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なんとなく六賢国の輪郭が見えてきました。
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旅は順調に続く。ずっと馬車に揺られっぱなしではあったが、メルナキアの話のおかげであまり退屈せずに済んでいた。
「へぇ。メルナキアは魔道具の研究者なのか」
「は、はい。こう見えても〈アカデミー〉で研究室を持っているんですよ」
「……アカデミー?」
ラオデール六賢国では、学者やその卵たちが集う機関……通称〈アカデミー〉があるらしい。研究内容や学問によって、かなりの研究室があるとか。
メルナキアは魔道具研究者ではあるが、魔道具に限らず他分野にわたって研究をしているとのことだった。その一つが。
「海中における魔力濃度および瘴気について……?」
「はい。2000年前、瘴気が各地に降り注いだという話はしましたよね? 当然、海にも降り注いだのでは……そう考える者は多いのです」
その場合、海中に魔獣が存在しているのでは。しかし周辺海域に魔獣は生息していない。
ここで思い出したようにアハトが口を開いた。
「海に生息する魔獣は、魔獣大陸南部で確認されているのでしたか」
「ああ……そういやルシアがそんなことを話していたな」
なぜ魔獣大陸はマルセバーンにしか玄関口がないのか。その理由を教えてくれていた時にそんな話を聞いたな。
「そうなんです。降り注いだ規模からみて、瘴気の影響を受けた海域はもっと多くてもおかしくないはずなのです。しかし事実として、海中に住まう魔獣は魔獣大陸の一部にしか確認されておりません」
その謎を解き明かすべく、メルナキアは深海部の海水を採取していたらしい。うーん……研究者っぽい……。
『なるほど……なかなか興味をひかれるテーマだ。この星の不可思議さの解明にもつながるかもしれんな』
リリアベルさんの研究者魂にも火がついたようだ。リリアベルとメルナキア、話が合いそうだな……。
「でもこの分野ではなかなか目新しい発見や報告ができなくて……。それで魔道具の研究や開発で、アカデミーから予算をもらっているんです」
「なるほど……本来やりたい研究内容では予算の確保がむずかしいわけだ」
たぶんメルナキアにとって、魔道具の研究が最も簡単に成果を出せるのだろう。そして実績があれば研究室存続のために予算がつけられる……と。
「他の研究室のように助手でもいれば、もっと楽になるんですけど……」
「……ん? メルナキアの研究室には助手がいないのか?」
「はい。わたし1人だけの研究室です。助手希望者もいないので……」
アカデミーがどういう仕組みで運営されているのかわからないから、なんとも言えないが。漫画家がアシスタントなしで書き続けているようなものなのだろうか。
ここでリュインは元気よく宙に舞う。
「ねぇねぇ! 歴史を研究している人っていないの?」
「れ、歴史……ですか……?」
「そう! わたしたち、四聖剣を探して旅をしているんだけど! 歴史研究者からぜひ話を聞いてみたいの! どこに四聖剣があるのか、てね!」
こいつは出会ったときからぶれねぇな……。
だが四聖剣の話をメルナキアしたのは初めてだ。どんな反応を見せるか……と思っていたら、彼女は顔を下に向けた。
「し……四聖剣……。なるほど……れ、歴史……興味。おありですか……?」
「もっちろん! 2000年前に魔人王と戦った〈フェルン〉、それにまつわる話だし! 同じ〈フェルン〉として……そして四聖剣を集めて大精霊を召喚するためにも! 昔のことは知りたいに決まっているわ!」
リュインはくるくる~、と空中で華麗にスピンを決めながら飛び回る。
同じ馬車に乗っている連中の何人かもそんなリュインを見ていた。目立ってるなぁ……。
「ふ……く、ふふ……。わ……わた、わたし……じつは、ですね……くふふ……。れき……歴史の研究が……一番やりたい、こと……なんです……」
「え!? そうなの!?」
「くふふふ……え、えぇ……で、でも。いろいろあって……なかなかむずかしいんですが……。四聖剣……語っても……よ、よろしい……ですか……?」
あ……これはまずい予感がする。だが俺が口を開くよりもはやくリュインが答えた。
「よろしいわよ!」
「コホン……で、では」
ここでメルナキアは顔を上げる。その緑の目はどこかギラついていた。
「そもそも伝説に語られる魔人王討伐伝説ですがこれは不可解な部分も非常に多くいまだに解き明かされていない謎も多いのです四聖剣とその使い手である4人の〈フェルン〉もその一つでしょうそもそも精霊の中でも〈フェルン〉というのはそれほど強力な個体ではございませんそうした事情から4人の〈フェルン〉自体が実はあとから作られた空想上の登場人物ではないかともいわれていますその根拠として英雄たちを激励する〈フェルン〉というのが単純に見栄えがいいというものがあげられますというのも魔人王と5人の英雄については演劇テーマとして流行した時代がありまして舞台映えさせるために〈フェルン〉を登場させたのがきっかけではと言われているんですねそして四聖剣についてはっきりと明記された一次資料はありませんその一方で四大精霊から授けられし剣というのが一部で記載がありこれこそが四聖剣のもとになったのではという説もありますいずれにせよ」
………………。ふぅ……なるほどね。よし! あとでリリアベルに簡単にまとめてもらったのを教えてもらおう!
