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恋と同時に失恋をする
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「ねぇ、いつも写真撮ってるよね」
高校2年生の新学期初日。私はいつものように、デジカメを手に写真を撮っていました。学校のすぐ側を流れる川と、絢爛豪華に咲き誇る桜のコントラストが美しく、思わずシャッターをきっていたのです。
そんなときでした。突然話しかけられた私は、カメラを下げ、声の主へ目を向けました。
彼は同級生でした。しかし私は彼のことを見たことがなく、初対面でした。彼も私と同じようにカメラを手に持っていましたが、そのカメラは最新式の、1つ何万円もするものでした。
「う、うん。好きなんだ、写真撮るの」
「やっぱり。すごい腕前だもんね。いつも凄いなって思ってたんだ、新聞部の写真」
私は新聞部に所属しており、どうやら彼は私の作った新聞を見たらしいのです。
「よければ教えてくれないかな、写真」
「え?」
「僕も写真、始めたいんだ」
新聞のことを褒められて舞い上がっていた私は、快くその申し出を承諾しました。
この出会いが、彼と私の1年間の始まり。これから私は、彼と写真を撮っていくことになるのです。
彼の名前は剣持尊、私が恋する人でした。
彼は綺麗なものを撮りたがりました。夕日や海、快晴の青空、満月。果ては道端にひっそりと咲くたんぽぽまで、パシャリパシャリと途切れることなくシャッターを切り続けていました。
梅雨になり、雨が降っているにも関わらず、私と彼は傘をさしてカメラを構えていました。お目当ては公園に咲く紫陽花。雨露に濡れる紫陽花も綺麗だと、私が言ったことが発端でした。
「本当だ、凄く綺麗」
「晴天もいいけど、雨の景色も乙なものだと思うの」
「確かに、考えが変わったかもしれないな。雨が降ると偏頭痛が辛いから、今まで好きじゃなかったんだけど」
彼はそう言って、またシャッターをきりました。
夏休み。彼と私は色々なところへ出向きました。星を撮りに山へ行ったり、海へ行ったり。車窓からの景色を撮りたいと、列車に乗ったりもしました。
彼が花火の写真を撮りたいと言ったので、彼と一緒に夏祭りに行くことになりました。このときすでに彼のことが好きだった私は、可愛くおめかしをして、少しだけ薄化粧もして、夏祭りに赴きました。
待ち合わせ場所は神社の鳥居の前で、私が到着したときには、彼はすでにそこで写真を撮っていました。大きなカメラに着物というアンバランスさが、なぜだか彼にはよく似合っていたのを覚えています。
「お待たせ」
「ううん、僕も今来たところだから」
そんな典型的な会話を交わし、私と彼は鳥居をくぐりました。
目指すは境内。そこが私が知る中で、最も花火が綺麗に見える場所だったのです。境内に行くまでの石畳の道には出店が立ち並び、にぎやかな声が辺りを包んでいました。
「あ、りんご飴買ってもいい?」
「もちろん、僕も買おうかな」
二人でりんご飴を買って、舐めながら境内を目指します。りんご飴で500円はちょっと高いね、などと他愛もない話をしながら、私は慣れない下駄で彼の横を歩きました。
境内までの長い階段を上りきり、私は息も絶え絶えでした。彼も同じで、石段にへたりこんで二人で笑い合いました。
花火が始まり、私と彼は同時にカメラを構えました。花火の音にシャッター音が消えていく中、私は彼に問うたのです。
「ねぇ、どうしてカメラを始めたの?」
そんな純粋な疑問が、私の彼への想いを引き裂くことになるとも知らずに。
彼は少しだけ、悲しそうに、寂しそうに答えました。
「好きな人がね、入院してるんだ」
え、という言葉は、花火の音で書き消えました。真夏の夜、私の心だけが、唐突に北極海に放り込まれたのです。
「その人、もう何年も入院してるんだ。常に点滴に繋がれてて、寝たきりの状態」
「そう、なの」
ぎこちない言葉しか、返せませんでした。
