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来訪者

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咲聖の理事長である西岡恭介は自身の趣味と生徒集めの目的で野球部に力を入れていた。
四年前に急死した父に代わって学校運営に携わるようになった頃から野球部にご執心だったが、元々強くなかった野球部が急に強くなるわけもなく、男女共に成績は振るわなかった。

しかし、惜しげもなく投資を行い、咲聖の敷地内には男子用、女子用と別々に野球部専用グランドが設けられている。

恭介の努力と情熱が天に通じたのか、奇跡とも呼べる出来事が起きた。

性転換手術をし、女性になった優里が野球をしたいという情報を聞きつけ、女子野球部監督の小林を通じてコンタクトを取り、転入させることに成功したのだ。

優里は恭介の期待以上の実力を兼ね備え、デビューするや否や、高校女子硬式野球界はおろか、マスコミに出た事もあって全国的にその名前が知れ渡った。

恭介は毎日のように女子野球部の練習を見学に訪れ、皆を激励した。

勿論、一番の目的は優里の練習風景を間近に見ることにあったのだが…

ネット越しにストレッチをする優里を見つけた恭介は声をかけた。

「水谷さん」

「あ、こんにちは」

「調子はどう?」

「はい。良いです。」

優里の答えに満足そうに頷くと、恭介は男子野球部が練習をする方へ消えていった。

「また理事長?」

すみれが優里のところへ歩み寄り小声で話しかけてきた。

「うん。いつも声かけてくれるんだよ。」

「なんかチャラいんだよね、理事長って。ブランド物の派手なスーツ着てるし、全身から好きになれない雰囲気が漂っている。」

「でも、ワタシをここに転入出来るように動いてくれたし、感謝してるのよ。」

優里は少し笑みを浮かべて答えた。

だが、すぐにその笑みは消え、表情が固まってしまった。

「優里、どうしたの?」

「…ううん。

あの、ごめん、すみれ。監督に全体練習に少し遅れるって言っといてくれる?
すぐに戻るし。」

優里はそう言うと、グランドを足早に出ていってしまった。 

グランドを出た優里はそのまま部室のある建物の方に向かい、裏手まで来た。

そこに、一人の男子生徒が立っていた。

坊主頭で身長は180ほどあり、ガッチリとした体格は運動部に属しているに違いなかった。

「水谷、久しぶりだな。」

「大輔…なんで、ここに…」

優里は愕然としたまま、その青年を見つめた。
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