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帝国の理玖 ローゼリーアの茶会
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ローゼリーアからの茶会の招待は、思っていたよりも直ぐに届いた。俺はリリレットと共にアンベルタ家の屋敷へと向かう。
王宮に程近い場所にあるその屋敷は、陸立家の屋敷よりも高い建物だった。敷地面積でいえば道場も併設してある分、武家の屋敷の方が広いが。屋敷ではローゼリーアが直接出迎えてくれた。給仕たちは遠巻きに様子を伺っている。
「まぁ。ようこそおいでくださいました。どうぞ、おあがりになってください」
俺達は案内されるまま、テラス席へと通された。日陰もあり、過ごしやすい空間が広がっている。俺はリリレットから包みを受け取ると、それをローゼリーアに渡す。
「茶菓子だ。呼ばれた方も何か土産を持ってくるのがルールなんだろ? まぁヴィオルガが用意してくれた物だが」
「ありがとうございます。今、お茶の準備をいたしますわ」
給仕が茶器の乗ったワゴンを置くと、そのままその場を後にする。ローゼリーアはワゴンから茶器を持ってくると、自分で茶の準備をし始めた。これにリリレットは、若干詰まりながらも待ったをかける。
「あ、あの。よろしければ私が準備させていただきますので……」
リリレットがローゼリーアに気を使っているのは、見て感じ取れた。てっきり茶会に呼んだ本人が準備をするものだと思っていたが、本来は給仕がする事なのかもしれない。
「いえ。お気になさらず。そうだわ、せっかくですしリリレットさんの分も淹れて差し上げますわ」
「そ、そんな……」
「いいじゃねぇか。本人が良いって言ってんだ、もらっておけよ」
リリレットは何か言いたげだったが、やはり口は重いのか、それ以上何か話す事はなかった。
こいつからしたら、貴人に自分の仕事をさせてしまっている様な罪悪感を感じているのかもしれないな。ローゼリーアの淹れてくれた茶は、皇国では飲んだことの無い味だった。
「いかがですか? 皇国の方のお口に合うとよろしいのですけれど」
「ああ、上手いな。何より香りが皇国の茶より独特だ。フルーティって言えばいいのか?」
「良かったですわ。皇国の茶は渋い味の物が多いですから。そちらの方が飲み慣れておられるのでは、と思いました」
飲み慣れているのは間違いないな。皇国人と茶はとても繋がりの深いものだ。
「皇国の茶を飲んだ事があるのか?」
「ええ。御用達の商人が、以前仕入れてきたのを飲んだ事があるのです。その時はとてもお口の中が苦かったのですが、お砂糖とミルクを入れたらとてもまろやかで美味しくなりましたの」
「想像がつかん味だな……」
群島地帯を介してではあるが、皇国と帝国は交易も行っているからな。皇国の茶を飲む機会があっても、不思議ではないか。しかしローゼリーアの飲み方はどうかと思う。
「リク様。皇国の事、たくさん聞かせてください」
「何が聞きたいんだ?」
「そこに住む人の事。霊力の事。リク様がお感じになられている、文化の違いについてもお聞きしたいですわ」
俺は皇国についての話を始める。人の違い、建物や街の違い。特にローゼリーアは、食文化の違いに興味を持った様子だった。
「お蕎麦……ですか」
「ああ。そういやリリレットも、ヴィオルガと一緒に食べにわざわざ下町に来ていたよな」
俺の振りにリリレットは無言で頷く。あくまで給仕として、不必要に話に入りこまない様に気を使っているのだろう。ローゼリーアの件もあるし、その方がリリレットにとって楽という事も関係しているか。
「ヴィオルガ様が……皇都の下町に……?」
「ああ。俺が初めてヴィオルガに会った時だな。その時ちょっと揉めてな。あいつ、詫びに家宝か土地を寄越せって言ってきやがった」
「まぁ……! でも楽しそうですわね。私もいつか皇都へ行ってみたいですわ」
「行っても目を開けなきゃ、見えないだろ?」
「ふふ。この状態でも、意外とよく分かるものなんですのよ?」