ちらりと視線を横に向けると、リュインはふんふんと聞いている。アハトは無表情だがばっちり耳に入っているだろう。
「現に〈フェルン〉と四聖剣については時代が下ってからの方が文献上に…………そのうえ英雄というのは…………」
しかしずいぶんと港町から離れたなぁ。高度も上がっているし、気温も低い。この辺りは雪も残っているし。
ちょうど冬を越したところらしいが……そう考えるとラオデール六賢国に訪れるタイミングはよかったのかもしれない。
ちなみに山頂に見える雪は一年中存在しているらしい。てっぺんから足を滑らせたら、えらいことになりそうだ。
(そういやこの馬車……とくに護衛とかはつけていないんだよな。賊に対する警戒とかないのだろうか)
それともこういう環境だし、賊自体がいないのかね。追いはぎだけで冬を越すのはむずかしいだろうし。
あるいはそれだけ政情が安定しているのか。なんたって賢者たちが治める国だからな。
「なるほど! 四聖剣がどこにあるのかわからないとういことはわかったわ!」
どうやら話が終わったらしい。そしてリュインの結論を聞く限り、目新しい情報はなかったようだ。
「実在するかも謎なのですが……」
「メルナキア。大図書館にはそのあたりの資料……魔人王伝説に関して詳細に記載された記録はありますか?」
アハトが静かな口調でたずねる。まぁもともと魔人王伝説やらが知りたくてこの国に来たんだしな。
「記録自体はたぶんあります。でもそれほど昔の資料になると、許可を得た者でなければ閲覧できません……」
「許可? だれの? メルナキアの許可じゃだめなのか?」
いちおうアカデミーで研究室を持っているんだし。学問を貴ぶ国で研究室を持っているなら、それなりに権威はもっていそうだけど。
しかしメルナキアは首を横に振る。
「閲覧できる資料にはいくつかランク分けされているんですけど……。それほど貴重なものになると、六賢者クラスの許可が必要になってきます」
「それって……申請すればもらえるものなの?」
「相応の理由と実績のある研究者でないとむずかしいかと……」
うへぇ……。この口ぶりだとメルナキアもむずかしいみたいだな……。
「それに六賢者の許可を得て資料を閲覧する以上、結果を求められます」
「結果?」
「はい。ただ見て感想文を書くだけでは絶対に許可をいただけません。許可を出した六賢者の顔に泥を塗る行為になりますから。資料を閲覧したうえで、どういった知見が得られたのか。研究者としての結果を出さなくてはならないのです」
要するに貴重な資料を見たければ、たとえ優秀な研究者であったとしても、かなりのプレッシャーを抱えながら許可を申請しなければならないわけだ。
許可を出す以上、見るだけでは許しませんなんて……いかにもせこそうな学者が考えそうなことだ。そうやって六賢者としての威光を振りかざしているのだろう。
「そうした資料を制限なく見られるのは六賢者だけですから。学者の中にはその権力が欲しくて六賢者を目指す者もいます」
「へぇ……」
「といっても六賢者は為政者でもあります。研究がしたくて六賢者になったのに、そんな時間がほとんど取れないのが実情みたいですけどね」
ああ……それはそうだろうなぁ。それに政治経験のない者にいきなり為政者は務まらない。
だからこそ6人もいるんだろう。1人が新人になっても残りの5人でカバーできるように。
