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復讐の無能力者
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「は……はは……はははははははははは!!」
突然笑いだした俺を、パスカエルは気でも触れたかと見る。だがローゼリーアは目を閉じたまま、震える口で声を絞り出した。
「ああ……いけません。リク様のお力は……パスカエル様を上回っています……!」
「ローゼ? 何を言って……」
三本の長剣が俺に迫る。あまりにもお遊戯じみていて、何かの罠かとも疑ったが。
俺は刀を握る腕に力を込め、強く長剣に向けて振るう。室内に風が巻き起こり、神徹刀で叩かれた長剣三本はまとめて砕け散った。
「な、に……!?」
「はははははは! まさかこの程度で! 俺を! やれると思っていたなんてなぁ!」
先ほど見せた踏み込み以上の速さで、俺はパスカエルに接近する。何重にも障壁が張られていたが、それらを刀で砕いていく。まるで細い木の枝を折っているかの様な手ごたえだ。
「な……! 私の障壁を、こうも容易く……!?」
「そらそらそらぁ! 死ねぇ!」
「ふっ……! ショック・ヴァーグ!」
パスカエルが周囲を吹き飛ばす衝撃波を放つ。俺は左手で拳を作るとそこに力を集中させ、至近距離で放たれた衝撃波を正面から殴る。衝撃波は完全に相殺され、俺には何の影響も出なかった。
「な……に……!? こぶ、拳で!? 一体どうやって!?」
パスカエルの動揺を無視し、再び刀を振りかぶる。パスカエルは後方へと飛ぶが、身に纏った衣服はいくらか切り裂かれた。態勢は整えさせない。俺はさらに追い打ちをかける。
「ぬっ……!」
新たに二本の槍が、宙を舞って俺に迫りくる。また新しい物体操作を始めたのか。
「しゃらくせぇ!」
先ほど同様に槍を砕く。その隙に魔術の準備を整えたのか、パスカエルは勝ち誇った笑みを見せる。
「屋敷が半壊するがすまないね、メネジルド。もう手加減はできない。……聞け、アンセスター。我は天なる災害を体現する者。神域に踏み込み大魔術を行使する者。壊風よ、消し飛ばせ。滅びよ。カラミティ・オラージュ!」
発動する魔術の気配に、これまでとは文字通り桁が違う術が行使されたのだと理解する。メネジルドやローゼリーアの焦る表情も見える。
おそらくこの魔術は、周囲一帯に大きく影響を及ぼすもの。空間に強い魔力の気配が広がり、大いなる災害が引き起こされようとする。数瞬後には屋敷は跡形もなく崩れ去っているだろう。だが。
「理術・霊魔無為法・消波句」
俺の理術の発動と共に、周囲から魔術の気配は綺麗に消え去った。
「は……?」
惚けるパスカエルに距離を詰め、セイクリッドリングを装着している右腕を斬り落とす。腕は綺麗に宙を舞い、切断部からは血が噴き出た。
「お……おおお……おおおおおお!?」
「ぱ、パスカエル様!?」
「は……はははははははは!」
そのまま思いっきり胴体を蹴り飛ばす。パスカエルは面白い様に飛んで行った。
「あっははははははは! 無様だなぁパスカエルウゥゥゥゥ! 魔術が! お前の! 切り札である限り! 俺には通じねぇよおぉぉ!」
俺は理術で周囲の魔術霊術の類を消す事ができる。効果は一瞬だが、大型幻獣の様な規格外な奴や、近接戦や物理主体でもなければ対処ができる。
もっともこれは、通常状態ではそこそこ血を消失する術のため、乱発はできない。だが相手はその事を知らないし、どんな魔術であれ無効化する手段が俺にはあると思わせる事ができれば、戦略としてはそれで十分。
俺は地を這うパスカエルを刀でいくらか切り刻むと、さらに蹴り飛ばす。周囲にはパスカエルの耳や血がまき散らされていた。
「はははははは! 得意の魔術はどうしたぁ! 何が帝国最強、何が魔術師か! 発動できない魔術に意味なんざねぇよおぉぉ!」
「ぐふぅっ! ば、ばかな……! こ、こんな……! 私の魔術は、確かに完成していたはず……!」