これだけ強い魔力があれば、魔術の習得以外にも使える余剰魔力があるか。もしかしたら何か特殊な使い方をしているのかもしれないな。
「そう言えばリク様は、ヴィオルガ様が皇国で大変な目にあった時、その身をお守りしたとか。その実力を気に入られたヴィオルガ様が、自分の護衛としてお雇いなされたとお聞きしましたわ」
「そうだな。俺は元々、皇国でも皇族に雇われていたんだ。帝国の姫ともなると、支払いが滞る事もないだろ? 食事と寝泊まりできる場所が付いて、安定した収入まで見込めるんだ。雇われの身としては文句ないな」
それからも話は多岐に渡ったが、とにかくローゼリーアはよく笑いよく驚く、感情表現が豊かな女だった。
リリレットやヴィオルガから聞いていた印象とは随分違う。二人から聞いた限りだと、自分から他人に近づく事はなく、最低限のやり取り以外口も開かない女という感じだったのだが。
「なぁローゼリーア」
「はい、なんでしょう」
「もしかして、こうして人と話す機会は少ないのか?」
俺からの直球な質問に対し、ローゼリーアははい、と頷いた。
「皆さん、私との会話を嫌がりますから……。こうして普通にお話しができるのは、ヴィオルガ様とパスカエル様の関係者を除けば、リク様が初めてです」
親兄弟ですら……か。だが今はそんな事より、聞き逃せない名の方が先だ。
「パスカエルというと、西国魔術協会の長だな。会った事があるのか?」
「はい。父が協会の要職にありますので。何度かこちらにお見えになられた事もあります」
「ほう……。噂の人物だ、せっかく帝国に来たし一目見てみたいんだが。どこに行けば会える?」
「さぁ……。パスカエル様は帝国のため、日々多くの研究をされておられます。クローベント家の当主としてもお忙しい方ですので、会いたいと言って会える方ではないのは確かですわね」
どうやら定期的に屋敷に訪ねてくるという訳でもないようだ。だが帝国に来て、初めてヴィオルガ以外から聞く奴の話だ。左目が強く疼き出すのを感じながら、俺は会話を続ける。
「個人的にとても興味があってな。ローゼリーアから見て、どういう印象の人物だったか教えてくれないか?」
「構いませんわ。皇国の方から興味を持たれるなんて、帝国貴族としても喜ばしい事ですし。といっても、私もそれほど多く会った事がある訳ではないのです。それでもとても強い魔力を持つ、優れた魔術師だというのは一目見た時に分かりましたわ。あ、この場合は直接見たという意味ではないのですが」
「強いって、どれくらいだ?」
「そうですわね。少なくとも今のヴィオルガ様よりも、ですわ」
「へぇ……」
つまり実質、帝国で最大の魔力を誇るという事だ。事前に聞いていた通りだな。天才の名を欲しいままにする、稀代の大魔術師。その権勢は皇帝に次ぐほどだ。これではシュドさんがいくら自分の立場を固めても、表に引きずり出すのも難しいだろう。
「パスカエル様はその強大なお力を、日夜帝国のために費やされておられるのです。近い将来起こると予測されている幻獣の大侵攻。特に今は、それに対抗するための研究を進めておられると聞きます。私、上級貴族院を卒業すれば、パスカエル様の元で働く事が目標なんですの」
パスカエルの帝国に対する貢献は大きい。そのパスカエルを目標にする魔術師は多く、ローゼリーアの様にパスカエルの元で働きたいと考えている貴族は多いそうだ。天才魔術師の元で、さらに魔術の腕を磨きたいと考えている者もいるのだろう。
「幸い父が西国魔術協会とは縁が深いですから。その伝手を頼らせていただく予定です」
「そう上手くいくものなのか? 聞いていると、同じように考えている奴は他にもいるんだろう?」
「はい。しかし父にとっても強い魔力を持つ娘が、パスカエル様のお役に立てる事に大きなメリットがあるのです。西国魔術協会の……パスカエル様に対するアンベルタ家の貢献。これは引いては帝国への貢献にも繋がります。それに。私が他に、まともに働けるところなんてありませんもの」
そういうものか。帝国貴族の事情はよそ者の俺には分からないからな。この件について俺が何か言う事はないだろう。
だがローゼリーアの目標は叶わない。こいつが西国魔術協会に入る前に、俺が奴を殺すからだ。犯人を知ったら、ローゼリーアは俺を憎むだろうか。
