Two seam

フロイライン

文字の大きさ
上 下
52 / 101

1回表

しおりを挟む
投球練習を終えた優里は、センター方向を向き、両手を上げ、大声で全員を鼓舞した。

その声はやはり甲高く女子そのものだったので、またしても神明ナインの顔に戸惑いの色が見えた。


神明の一番打者は俊足巧打が売りの澤村大輝

左バッターボックスに入り足下をならす。

キャッチャーの大輔は澤村を典型的な一番バッターだと判断し、セーフティーバントなどの奇襲を警戒した。

勿論優里も大輔もわかっており、初球はストレートを敢えて高めに外すという選択をした。

いつものようにセットポジションからゆったりとしたフォームで第一球を投げた。

サイン通り、ボールは澤村の胸の辺りを通過して大輔のミットに収まったが、ストライクとなった。

澤村が思わずバットを出してしまったからだ。


部長の光岡は

「あんなボール球に手を出すなんて、もう少しマシな相手を選べばよかったですかねえ」

と、不満を述べたが、村上の感想は違っていた。

「光岡さん、わかりませんか?

水谷の投げる球が手元で伸びたから振ってしまったんですよ。
初速と終速の差がないんですよ、水谷の球は。
さて、二球目をどうするか、富田は」


優里は二球目を投じた。

一球目に比べ、コースが甘いストレートを…
甘いというかど真ん中だった。
チャンスとばかりにコンパクトにスイングすると、金属音が響き渡った。

しかし、バットがボールの下に入り、ボールは大輔の頭上に。

大輔はマスクを外して追いかけようとするが、ボールはバックネットを越えていってしまった。

「ど真ん中の好球をドンピシャのタイミングで振ったのに前に飛ばず、ボールの下を叩いて真上に打ち上げた…

やはり球の走りが素晴らしい」

村上は光岡にわかりやすいように解説者ばりの説明をした。

優里は、三球目も一、二球目と全く同じフォームで投げ込むと、澤村はバットを出したが当たらず
空振りしてバランスを崩した。

見事な三球三振であった。


「ここでストライクゾーンから落ちていくフォークか
まあ、打てんな」

「ですね」

光岡もようやく優里の投球内容に理解が出来たようで、村上の解説に同調した。

その後、優里は二番、三番も落ち着いたピッチングで打ち取り、一回表を無得点で切り抜けた。

「ナイピッ!」

ベンチに帰ってきた優里を控え選手達が出迎え、大輔は優里と手と手でタッチし

「水谷、球走ってるわ
いけるとこまでこの組み立てで行こう」

と、言った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

女装と復讐は街の華

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:23

入社した会社でぼくがあたしになる話

青春 / 連載中 24h.ポイント:1,760pt お気に入り:67

異世界に行ったら才能に満ち溢れていました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:5,025

月が綺麗だなんて言わないわ

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:198pt お気に入り:2

少年女体化監禁事件

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:21

oh my little love

BL / 連載中 24h.ポイント:633pt お気に入り:21

処理中です...