「だから僕があの人の代わりに色々なところに行って、写真を撮って、あの人に見せようと思ってさ」
私はその時、なんて返したのか覚えていません。しかし花火の音に書き消えたのか、彼は何も言いませんでした。
秋になり、私と彼は紅葉狩りをしに山へと赴きました。私はこのときまで想いをひた隠しにし、彼との関係を現状維持にとどめていました。
紅葉は色づき、世界を朱く彩っていました。私の頬の色を誤魔化すかのように、それはもう、朱く、朱く。
シャッターをきった彼は、私に言いました。
「ねぇ、君はどうして写真を撮るの?」
「え?」
「前、僕に聞いたじゃないか。急に思い出してね」
「……忘れたくないの」
私もシャッターをきりました。
「人間の脳ってどうしても忘れてしまうものなの。だけど、写真に残せば思い出せるでしょう」
「そうだね、その場の景色を切り取るわけだし。日記みたいなものかもしれない」
私は、またシャッターをきりました。彼に向かって。
「って、僕?」
「嫌だった?」
「ううん、別に構わないけど……急にどうして?」
「忘れたくなかったから」
忘れたくありませんでした。彼との思い出も、彼のことも。そして、私が捨て去るこの欲も。
私はこのまま、現状維持を選んだのです。この選択が吉と出るか凶と出るか、私にはまだわからなかったのです。
冬になりました。地元はそこそこ寒く、冬になると雪が積もります。このとき私は、彼のことを諦めつつも、好きでいました。自分の中で、整理がついていたのです。
私は彼のことを諦めました。なぜなら彼には好きな人がいるのですから。ですが私は、好きな人のために一生懸命になれる彼のことを、好きになったのです。
つまり私の恋は、失恋と=だったのです。私は、それでよかったのです。
雪景色をカメラに収めながら、彼はポツリとつぶやきました。
「綺麗だね」
「そうね」
彼も私も、あまり話すタイプではありませんでした。しかしこの無言彼と肩を並べている時間が、私は大好きでした。
「……大好き」
「……え?」
彼が目を丸くしてこちらを見ていることに気がついて、私はようやく自分が口に出した言葉を理解しました。
「え、あ、え……な、なんでもない。忘れて」
私は逃げ出したくなって、彼に背を向けて歩き出しました。彼は後を追ってきますが、私は足を止めて振り返ることができませんでした。
「待って、ねぇ、ちょっと……」
「………………」
「それって、どうい、う……」
彼の声が、途絶えたのです。積雪のために静かな空間で、私は何かが倒れたような音を聞きました。
「……剣持君?」
彼の声がしなくて、不安になった私は、振り返りました。
彼は、雪の上で横たわり、動かなくなっていました。
病院に搬送された頃には、彼はもう帰らぬ人となっていました。彼は末期癌で、私と出会った時点で余命1年だったそうです。写真を撮るために出歩いたために無理がたたり、余命よりも早く亡くなってしまったと。お医者様からそう告げられたとき、私は崩れ落ちました。
一生分の涙を流しました。脱水症状を起こして、死んでしまうのではないかと思ってしまうほど、私は涙を流し続けました。
あまりにも、唐突でした。
それから一ヶ月、私は死人のように無気力で、カメラに触れることをしませんでした。カメラの中にはデータがあり、そこには彼の写真があります。忘れたくないと写真を撮ったのに、忘れたいから見ないという、反対の行動をとっていました。
冬休みが終わり、新学期が始まりました。長い校長先生の話は全くと言っていいほど頭に入ってこず、明日ある休み明け恒例のテストの勉強も、する気になれませんでした。
私は校門を出て、なんとなく、側を通る川を見に行きました。桜が咲いていないそこは、私にとってはまるで墓場のようで。何故ここに来たのかわからずに、踵を返そうとしました。
「あ、待って待って!」
呼び止められて、足を止めました。車輪の音が聞こえ、私は声の主を視界に収めました。