「ヴィオルガのところで働くのはどうなんだ?」
「そうですわね……。やはり難しいでしょう。アンベルタ家は西国魔術協会と距離が近い家です。それにオウス・ヘクセライに入れば、社交の場に出る事も多くなります。私には向きません」
日ごろから閉じこもっているパスカエルの元で働いた方が、気は楽という事か。全ては自分の強すぎる魔力が原因だな。
魔力が漏れ出やすい体質、とヴィオルガは話していたが、要するにローゼリーアは自分の魔力を制御できていないのだ。このまま一生、目をつぶって生きていくつもりなのだろうか。
ローゼリーアという女について、今一度考えてみる。才という意味では破格のものを持っていると言えるだろう。だがその力ゆえにこいつは帝国において孤立した存在になっている。
俺は力が無くて孤立したが、ローゼリーアはその逆なのだ。帝国貴族だけではなく、家族からも孤立している様に見える。どちらが良い悪いとか言うつもりはないが。
(やっぱり……気になるな)
明るく快活に話している様にも見えるが、言葉の節々にはどこか諦観めいたものを感じる。
かつての俺であれば「それだけの力がありながら」と思っただろう。だがまともな話し相手がいないローゼリーアが、陸立理玖という存在を知れば、貴族に生まれながら力を持たない者を羨ましいと考えるかもしれない。
全く反対の存在なのに、どこか似ている。そこまで考えて、俺はローゼリーアに親近感を覚えている事に気付いた。
「なら俺と一緒に皇国に雇われてみるか? 前にも話したが、皇国にはお前よりも強い霊力を持つ奴もいる。話し相手にも事欠かんだろうよ」
「まぁ……。私に帝国を出て、リク様と一緒に皇国へ来る様にお誘いしているのかしら……?」
「そうだな」
「まぁ! リク様は情熱的なお方なんですのね……」
「……なんでそうなる?」
俺が不思議に思っていると、見かねた様子のリリレットが口を挟んできた。
「リク様。今の言い方では、自分の伴侶として皇国に一緒に来て欲しいと聞こえます」
「……そんな事、一言も言っていないが」
「帝国の貴族は、常に相手の言葉の裏にある真意を推し量るものなのです」
「俺は帝国の貴族じゃない。そういうのは邪推と言うんだ」
これも文化の違いか……。
王宮に程近い場所にあるその屋敷は、陸立家の屋敷よりも高い建物だった。敷地面積でいえば道場も併設してある分、武家の屋敷の方が広いが。屋敷ではローゼリーアが直接出迎えてくれた。給仕たちは遠巻きに様子を伺っている。
「まぁ。ようこそおいでくださいました。どうぞ、おあがりになってください」
俺達は案内されるまま、テラス席へと通された。日陰もあり、過ごしやすい空間が広がっている。俺はリリレットから包みを受け取ると、それをローゼリーアに渡す。
「茶菓子だ。呼ばれた方も何か土産を持ってくるのがルールなんだろ? まぁヴィオルガが用意してくれた物だが」
「ありがとうございます。今、お茶の準備をいたしますわ」
給仕が茶器の乗ったワゴンを置くと、そのままその場を後にする。ローゼリーアはワゴンから茶器を持ってくると、自分で茶の準備をし始めた。これにリリレットは、若干詰まりながらも待ったをかける。
「あ、あの。よろしければ私が準備させていただきますので……」
リリレットがローゼリーアに気を使っているのは、見て感じ取れた。てっきり茶会に呼んだ本人が準備をするものだと思っていたが、本来は給仕がする事なのかもしれない。
「いえ。お気になさらず。そうだわ、せっかくですしリリレットさんの分も淹れて差し上げますわ」
「そ、そんな……」
「いいじゃねぇか。本人が良いって言ってんだ、もらっておけよ」
リリレットは何か言いたげだったが、やはり口は重いのか、それ以上何か話す事はなかった。
こいつからしたら、貴人に自分の仕事をさせてしまっている様な罪悪感を感じているのかもしれないな。ローゼリーアの淹れてくれた茶は、皇国では飲んだことの無い味だった。
「いかがですか? 皇国の方のお口に合うとよろしいのですけれど」
「ああ、上手いな。何より香りが皇国の茶より独特だ。フルーティって言えばいいのか?」