「魔術ぅ!? ならもう一度試してみろよ! ほれ、今なら手出ししないでやるぞ?」
「くっ……! 風よ、我が」
「させるかぁ!」
散々蹴った身体をさらに蹴り上げる。
「おっと足が出ちまったなぁ! 手は出してないんだけどなぁ? そもそもぉ! 指輪もセプターも無しで、どうやって魔術を使うつもりだったんだぁ!?」
「ぐうぅ……! いったい……一体、何をしたんだぁ!?」
「うるせぇ!」
今度は顔面を強く殴る。こいつは簡単にはとどめを刺さない。俺の、シュドさんの、サリアの味わった苦しみはまだまだこんなものじゃない。
「簡単には死なせねぇぞ……! お前はサリアと同じく細かく切り刻んで! 幻獣の餌にしてやる!」
「う……ひ……」
■
「な……ば、ばかな!?」
メネジルドは理玖にいい様にされるパスカエルを見て、気が動転していた。目の前で有り得ない光景が繰り広げられている。魔力を持たない者が、帝国最強の魔術師を切り刻んでいるのだ。
「先ほどのパスカエル様の大魔術は確かに発動していた! 一体何故!?」
その疑問に答えたのはローゼリーアだった。
「お父様……。いかに強力な魔術であろうと、より上位の力に干渉されればどうしようもございません」
「じょ! 上位の、力だとぉ!?」
ローゼリーアは両目を開けて理玖を見ていた。開かれたその瞳は、万葉と同じく金色。そしてその金の相貌は魔眼でもある。今、ローゼリーアの目にはリクの力の片鱗が視えていた。
(確かに視えますわ……。リク様は魔力とは違う、何か別次元のお力を纏っておられる。初めてリク様をお見かけした際に感じた力はこれでしたのね……)
ローゼリーアの開かれた両目を前に、グライアンは恐れおののいている。だがメネジルドは気にした様子を見せずに叫んだ。
「パ! パスカエル様より! 優れたお力を持つ者などいるものかぁ!」
「お父様……。もう止めて下さい。パスカエル様の行ってきた事は間違いだったのです。それに協力してきたお父様も、グライアン殿下も。パスカエル様がこれまでなさってきた事。それは帝国のためという免罪符の下、単にご自身の知識欲を満たすものだったのではないですか……?」
メネジルドはローゼリーアの頬を強く叩く。ローゼリーアは堪らずその場に倒れた。
「お前が……! パスカエル様を否定するのか!? これまでアンベルタ家が、どれほどパスカエル様に尽くしてきたと思っておるのだ! お前の様な娘、その魔力が無ければ当に放逐しているところだ! 将来パスカエル様の役に立つからと家に置いてやっていたのだぞ! それをお前は……!」
ローゼリーアは、自分が家族からも疎まれている事はずっと前から理解していた。家族だけではない、その体質故に同世代の者からも距離を空けられていた。
だがその身に宿した魔力の強さもあって、父であるメネジルドは最低限の面倒をみていた。それもこれも将来、パスカエルの役に立てる様にと。魔術師の称号を取らせるため、貴族院に通わせたのもそのためだ。
特に家の方針に逆らう気もなく、ローゼリーア自身、自分と普通に会話ができるパスカエルの下で働く事には異存がなかった。
だが表沙汰になったパスカエルの研究に、これまで行ってきた人体実験の数々。パスカエル自身、それは誠の事だと認めた。全ては帝国のため。
パスカエルはローゼリーアにも、その研究の成果を使わせてあげようと言っていた。一体どれほどの悲劇、どれほどの死の上に完成したのだろうか。リクの怒りは、その悲劇の一幕に巻き込まれた者の怒りなのだと理解できた。
リクとは出会ってまだ間もない。話した回数も少ない。だが。その少ない回数で、ローゼリーアはこれまでの人生で一番楽しい語らいを経験できた。
今のローゼリーアには、リクと敵対してまでパスカエルの味方をする気にはなれない。
「お父様……。何度でも申し上げます。パスカエル様のこれまでの行いは間違いです。どの様な大義名分を掲げようとも、人の尊厳を踏みにじって良い理由にはなりません」
ローゼリーアの言葉を受け、メネジルドは目を細めた。