車椅子に乗った女性でした。病院着を着ていて、やせ細り、とても健康的には見えませんでした。だというのに、彼女の笑顔はとても明るかったのです。
「あなたが岡野美咲さん?」
岡野美咲。私の名前でした。
「……はい、そうですけど。なにか」
「突然ごめんなさいね。新学期が始まるって聞いて、張り込みしてたのよ」
そう明るく言う彼女は、冬の中に咲く桜のようでした。
「あのね、尊君からあなたのことは聞いていたの」
私は悟りました。彼女が、彼の好きな人だったのだと。
あなたのために無理をしたから、彼は死んだのだ。そう責め立てたくなって、私は自分で自分の頬を叩きました。
「ちょちょちょ、どうしたの!?」
「いえ、なんでもありません」
「そう……?」
彼女は心配そうに、私の顔を見上げていました。そんな優しい彼女です、彼が惚れるのも無理はありませんでした。
「今日はね、あなたにどうしてもお礼を言いたくて」
「……お礼?私、何も……」
「いいえ。尊君、楽しそうだったから」
彼女から聞かされた話は、私を励ますには十分すぎるものでした。
「尊君、余命1年だって言われて、ずっと沈んでたの。私ったら見ていられなくて、なにか趣味を見つけたら?って。同室のよしみでね」
そのとき彼は、たまたま体調が良くて登校した日に、私の作った新聞の写真を見たそうで。カメラを始めてみよう、と思った彼に、彼のご両親がもう最期だからと奮発して、高いカメラを買い与えたそうです。
「尊君、あなたと一緒に写真を撮るようになってから、とっても明るくなって。いつも写真を見せてもらうときに、あなたの腕が凄い凄いって。私もそんな尊君を見て、もうちょっと治療、頑張ってみようって」
だから、ありがとう。
その瞬間、私の涙腺は決壊しました。あのとき、一生分の涙を流しきったと思ったのに。
「ですから私は、今まで写真を続けられてきたんです。今回最優秀賞を頂いた写真は、彼と、そして彼女と出会った思い出の場所なので、とても嬉しく思います……こんな感じで、いいんでしょうか」
「はい!バッチリです……!ぐすっ」
日本全国写真大賞、最優秀賞受賞者である岡野美咲に、記者はそう言った。
高校2年生の新学期初日。私はいつものように、デジカメを手に写真を撮っていました。学校のすぐ側を流れる川と、絢爛豪華に咲き誇る桜のコントラストが美しく、思わずシャッターをきっていたのです。
そんなときでした。突然話しかけられた私は、カメラを下げ、声の主へ目を向けました。
彼は同級生でした。しかし私は彼のことを見たことがなく、初対面でした。彼も私と同じようにカメラを手に持っていましたが、そのカメラは最新式の、1つ何万円もするものでした。
「う、うん。好きなんだ、写真撮るの」
「やっぱり。すごい腕前だもんね。いつも凄いなって思ってたんだ、新聞部の写真」
私は新聞部に所属しており、どうやら彼は私の作った新聞を見たらしいのです。
「よければ教えてくれないかな、写真」
「え?」
「僕も写真、始めたいんだ」
新聞のことを褒められて舞い上がっていた私は、快くその申し出を承諾しました。
この出会いが、彼と私の1年間の始まり。これから私は、彼と写真を撮っていくことになるのです。
彼の名前は剣持尊、私が恋する人でした。
彼は綺麗なものを撮りたがりました。夕日や海、快晴の青空、満月。果ては道端にひっそりと咲くたんぽぽまで、パシャリパシャリと途切れることなくシャッターを切り続けていました。
梅雨になり、雨が降っているにも関わらず、私と彼は傘をさしてカメラを構えていました。お目当ては公園に咲く紫陽花。雨露に濡れる紫陽花も綺麗だと、私が言ったことが発端でした。
「本当だ、凄く綺麗」
「晴天もいいけど、雨の景色も乙なものだと思うの」
「確かに、考えが変わったかもしれないな。雨が降ると偏頭痛が辛いから、今まで好きじゃなかったんだけど」
彼はそう言って、またシャッターをきりました。
夏休み。彼と私は色々なところへ出向きました。星を撮りに山へ行ったり、海へ行ったり。車窓からの景色を撮りたいと、列車に乗ったりもしました。