「良かったですわ。皇国の茶は渋い味の物が多いですから。そちらの方が飲み慣れておられるのでは、と思いました」
飲み慣れているのは間違いないな。皇国人と茶はとても繋がりの深いものだ。
「皇国の茶を飲んだ事があるのか?」
「ええ。御用達の商人が、以前仕入れてきたのを飲んだ事があるのです。その時はとてもお口の中が苦かったのですが、お砂糖とミルクを入れたらとてもまろやかで美味しくなりましたの」
「想像がつかん味だな……」
群島地帯を介してではあるが、皇国と帝国は交易も行っているからな。皇国の茶を飲む機会があっても、不思議ではないか。しかしローゼリーアの飲み方はどうかと思う。
「リク様。皇国の事、たくさん聞かせてください」
「何が聞きたいんだ?」
「そこに住む人の事。霊力の事。リク様がお感じになられている、文化の違いについてもお聞きしたいですわ」
俺は皇国についての話を始める。人の違い、建物や街の違い。特にローゼリーアは、食文化の違いに興味を持った様子だった。
「お蕎麦……ですか」
「ああ。そういやリリレットも、ヴィオルガと一緒に食べにわざわざ下町に来ていたよな」
俺の振りにリリレットは無言で頷く。あくまで給仕として、不必要に話に入りこまない様に気を使っているのだろう。ローゼリーアの件もあるし、その方がリリレットにとって楽という事も関係しているか。
「ヴィオルガ様が……皇都の下町に……?」
「ああ。俺が初めてヴィオルガに会った時だな。その時ちょっと揉めてな。あいつ、詫びに家宝か土地を寄越せって言ってきやがった」
「まぁ……! でも楽しそうですわね。私もいつか皇都へ行ってみたいですわ」
「行っても目を開けなきゃ、見えないだろ?」
「ふふ。この状態でも、意外とよく分かるものなんですのよ?」
これだけ強い魔力があれば、魔術の習得以外にも使える余剰魔力があるか。もしかしたら何か特殊な使い方をしているのかもしれないな。
「そう言えばリク様は、ヴィオルガ様が皇国で大変な目にあった時、その身をお守りしたとか。その実力を気に入られたヴィオルガ様が、自分の護衛としてお雇いなされたとお聞きしましたわ」
「そうだな。俺は元々、皇国でも皇族に雇われていたんだ。帝国の姫ともなると、支払いが滞る事もないだろ? 食事と寝泊まりできる場所が付いて、安定した収入まで見込めるんだ。雇われの身としては文句ないな」
それからも話は多岐に渡ったが、とにかくローゼリーアはよく笑いよく驚く、感情表現が豊かな女だった。
リリレットやヴィオルガから聞いていた印象とは随分違う。二人から聞いた限りだと、自分から他人に近づく事はなく、最低限のやり取り以外口も開かない女という感じだったのだが。
「なぁローゼリーア」
「はい、なんでしょう」
「もしかして、こうして人と話す機会は少ないのか?」
俺からの直球な質問に対し、ローゼリーアははい、と頷いた。
「皆さん、私との会話を嫌がりますから……。こうして普通にお話しができるのは、ヴィオルガ様とパスカエル様の関係者を除けば、リク様が初めてです」
親兄弟ですら……か。だが今はそんな事より、聞き逃せない名の方が先だ。
「パスカエルというと、西国魔術協会の長だな。会った事があるのか?」
「はい。父が協会の要職にありますので。何度かこちらにお見えになられた事もあります」
「ほう……。噂の人物だ、せっかく帝国に来たし一目見てみたいんだが。どこに行けば会える?」
「さぁ……。パスカエル様は帝国のため、日々多くの研究をされておられます。クローベント家の当主としてもお忙しい方ですので、会いたいと言って会える方ではないのは確かですわね」
どうやら定期的に屋敷に訪ねてくるという訳でもないようだ。だが帝国に来て、初めてヴィオルガ以外から聞く奴の話だ。左目が強く疼き出すのを感じながら、俺は会話を続ける。
「個人的にとても興味があってな。ローゼリーアから見て、どういう印象の人物だったか教えてくれないか?」
「構いませんわ。皇国の方から興味を持たれるなんて、帝国貴族としても喜ばしい事ですし。といっても、私もそれほど多く会った事がある訳ではないのです。それでもとても強い魔力を持つ、優れた魔術師だというのは一目見た時に分かりましたわ。あ、この場合は直接見たという意味ではないのですが」
