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フロイライン

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遠き日の思い

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「中里さん」

「あ、今津さん
どうしたんですか?こんなところに…」

ガラガラのバックネット裏の席に扇子を扇ぎながら座っていた中里祐作は、隣に腰掛けた今津圭介の方を見て言った。

「中里さんこそ。
なんでこんな試合を」

「参ったなあ。ボクだけが目をつけてると思ってたのに。
今津さん、さすがですね。」

「スポーツ紙の記者を長年していると、なんかこう、嗅覚が冴えてくるというかね。」

「ですよね。普通なら丸和と墨吉商業の試合なんて注目しませんからね。」

共に三十代後半で、似たような中肉中背をした男二人は楽しそうにグランドで試合前の練習をする球児達に視線を注いだ。

「今津さん、やっぱり水谷君ですか?お目当ては」

「勿論。それと、同じ一年生でバッテリーを組む富田君です。」

「二人共、中学のときに活躍してたから、強豪校に進学するのかなって思ってたんですけど、まさか無名も無名の丸和なんかに入るとは…」

「水谷君は体の調子が悪いのか、中学時代は休みがちだったみたいですね。
富田君も三年のときに故障したらしく、後半は試合で見ることはありませんでした。

それが理由だとしても、見る限り
二人共どこも悪くないようだし…」

「でしょうね。じゃないと、いくら弱小の丸和といえど、一年生バッテリーを出すなんて考えられませんから。」

二人の話は途切れる事がなかったが、ようやくプレイボールのコールがかかった事により静かになった。


マウンド上の水谷優里投手は、規定の投球練習を終えると、バックを守る内外野陣に声をかけた。

一年生とは思えぬガッチリとした体格の富田大輔は、ど真ん中にミットを構え、第一球が来るのを待った。

優里は大きくゆったりとしたフォームから、体躯をしならせ、勢いよく白球を投げ込んだ。

墨吉の一番打者の辰巳亮太はバットを動かす事もできずその速球を見送った。

「ストライッ!」

ワンテンポ遅れて、球審のコールが閑散とした球場内に響き渡った。


「うわっ」

今津は思わず声を出した。

「今の球…

ホントに一年生かよ」

中里もまた、驚くというより呆れたように呟いた。

「150は出てますね」

「ええ。ここから見る限り、スピードもそうですが回転数がえげつない。
手元で浮き上がるような感じがしましたもん。」

「墨吉は当然手も足も出んだろうが、甲子園常連の興院打線でも果たして打ち崩せるかどうか…」

優里は圧巻のピッチングを披露し、一回の表の墨吉の攻撃を三者三振であっさりと終わらせた。
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