「……まさか我が娘が、これほど愚かだったとは。ああ、そうか。お前はパスカエル様の研究のすばらしさを目にした事がないから、そんな事が言えるのだ」
そう言うとメネジルドは、懐から黒い杭を取り出す。
「お父様、それは……」
「ふふ。お前もじきに分かる。パスカエル様のすばらしさが。その大いなる思考が。これを使えば、いくらお前が愚かな娘とはいえ、パスカエル様に感謝を捧げるだろう。自分を人という器から解放してくれたことに」
「あ……」
「さぁローゼリーア。新たな力を授かり。あの愚かな皇国人を殺し、パスカエル様に忠を尽くすのだ」
そう言ってメネジルドは、床に倒れるローゼリーアの心臓目掛けて黒い杭を突き出す。
突然笑いだした俺を、パスカエルは気でも触れたかと見る。だがローゼリーアは目を閉じたまま、震える口で声を絞り出した。
「ああ……いけません。リク様のお力は……パスカエル様を上回っています……!」
「ローゼ? 何を言って……」
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俺は刀を握る腕に力を込め、強く長剣に向けて振るう。室内に風が巻き起こり、神徹刀で叩かれた長剣三本はまとめて砕け散った。
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発動する魔術の気配に、これまでとは文字通り桁が違う術が行使されたのだと理解する。メネジルドやローゼリーアの焦る表情も見える。
おそらくこの魔術は、周囲一帯に大きく影響を及ぼすもの。空間に強い魔力の気配が広がり、大いなる災害が引き起こされようとする。数瞬後には屋敷は跡形もなく崩れ去っているだろう。だが。
「理術・霊魔無為法・消波句」
俺の理術の発動と共に、周囲から魔術の気配は綺麗に消え去った。
「は……?」
惚けるパスカエルに距離を詰め、セイクリッドリングを装着している右腕を斬り落とす。腕は綺麗に宙を舞い、切断部からは血が噴き出た。
「お……おおお……おおおおおお!?」
「ぱ、パスカエル様!?」
「は……はははははははは!」
そのまま思いっきり胴体を蹴り飛ばす。パスカエルは面白い様に飛んで行った。
「あっははははははは! 無様だなぁパスカエルウゥゥゥゥ! 魔術が! お前の! 切り札である限り! 俺には通じねぇよおぉぉ!」
俺は理術で周囲の魔術霊術の類を消す事ができる。効果は一瞬だが、大型幻獣の様な規格外な奴や、近接戦や物理主体でもなければ対処ができる。
もっともこれは、通常状態ではそこそこ血を消失する術のため、乱発はできない。だが相手はその事を知らないし、どんな魔術であれ無効化する手段が俺にはあると思わせる事ができれば、戦略としてはそれで十分。
俺は地を這うパスカエルを刀でいくらか切り刻むと、さらに蹴り飛ばす。周囲にはパスカエルの耳や血がまき散らされていた。
「はははははは! 得意の魔術はどうしたぁ! 何が帝国最強、何が魔術師か! 発動できない魔術に意味なんざねぇよおぉぉ!」
「ぐふぅっ! ば、ばかな……! こ、こんな……! 私の魔術は、確かに完成していたはず……!」
「魔術ぅ!? ならもう一度試してみろよ! ほれ、今なら手出ししないでやるぞ?」
「くっ……! 風よ、我が」
「させるかぁ!」
散々蹴った身体をさらに蹴り上げる。
「おっと足が出ちまったなぁ! 手は出してないんだけどなぁ? そもそもぉ! 指輪もセプターも無しで、どうやって魔術を使うつもりだったんだぁ!?」
「ぐうぅ……! いったい……一体、何をしたんだぁ!?」
「うるせぇ!」
今度は顔面を強く殴る。こいつは簡単にはとどめを刺さない。俺の、シュドさんの、サリアの味わった苦しみはまだまだこんなものじゃない。
「簡単には死なせねぇぞ……! お前はサリアと同じく細かく切り刻んで! 幻獣の餌にしてやる!」
「う……ひ……」
■
「な……ば、ばかな!?」