「強いって、どれくらいだ?」
「そうですわね。少なくとも今のヴィオルガ様よりも、ですわ」
「へぇ……」
つまり実質、帝国で最大の魔力を誇るという事だ。事前に聞いていた通りだな。天才の名を欲しいままにする、稀代の大魔術師。その権勢は皇帝に次ぐほどだ。これではシュドさんがいくら自分の立場を固めても、表に引きずり出すのも難しいだろう。
「パスカエル様はその強大なお力を、日夜帝国のために費やされておられるのです。近い将来起こると予測されている幻獣の大侵攻。特に今は、それに対抗するための研究を進めておられると聞きます。私、上級貴族院を卒業すれば、パスカエル様の元で働く事が目標なんですの」
パスカエルの帝国に対する貢献は大きい。そのパスカエルを目標にする魔術師は多く、ローゼリーアの様にパスカエルの元で働きたいと考えている貴族は多いそうだ。天才魔術師の元で、さらに魔術の腕を磨きたいと考えている者もいるのだろう。
「幸い父が西国魔術協会とは縁が深いですから。その伝手を頼らせていただく予定です」
「そう上手くいくものなのか? 聞いていると、同じように考えている奴は他にもいるんだろう?」
「はい。しかし父にとっても強い魔力を持つ娘が、パスカエル様のお役に立てる事に大きなメリットがあるのです。西国魔術協会の……パスカエル様に対するアンベルタ家の貢献。これは引いては帝国への貢献にも繋がります。それに。私が他に、まともに働けるところなんてありませんもの」
そういうものか。帝国貴族の事情はよそ者の俺には分からないからな。この件について俺が何か言う事はないだろう。
だがローゼリーアの目標は叶わない。こいつが西国魔術協会に入る前に、俺が奴を殺すからだ。犯人を知ったら、ローゼリーアは俺を憎むだろうか。
「ヴィオルガのところで働くのはどうなんだ?」
「そうですわね……。やはり難しいでしょう。アンベルタ家は西国魔術協会と距離が近い家です。それにオウス・ヘクセライに入れば、社交の場に出る事も多くなります。私には向きません」
日ごろから閉じこもっているパスカエルの元で働いた方が、気は楽という事か。全ては自分の強すぎる魔力が原因だな。
魔力が漏れ出やすい体質、とヴィオルガは話していたが、要するにローゼリーアは自分の魔力を制御できていないのだ。このまま一生、目をつぶって生きていくつもりなのだろうか。
ローゼリーアという女について、今一度考えてみる。才という意味では破格のものを持っていると言えるだろう。だがその力ゆえにこいつは帝国において孤立した存在になっている。
俺は力が無くて孤立したが、ローゼリーアはその逆なのだ。帝国貴族だけではなく、家族からも孤立している様に見える。どちらが良い悪いとか言うつもりはないが。
(やっぱり……気になるな)
明るく快活に話している様にも見えるが、言葉の節々にはどこか諦観めいたものを感じる。
かつての俺であれば「それだけの力がありながら」と思っただろう。だがまともな話し相手がいないローゼリーアが、陸立理玖という存在を知れば、貴族に生まれながら力を持たない者を羨ましいと考えるかもしれない。
全く反対の存在なのに、どこか似ている。そこまで考えて、俺はローゼリーアに親近感を覚えている事に気付いた。
「なら俺と一緒に皇国に雇われてみるか? 前にも話したが、皇国にはお前よりも強い霊力を持つ奴もいる。話し相手にも事欠かんだろうよ」
「まぁ……。私に帝国を出て、リク様と一緒に皇国へ来る様にお誘いしているのかしら……?」
「そうだな」
「まぁ! リク様は情熱的なお方なんですのね……」
「……なんでそうなる?」
俺が不思議に思っていると、見かねた様子のリリレットが口を挟んできた。
「リク様。今の言い方では、自分の伴侶として皇国に一緒に来て欲しいと聞こえます」
「……そんな事、一言も言っていないが」
「帝国の貴族は、常に相手の言葉の裏にある真意を推し量るものなのです」
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