引き継ぎ業務や賢者を支える官僚なんかもいるんだろうな。あるいは六賢者自体、それなりに政治にかかわってきた家の者から選ばれている可能性もあるか。
「実際に六賢者の許可を得て資料を見た研究者はいるのか?」
「少ないですが、ゼロではないです。ですが最近は聞きませんね」
「そうなの?」
「はい。古語を研究する人が減り、魔道具研究をする人が増えたからです」
「…………ん?」
大昔の記録は当然、その時代の言葉で記載されている。今よりも難しい言い回しや難解な字体が多いのだ。
つまり古の資料を見たければ、まず古代の言葉に精通していなければならない。
だが今のラオデール六賢国には、魔獣大陸から安定して魔獣資源が入ってくるようになった。これにより魔道具研究を始める者が一気に激増したのだ。
そもそも初代王の作成した魔道具の再現という命題もある。こうした国独自の環境も手伝い、魔道具研究者を目指す者が今も多いのだとか。
「つまり……難しい古代の言葉を勉強するより、豊富な魔獣素材を用いて初代王の魔道具再現を研究する者の方が多いと……」
「はい。もし初代王の魔道具を再現できれば、次の六賢者の席も確実でしょうし」
なるほどねぇ……。大国間における魔獣大陸に関する取り決めが、結果としてこの国の研究者を大きく変えたわけだ。
ここでも魔獣大陸の影響力はすさまじいな……。
「ちなみにメルナキアは古語ってできるの?」
「多少は覚えがありますが……2000年前のものはさすがにむずかしいですね」
昨今の事情を鑑《かんが》みるに、古語をマスターしていそうな研究者を見つけるのも大変そうだ……。
なんとなくラオデール六賢国の事情がわかりはじめたその日。昼を回ったところで、とうとう首都リヴディンが視界に入った。
「へぇ。メルナキアは魔道具の研究者なのか」
「は、はい。こう見えても〈アカデミー〉で研究室を持っているんですよ」
「……アカデミー?」
ラオデール六賢国では、学者やその卵たちが集う機関……通称〈アカデミー〉があるらしい。研究内容や学問によって、かなりの研究室があるとか。
メルナキアは魔道具研究者ではあるが、魔道具に限らず他分野にわたって研究をしているとのことだった。その一つが。
「海中における魔力濃度および瘴気について……?」
「はい。2000年前、瘴気が各地に降り注いだという話はしましたよね? 当然、海にも降り注いだのでは……そう考える者は多いのです」
その場合、海中に魔獣が存在しているのでは。しかし周辺海域に魔獣は生息していない。
ここで思い出したようにアハトが口を開いた。
「海に生息する魔獣は、魔獣大陸南部で確認されているのでしたか」
「ああ……そういやルシアがそんなことを話していたな」
なぜ魔獣大陸はマルセバーンにしか玄関口がないのか。その理由を教えてくれていた時にそんな話を聞いたな。
「そうなんです。降り注いだ規模からみて、瘴気の影響を受けた海域はもっと多くてもおかしくないはずなのです。しかし事実として、海中に住まう魔獣は魔獣大陸の一部にしか確認されておりません」
その謎を解き明かすべく、メルナキアは深海部の海水を採取していたらしい。うーん……研究者っぽい……。
『なるほど……なかなか興味をひかれるテーマだ。この星の不可思議さの解明にもつながるかもしれんな』
リリアベルさんの研究者魂にも火がついたようだ。リリアベルとメルナキア、話が合いそうだな……。