彼が花火の写真を撮りたいと言ったので、彼と一緒に夏祭りに行くことになりました。このときすでに彼のことが好きだった私は、可愛くおめかしをして、少しだけ薄化粧もして、夏祭りに赴きました。
待ち合わせ場所は神社の鳥居の前で、私が到着したときには、彼はすでにそこで写真を撮っていました。大きなカメラに着物というアンバランスさが、なぜだか彼にはよく似合っていたのを覚えています。
「お待たせ」
「ううん、僕も今来たところだから」
そんな典型的な会話を交わし、私と彼は鳥居をくぐりました。
目指すは境内。そこが私が知る中で、最も花火が綺麗に見える場所だったのです。境内に行くまでの石畳の道には出店が立ち並び、にぎやかな声が辺りを包んでいました。
「あ、りんご飴買ってもいい?」
「もちろん、僕も買おうかな」
二人でりんご飴を買って、舐めながら境内を目指します。りんご飴で500円はちょっと高いね、などと他愛もない話をしながら、私は慣れない下駄で彼の横を歩きました。
境内までの長い階段を上りきり、私は息も絶え絶えでした。彼も同じで、石段にへたりこんで二人で笑い合いました。
花火が始まり、私と彼は同時にカメラを構えました。花火の音にシャッター音が消えていく中、私は彼に問うたのです。
「ねぇ、どうしてカメラを始めたの?」
そんな純粋な疑問が、私の彼への想いを引き裂くことになるとも知らずに。
彼は少しだけ、悲しそうに、寂しそうに答えました。
「好きな人がね、入院してるんだ」
え、という言葉は、花火の音で書き消えました。真夏の夜、私の心だけが、唐突に北極海に放り込まれたのです。
「その人、もう何年も入院してるんだ。常に点滴に繋がれてて、寝たきりの状態」
「そう、なの」
ぎこちない言葉しか、返せませんでした。
「だから僕があの人の代わりに色々なところに行って、写真を撮って、あの人に見せようと思ってさ」
私はその時、なんて返したのか覚えていません。しかし花火の音に書き消えたのか、彼は何も言いませんでした。
秋になり、私と彼は紅葉狩りをしに山へと赴きました。私はこのときまで想いをひた隠しにし、彼との関係を現状維持にとどめていました。
紅葉は色づき、世界を朱く彩っていました。私の頬の色を誤魔化すかのように、それはもう、朱く、朱く。
シャッターをきった彼は、私に言いました。
「ねぇ、君はどうして写真を撮るの?」
「え?」
「前、僕に聞いたじゃないか。急に思い出してね」
「……忘れたくないの」
私もシャッターをきりました。
「人間の脳ってどうしても忘れてしまうものなの。だけど、写真に残せば思い出せるでしょう」
「そうだね、その場の景色を切り取るわけだし。日記みたいなものかもしれない」
私は、またシャッターをきりました。彼に向かって。
「って、僕?」
「嫌だった?」
「ううん、別に構わないけど……急にどうして?」
「忘れたくなかったから」
忘れたくありませんでした。彼との思い出も、彼のことも。そして、私が捨て去るこの欲も。
私はこのまま、現状維持を選んだのです。この選択が吉と出るか凶と出るか、私にはまだわからなかったのです。
冬になりました。地元はそこそこ寒く、冬になると雪が積もります。このとき私は、彼のことを諦めつつも、好きでいました。自分の中で、整理がついていたのです。
私は彼のことを諦めました。なぜなら彼には好きな人がいるのですから。ですが私は、好きな人のために一生懸命になれる彼のことを、好きになったのです。
つまり私の恋は、失恋と=だったのです。私は、それでよかったのです。
雪景色をカメラに収めながら、彼はポツリとつぶやきました。
「綺麗だね」
「そうね」
彼も私も、あまり話すタイプではありませんでした。しかしこの無言彼と肩を並べている時間が、私は大好きでした。
「……大好き」
「……え?」
彼が目を丸くしてこちらを見ていることに気がついて、私はようやく自分が口に出した言葉を理解しました。
「え、あ、え……な、なんでもない。忘れて」
