかなか雰囲気があると感じた瞬間
田宮は初球から打ちに行き、ピッチャー返しとなった打球はきれいにセンター前に転がった。

優里に続いて大輔も生還、咲聖は幸先よく2点を先制した。


「水谷、お前女みたいな走り方するよなあ」

「もう、やめてよ」

大輔は優里の肩をポンと叩いて茶化し、二人でベンチに戻った。

後続の六番田上は三振し、攻撃は終了したが、大輔は田宮大吾のバッティングに咲聖の可能性を見出した。

自分と優里しか打てなかった丸和と違い、田宮の打撃センスはなかなかのものがある。

（これならば…）

大輔はベンチに戻ってきた田宮とハイタッチし、守備に就いた。