「でもこの分野ではなかなか目新しい発見や報告ができなくて……。それで魔道具の研究や開発で、アカデミーから予算をもらっているんです」
「なるほど……本来やりたい研究内容では予算の確保がむずかしいわけだ」
たぶんメルナキアにとって、魔道具の研究が最も簡単に成果を出せるのだろう。そして実績があれば研究室存続のために予算がつけられる……と。
「他の研究室のように助手でもいれば、もっと楽になるんですけど……」
「……ん? メルナキアの研究室には助手がいないのか?」
「はい。わたし1人だけの研究室です。助手希望者もいないので……」
アカデミーがどういう仕組みで運営されているのかわからないから、なんとも言えないが。漫画家がアシスタントなしで書き続けているようなものなのだろうか。
ここでリュインは元気よく宙に舞う。
「ねぇねぇ! 歴史を研究している人っていないの?」
「れ、歴史……ですか……?」
「そう! わたしたち、四聖剣を探して旅をしているんだけど! 歴史研究者からぜひ話を聞いてみたいの! どこに四聖剣があるのか、てね!」
こいつは出会ったときからぶれねぇな……。
だが四聖剣の話をメルナキアしたのは初めてだ。どんな反応を見せるか……と思っていたら、彼女は顔を下に向けた。
「し……四聖剣……。なるほど……れ、歴史……興味。おありですか……?」
「もっちろん! 2000年前に魔人王と戦った〈フェルン〉、それにまつわる話だし! 同じ〈フェルン〉として……そして四聖剣を集めて大精霊を召喚するためにも! 昔のことは知りたいに決まっているわ!」
リュインはくるくる~、と空中で華麗にスピンを決めながら飛び回る。
同じ馬車に乗っている連中の何人かもそんなリュインを見ていた。目立ってるなぁ……。
「ふ……く、ふふ……。わ……わた、わたし……じつは、ですね……くふふ……。れき……歴史の研究が……一番やりたい、こと……なんです……」
「え!? そうなの!?」
「くふふふ……え、えぇ……で、でも。いろいろあって……なかなかむずかしいんですが……。四聖剣……語っても……よ、よろしい……ですか……?」
あ……これはまずい予感がする。だが俺が口を開くよりもはやくリュインが答えた。
「よろしいわよ!」
「コホン……で、では」
ここでメルナキアは顔を上げる。その緑の目はどこかギラついていた。
「そもそも伝説に語られる魔人王討伐伝説ですがこれは不可解な部分も非常に多くいまだに解き明かされていない謎も多いのです四聖剣とその使い手である4人の〈フェルン〉もその一つでしょうそもそも精霊の中でも〈フェルン〉というのはそれほど強力な個体ではございませんそうした事情から4人の〈フェルン〉自体が実はあとから作られた空想上の登場人物ではないかともいわれていますその根拠として英雄たちを激励する〈フェルン〉というのが単純に見栄えがいいというものがあげられますというのも魔人王と5人の英雄については演劇テーマとして流行した時代がありまして舞台映えさせるために〈フェルン〉を登場させたのがきっかけではと言われているんですねそして四聖剣についてはっきりと明記された一次資料はありませんその一方で四大精霊から授けられし剣というのが一部で記載がありこれこそが四聖剣のもとになったのではという説もありますいずれにせよ」
………………。ふぅ……なるほどね。よし! あとでリリアベルに簡単にまとめてもらったのを教えてもらおう!