私は逃げ出したくなって、彼に背を向けて歩き出しました。彼は後を追ってきますが、私は足を止めて振り返ることができませんでした。
「待って、ねぇ、ちょっと……」
「………………」
「それって、どうい、う……」
彼の声が、途絶えたのです。積雪のために静かな空間で、私は何かが倒れたような音を聞きました。
「……剣持君?」
彼の声がしなくて、不安になった私は、振り返りました。
彼は、雪の上で横たわり、動かなくなっていました。
病院に搬送された頃には、彼はもう帰らぬ人となっていました。彼は末期癌で、私と出会った時点で余命1年だったそうです。写真を撮るために出歩いたために無理がたたり、余命よりも早く亡くなってしまったと。お医者様からそう告げられたとき、私は崩れ落ちました。
一生分の涙を流しました。脱水症状を起こして、死んでしまうのではないかと思ってしまうほど、私は涙を流し続けました。
あまりにも、唐突でした。
それから一ヶ月、私は死人のように無気力で、カメラに触れることをしませんでした。カメラの中にはデータがあり、そこには彼の写真があります。忘れたくないと写真を撮ったのに、忘れたいから見ないという、反対の行動をとっていました。
冬休みが終わり、新学期が始まりました。長い校長先生の話は全くと言っていいほど頭に入ってこず、明日ある休み明け恒例のテストの勉強も、する気になれませんでした。
私は校門を出て、なんとなく、側を通る川を見に行きました。桜が咲いていないそこは、私にとってはまるで墓場のようで。何故ここに来たのかわからずに、踵を返そうとしました。
「あ、待って待って!」
呼び止められて、足を止めました。車輪の音が聞こえ、私は声の主を視界に収めました。
車椅子に乗った女性でした。病院着を着ていて、やせ細り、とても健康的には見えませんでした。だというのに、彼女の笑顔はとても明るかったのです。
「あなたが岡野美咲さん?」
岡野美咲。私の名前でした。
「……はい、そうですけど。なにか」
「突然ごめんなさいね。新学期が始まるって聞いて、張り込みしてたのよ」
そう明るく言う彼女は、冬の中に咲く桜のようでした。
「あのね、尊君からあなたのことは聞いていたの」
私は悟りました。彼女が、彼の好きな人だったのだと。
あなたのために無理をしたから、彼は死んだのだ。そう責め立てたくなって、私は自分で自分の頬を叩きました。
「ちょちょちょ、どうしたの!?」
「いえ、なんでもありません」
「そう……?」
彼女は心配そうに、私の顔を見上げていました。そんな優しい彼女です、彼が惚れるのも無理はありませんでした。
「今日はね、あなたにどうしてもお礼を言いたくて」
「……お礼?私、何も……」
「いいえ。尊君、楽しそうだったから」
彼女から聞かされた話は、私を励ますには十分すぎるものでした。
「尊君、余命1年だって言われて、ずっと沈んでたの。私ったら見ていられなくて、なにか趣味を見つけたら?って。同室のよしみでね」
そのとき彼は、たまたま体調が良くて登校した日に、私の作った新聞の写真を見たそうで。カメラを始めてみよう、と思った彼に、彼のご両親がもう最期だからと奮発して、高いカメラを買い与えたそうです。
「尊君、あなたと一緒に写真を撮るようになってから、とっても明るくなって。いつも写真を見せてもらうときに、あなたの腕が凄い凄いって。私もそんな尊君を見て、もうちょっと治療、頑張ってみようって」
だから、ありがとう。
その瞬間、私の涙腺は決壊しました。あのとき、一生分の涙を流しきったと思ったのに。
「ですから私は、今まで写真を続けられてきたんです。今回最優秀賞を頂いた写真は、彼と、そして彼女と出会った思い出の場所なので、とても嬉しく思います……こんな感じで、いいんでしょうか」
「はい!バッチリです……!ぐすっ」
日本全国写真大賞、最優秀賞受賞者である岡野美咲に、記者はそう言った。
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