メネジルドは理玖にいい様にされるパスカエルを見て、気が動転していた。目の前で有り得ない光景が繰り広げられている。魔力を持たない者が、帝国最強の魔術師を切り刻んでいるのだ。
「先ほどのパスカエル様の大魔術は確かに発動していた! 一体何故!?」
その疑問に答えたのはローゼリーアだった。
「お父様……。いかに強力な魔術であろうと、より上位の力に干渉されればどうしようもございません」
「じょ! 上位の、力だとぉ!?」
ローゼリーアは両目を開けて理玖を見ていた。開かれたその瞳は、万葉と同じく金色。そしてその金の相貌は魔眼でもある。今、ローゼリーアの目にはリクの力の片鱗が視えていた。
(確かに視えますわ……。リク様は魔力とは違う、何か別次元のお力を纏っておられる。初めてリク様をお見かけした際に感じた力はこれでしたのね……)
ローゼリーアの開かれた両目を前に、グライアンは恐れおののいている。だがメネジルドは気にした様子を見せずに叫んだ。
「パ! パスカエル様より! 優れたお力を持つ者などいるものかぁ!」
「お父様……。もう止めて下さい。パスカエル様の行ってきた事は間違いだったのです。それに協力してきたお父様も、グライアン殿下も。パスカエル様がこれまでなさってきた事。それは帝国のためという免罪符の下、単にご自身の知識欲を満たすものだったのではないですか……?」
メネジルドはローゼリーアの頬を強く叩く。ローゼリーアは堪らずその場に倒れた。
「お前が……! パスカエル様を否定するのか!? これまでアンベルタ家が、どれほどパスカエル様に尽くしてきたと思っておるのだ! お前の様な娘、その魔力が無ければ当に放逐しているところだ! 将来パスカエル様の役に立つからと家に置いてやっていたのだぞ! それをお前は……!」
ローゼリーアは、自分が家族からも疎まれている事はずっと前から理解していた。家族だけではない、その体質故に同世代の者からも距離を空けられていた。
だがその身に宿した魔力の強さもあって、父であるメネジルドは最低限の面倒をみていた。それもこれも将来、パスカエルの役に立てる様にと。魔術師の称号を取らせるため、貴族院に通わせたのもそのためだ。
特に家の方針に逆らう気もなく、ローゼリーア自身、自分と普通に会話ができるパスカエルの下で働く事には異存がなかった。
だが表沙汰になったパスカエルの研究に、これまで行ってきた人体実験の数々。パスカエル自身、それは誠の事だと認めた。全ては帝国のため。
パスカエルはローゼリーアにも、その研究の成果を使わせてあげようと言っていた。一体どれほどの悲劇、どれほどの死の上に完成したのだろうか。リクの怒りは、その悲劇の一幕に巻き込まれた者の怒りなのだと理解できた。
リクとは出会ってまだ間もない。話した回数も少ない。だが。その少ない回数で、ローゼリーアはこれまでの人生で一番楽しい語らいを経験できた。
今のローゼリーアには、リクと敵対してまでパスカエルの味方をする気にはなれない。
「お父様……。何度でも申し上げます。パスカエル様のこれまでの行いは間違いです。どの様な大義名分を掲げようとも、人の尊厳を踏みにじって良い理由にはなりません」
ローゼリーアの言葉を受け、メネジルドは目を細めた。
「……まさか我が娘が、これほど愚かだったとは。ああ、そうか。お前はパスカエル様の研究のすばらしさを目にした事がないから、そんな事が言えるのだ」
そう言うとメネジルドは、懐から黒い杭を取り出す。
「お父様、それは……」
「ふふ。お前もじきに分かる。パスカエル様のすばらしさが。その大いなる思考が。これを使えば、いくらお前が愚かな娘とはいえ、パスカエル様に感謝を捧げるだろう。自分を人という器から解放してくれたことに」
「あ……」
「さぁローゼリーア。新たな力を授かり。あの愚かな皇国人を殺し、パスカエル様に忠を尽くすのだ」
そう言ってメネジルドは、床に倒れるローゼリーアの心臓目掛けて黒い杭を突き出す。
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