ちらりと視線を横に向けると、リュインはふんふんと聞いている。アハトは無表情だがばっちり耳に入っているだろう。
「現に〈フェルン〉と四聖剣については時代が下ってからの方が文献上に…………そのうえ英雄というのは…………」
しかしずいぶんと港町から離れたなぁ。高度も上がっているし、気温も低い。この辺りは雪も残っているし。
ちょうど冬を越したところらしいが……そう考えるとラオデール六賢国に訪れるタイミングはよかったのかもしれない。
ちなみに山頂に見える雪は一年中存在しているらしい。てっぺんから足を滑らせたら、えらいことになりそうだ。
(そういやこの馬車……とくに護衛とかはつけていないんだよな。賊に対する警戒とかないのだろうか)
それともこういう環境だし、賊自体がいないのかね。追いはぎだけで冬を越すのはむずかしいだろうし。
あるいはそれだけ政情が安定しているのか。なんたって賢者たちが治める国だからな。
「なるほど! 四聖剣がどこにあるのかわからないとういことはわかったわ!」
どうやら話が終わったらしい。そしてリュインの結論を聞く限り、目新しい情報はなかったようだ。
「実在するかも謎なのですが……」
「メルナキア。大図書館にはそのあたりの資料……魔人王伝説に関して詳細に記載された記録はありますか?」
アハトが静かな口調でたずねる。まぁもともと魔人王伝説やらが知りたくてこの国に来たんだしな。
「記録自体はたぶんあります。でもそれほど昔の資料になると、許可を得た者でなければ閲覧できません……」
「許可? だれの? メルナキアの許可じゃだめなのか?」
いちおうアカデミーで研究室を持っているんだし。学問を貴ぶ国で研究室を持っているなら、それなりに権威はもっていそうだけど。
しかしメルナキアは首を横に振る。
「閲覧できる資料にはいくつかランク分けされているんですけど……。それほど貴重なものになると、六賢者クラスの許可が必要になってきます」
「それって……申請すればもらえるものなの?」
「相応の理由と実績のある研究者でないとむずかしいかと……」
うへぇ……。この口ぶりだとメルナキアもむずかしいみたいだな……。
「それに六賢者の許可を得て資料を閲覧する以上、結果を求められます」
「結果?」
「はい。ただ見て感想文を書くだけでは絶対に許可をいただけません。許可を出した六賢者の顔に泥を塗る行為になりますから。資料を閲覧したうえで、どういった知見が得られたのか。研究者としての結果を出さなくてはならないのです」
要するに貴重な資料を見たければ、たとえ優秀な研究者であったとしても、かなりのプレッシャーを抱えながら許可を申請しなければならないわけだ。
許可を出す以上、見るだけでは許しませんなんて……いかにもせこそうな学者が考えそうなことだ。そうやって六賢者としての威光を振りかざしているのだろう。
「そうした資料を制限なく見られるのは六賢者だけですから。学者の中にはその権力が欲しくて六賢者を目指す者もいます」
「へぇ……」
「といっても六賢者は為政者でもあります。研究がしたくて六賢者になったのに、そんな時間がほとんど取れないのが実情みたいですけどね」
ああ……それはそうだろうなぁ。それに政治経験のない者にいきなり為政者は務まらない。
だからこそ6人もいるんだろう。1人が新人になっても残りの5人でカバーできるように。
引き継ぎ業務や賢者を支える官僚なんかもいるんだろうな。あるいは六賢者自体、それなりに政治にかかわってきた家の者から選ばれている可能性もあるか。
「実際に六賢者の許可を得て資料を見た研究者はいるのか?」
「少ないですが、ゼロではないです。ですが最近は聞きませんね」
「そうなの?」
「はい。古語を研究する人が減り、魔道具研究をする人が増えたからです」
「…………ん?」
大昔の記録は当然、その時代の言葉で記載されている。今よりも難しい言い回しや難解な字体が多いのだ。
つまり古の資料を見たければ、まず古代の言葉に精通していなければならない。
だが今のラオデール六賢国には、魔獣大陸から安定して魔獣資源が入ってくるようになった。これにより魔道具研究を始める者が一気に激増したのだ。
そもそも初代王の作成した魔道具の再現という命題もある。こうした国独自の環境も手伝い、魔道具研究者を目指す者が今も多いのだとか。
「つまり……難しい古代の言葉を勉強するより、豊富な魔獣素材を用いて初代王の魔道具再現を研究する者の方が多いと……」
「はい。もし初代王の魔道具を再現できれば、次の六賢者の席も確実でしょうし」
なるほどねぇ……。大国間における魔獣大陸に関する取り決めが、結果としてこの国の研究者を大きく変えたわけだ。
ここでも魔獣大陸の影響力はすさまじいな……。
「ちなみにメルナキアは古語ってできるの?」
「多少は覚えがありますが……2000年前のものはさすがにむずかしいですね」
昨今の事情を鑑《かんが》みるに、古語をマスターしていそうな研究者を見つけるのも大変そうだ……。
なんとなくラオデール六賢国の事情がわかりはじめたその日。昼を回ったところで、とうとう首都リヴディンが視界に入った。
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