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雷鳴

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全国高等学校女子硬式野球連盟は兵庫県丹波市にある。
会長の坂本を筆頭に役員が名を連ね、女子野球部を持つ強豪校から8名が理事を務めている。

その日、急遽緊急の会合が行われていた。
参加者は会長の坂本に事務局長の堀田、監事の山野、代表理事の浜田。

配られた書類のコピーを皆一様に目を通していたが、読み終えると坂本が口を開いた。

「堀さん、口頭でこの件の説明をしてくれますか。」

発言を受けた堀田は頷いて立ち上がった。

「昨日、加盟の咲聖学園より書類が届きました。
皆様に今読んでいただいているものと同じ内容のものです。
えーっと、要点を掻い摘んで話すと次の通りです」

堀田は咳払いを一つして、話を続けた。

「咲聖学園の水谷優里選手は生まれもっての女性ではなく、元は男性として生を受けました。
トランスジェンダー、所謂LGBTQというものです。
昨今のスポーツ界でこの言葉を耳にすることが多くなっています。

つまり、我々の連盟に加盟している高校で、そういう事案が発生してしまったのです。」

「堀田さん、水谷選手は大会に女性として参加したいということなんだね?」

「はい。」

「だが、先日テレビで見た時には、私は水谷選手が男子には全く見えなかったが。どこをどう見ても女子そのものだったんだが‥」

「資料によりますと、水谷選手は高校一年、16歳の時に性適合手術を行っております。
それと女性ホルモンの投与を受けているようです。」

堀田の話を聞いていた山野が手を挙げて発言した。

「よくニュースでこういう問題が起きてるのを見るが、言ったら悪いが、女性だって本人は主張してもどう見ても男にしか見えないってのがありますよね。
私もテレビで水谷選手を見たが、フツーの可愛い女の子だった。
申請を認めてあげてもいいんじゃないかって思います。」

堀田は首を横に振った。

「事はそう単純じゃないんです。
現在、女性への戸籍変更を行うには生殖器の除去、つまりさっき申しました手術をするのが必須となっています。
水谷選手はそこの部分はクリアしているのですが、性別変更の申請は18歳以上という法律があるために、申請の権利がありません。」

「なるほど。水谷選手はいつ18歳になるんですか?」

「来年の1月です。」

「夏の大会には間に合わないのか」

「そうです。つまり、戸籍上は男性である選手を女子として参加するのを認めるのか認めないのか‥
その判断を我々が下さなければならないのです。」

「難しいな。どっちの判断をしても批判を受けそうだな。」

坂本がため息をついて言うと、堀田は頷き、話を始めた。

「少し前までなら参加を認めるという潮流だったのですが、海外でトランスジェンダーの選手が女子の大会に参加してとんでもない記録を出して批判が殺到し、大会から締め出される流れになっております。」

「そうだね。水谷選手は見た目はまるっきり女子高生だが、投手として放る球の速さが‥147キロだったっけ?
男子並み、いや男子以上の威力があるボールを投げるからね。」

「そうです。調査によると、水谷選手は高校一年の時に
、男子として夏の県大会予算に出場。球速155キロを記録しています。そのときは、不祥事があり高校は二回戦への出場を辞退したのと、学校自体が強豪校ではなかったので、全国的な話題にはならなかったようです。
大会後、水谷選手は野球部を退部してしまったようです。その年のうちに性適合手術をして女性として生活するようになり、高校2年の秋に現在の咲聖学園に転入。3年になって女子野球部に入部したそうです。」

「155キロか、一年のときに‥それはスゴイな。」

「体が女性化して筋力が落ちたという事で、その時のような球速は今は出ないようですが、あの球を打てる女子選手は多分存在しません。」

「大会で無双でもされたら、問題化してしまうってわけか。」

誰も答えを出せず、その日はお開きとなった。
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