11 / 119
来訪者
しおりを挟む
咲聖の理事長である西岡恭介は自身の趣味と生徒集めの目的で野球部に力を入れていた。
四年前に急死した父に代わって学校運営に携わるようになった頃から野球部にご執心だったが、元々強くなかった野球部が急に強くなるわけもなく、男女共に成績は振るわなかった。
しかし、惜しげもなく投資を行い、咲聖の敷地内には男子用、女子用と別々に野球部専用グランドが設けられている。
恭介の努力と情熱が天に通じたのか、奇跡とも呼べる出来事が起きた。
性転換手術をし、女性になった優里が野球をしたいという情報を聞きつけ、女子野球部監督の小林を通じてコンタクトを取り、転入させることに成功したのだ。
優里は恭介の期待以上の実力を兼ね備え、デビューするや否や、高校女子硬式野球界はおろか、マスコミに出た事もあって全国的にその名前が知れ渡った。
恭介は毎日のように女子野球部の練習を見学に訪れ、皆を激励した。
勿論、一番の目的は優里の練習風景を間近に見ることにあったのだが…
ネット越しにストレッチをする優里を見つけた恭介は声をかけた。
「水谷さん」
「あ、こんにちは」
「調子はどう?」
「はい。良いです。」
優里の答えに満足そうに頷くと、恭介は男子野球部が練習をする方へ消えていった。
「また理事長?」
すみれが優里のところへ歩み寄り小声で話しかけてきた。
「うん。いつも声かけてくれるんだよ。」
「なんかチャラいんだよね、理事長って。ブランド物の派手なスーツ着てるし、全身から好きになれない雰囲気が漂っている。」
「でも、ワタシをここに転入出来るように動いてくれたし、感謝してるのよ。」
優里は少し笑みを浮かべて答えた。
だが、すぐにその笑みは消え、表情が固まってしまった。
「優里、どうしたの?」
「…ううん。
あの、ごめん、すみれ。監督に全体練習に少し遅れるって言っといてくれる?
すぐに戻るし。」
優里はそう言うと、グランドを足早に出ていってしまった。
グランドを出た優里はそのまま部室のある建物の方に向かい、裏手まで来た。
そこに、一人の男子生徒が立っていた。
坊主頭で身長は180ほどあり、ガッチリとした体格は運動部に属しているに違いなかった。
「水谷、久しぶりだな。」
「大輔…なんで、ここに…」
優里は愕然としたまま、その青年を見つめた。
四年前に急死した父に代わって学校運営に携わるようになった頃から野球部にご執心だったが、元々強くなかった野球部が急に強くなるわけもなく、男女共に成績は振るわなかった。
しかし、惜しげもなく投資を行い、咲聖の敷地内には男子用、女子用と別々に野球部専用グランドが設けられている。
恭介の努力と情熱が天に通じたのか、奇跡とも呼べる出来事が起きた。
性転換手術をし、女性になった優里が野球をしたいという情報を聞きつけ、女子野球部監督の小林を通じてコンタクトを取り、転入させることに成功したのだ。
優里は恭介の期待以上の実力を兼ね備え、デビューするや否や、高校女子硬式野球界はおろか、マスコミに出た事もあって全国的にその名前が知れ渡った。
恭介は毎日のように女子野球部の練習を見学に訪れ、皆を激励した。
勿論、一番の目的は優里の練習風景を間近に見ることにあったのだが…
ネット越しにストレッチをする優里を見つけた恭介は声をかけた。
「水谷さん」
「あ、こんにちは」
「調子はどう?」
「はい。良いです。」
優里の答えに満足そうに頷くと、恭介は男子野球部が練習をする方へ消えていった。
「また理事長?」
すみれが優里のところへ歩み寄り小声で話しかけてきた。
「うん。いつも声かけてくれるんだよ。」
「なんかチャラいんだよね、理事長って。ブランド物の派手なスーツ着てるし、全身から好きになれない雰囲気が漂っている。」
「でも、ワタシをここに転入出来るように動いてくれたし、感謝してるのよ。」
優里は少し笑みを浮かべて答えた。
だが、すぐにその笑みは消え、表情が固まってしまった。
「優里、どうしたの?」
「…ううん。
あの、ごめん、すみれ。監督に全体練習に少し遅れるって言っといてくれる?
すぐに戻るし。」
優里はそう言うと、グランドを足早に出ていってしまった。
グランドを出た優里はそのまま部室のある建物の方に向かい、裏手まで来た。
そこに、一人の男子生徒が立っていた。
坊主頭で身長は180ほどあり、ガッチリとした体格は運動部に属しているに違いなかった。
「水谷、久しぶりだな。」
「大輔…なんで、ここに…」
優里は愕然としたまま、その青年を見つめた。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説

W-score
フロイライン
恋愛
男に負けじと人生を仕事に捧げてきた山本 香菜子は、ゆとり世代の代表格のような新入社員である新開 優斗とペアを組まされる。
優斗のあまりのだらしなさと考えの甘さに、閉口する香菜子だったが…
NH大戦争
フロイライン
ファンタジー
呪詛を家業として代々暮らしてきた二階堂家。
その二十六代目にあたる高校二年生の零は、二階堂家始まって以来の落ちこぼれで、呪詛も出来なければ、代々身についているとされる霊能力すら皆無だった
そんな中、彼の周りで次々と事件が起きるのだが…

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる