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アメリギッタの報告 パスカエルの思考
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セイクリッドリング「ゲイル」を持つ少女、アメリギッタ・ハーヴァンド。彼女は西大陸へと帰還し、パスカエルと話をしていた。
「……という感じだったわ」
「…………アメリ、今の話は本当かい?」
「うふふ。本当よ。私も目の前の出来事には夢を見させられている気分になったもの。初めてお兄さんと会った時、逃げの一手を取っていてよかったわ。お兄さんの実力は間違いなくパスカエル様をも上回っていたわよ?」
「…………」
アメリギッタから事の顛末を聞いたパスカエルは、生まれて初めてとなる奇妙な感覚に襲われていた。しばらくしてそれが戸惑いや混乱の類である事に気付く。原因はアメリギッタの話す「お兄さん」であった。
「しかし……いや、本当に……? 魔術を操るドラゴンと化したレイハルトをそこまで容易く……? いや、やはり人のドラゴン化は通常のドラゴンよりも弱体化していたのでは……? まだサンプル数が少ないからはっきりとした結論はでないが……」
「んー。見たところ、レイハルトさんの魔力は姫様を上回っていた様に思えたけど。でもレイハルトさんが通常のドラゴン以下だったとしても、お兄さんが戦略級の術を湯水の様に使っていたのは事実よ? それに皇国の姫にも謎の術を施していた様子だったし」
「君が切り落としたはずの腕が、何事も無かったかのように元に戻ったという話だね」
「そうそう。血の一滴に至るまで元通りに戻ったわ。皇国の姫も驚いていたし、あれは本人の術じゃない事は明らかよ」
パスカエルは自分が帝国最強の魔術師である自覚がある。王族も強力な魔力を持つ者が多いが、自身は現王族最大の魔力を持つヴィオルガをも超えている確信があった。
魔術に対して、本当にあらゆる意味で天才なのだ。いくつも新たな魔術を生み出したが、その多くはパスカエルにしか扱えないものだった。理論を発表しても、多くの魔術師はそれを再現する事ができない。例えヴィオルガであったとしても。
それでもヴィオルガが、古の血を色濃く継いだ存在である事には違いなかった。そのためパスカエルは自身の研究のため、ヴィオルガの血肉を求めた。
だがそれらの野望は「お兄さん」の存在により阻まれてしまった。天才であり、最強でもある自分に「お兄さん」と同じ事ができるだろうかとパスカエルは考える。
(条件次第では可能なはずだ。私にはセイクリッドリングがあり、独自の魔力運用法もある。戦略級魔術の連発でドラゴンを相手取る事も不可能ではないはずだ。つまりアメリの話す「お兄さん」とやらも、そうした条件を満たしていた可能性がある)
自分よりも優れた魔術師を見た事がないため、パスカエルにはどうしても「お兄さん」が自分よりも強い存在だとは思えなかった。
アメリギッタも気に入っている人物の様だし、彼女の評価にはバイアスがかかっているだろうと考える。
「アメリ。そのお兄さんはセプターやセイクリッドリングなどは使っていなかったかい?」
「それがね。何も使ってなかったのよ」
「……なんだって?」
「セプターもセイクリッドリングも。皇国の術士が使う符も。それどころか、魔力すら微塵も感じなかった。だから不思議なのよ。どうして魔力を持たないお兄さんが、あんな大規模な術を扱えたのか。時に干渉したとしか思えない、大魔術を行使できたのか」
アメリギッタには既に、理玖が人類最強の術士である確信があった。目の前で術を見せられても、それを再現できる気がしない。
どれほど優秀な水魔術師でも、一人で戦場に巨大な氷柱を出現させ、局地的な大寒波を叩き込む事はできないだろう。理玖の事は自分たちとは別ベクトルの、理の外の存在だと認識していた。
だがパスカエルは違う。帝国魔術師は皇国術士を上回り、その帝国魔術師最強である自身を上回る者などこの世に存在するはずがないと確信している。「お兄さん」はおそらく自分に近い、天才と称される側の術士なのだろうとパスカエルは考えた。
「何らかの方法で魔力を察知されない様にしているのか……? そういえばレイハルトの魔術も消したと言っていたね?」
「そうよ。大量の炎の魔術を全て、両手でパンッって叩くだけで消失させていたわ」
「何か魔力を完全に消し去る術を身に付けているという事か……」
魔力を消失させる手段はいくつかある。だが前準備は必要だ。話に聞く様な、戦闘の最中に指向性を持って発動させるのは、パスカエルを以てしても不可能と言えた。
「ふぅむ。そのお兄さんという人物に興味がある。是非見てみたいね。アメリ、名前は分からないのかい?」
「名前はリクよ。そう呼ばれていたわ」
「リク……?」
はて。どこかで聞いたような名だとパスカエルは逡巡する。
「顔付きは典型的な皇国人ってところかしら。黒髪黒目のね。あ、でも肉体はすごいわ! 全身にいくつも大きな傷痕が刻まれているの! そうそう、あとは目ね。あの強い殺気に満ちた目。あ、左眼は使えないのか、眼帯をしていたけれど。……そういえばあの時。お兄さんの右目、光っていたような……?」
「黒髪黒目……片目……?」
「そうそう。あ、あとね。ドラゴンから元の姿に戻ったレイハルトさんに、パスカエル様の事を聞いていたわ。人の幻獣化を目の当たりにしてパスカエル様の名前を出すんだもの。もしかして昔の関係者かとも思ったわ」
「………………」
黒髪黒目の皇国人。左目は失っており、人の幻獣化を見てパスカエルとの繋がりを感じ取れる者。名はリク。
パスカエルはここでようやく約七年前、自身が直接赴いた群島地帯での出来事を思い出した。
「ふ……ふふ……ふふふ……」
「パスカエル様……?」
「ふふふふ……あ、ははは……うふふふふふふふふふふふふふふふ!!!!」
まさかと思う。心当たりを思い出したところで、確信はない。だが名は同じ。こんな偶然はあるのかとパスカエルは大きく笑った。
「まさか! まさかまさかまさか! あの時の! 少年か!? おお、これは何という偶然、なんという奇跡! あり得ない! だがあり得る! 生きて! 生きていたのか! あの時の実験から!」
「もしかして。思い当たる節でも?」
「ああ、ああ! 思い出した今でも信じられないがね! だがもしあの時の少年だとすれば、やはり不可解だ! あの少年は確かに、魔力なんて微塵も持っていなかったのだから!」
皇国貴族の生まれでありながら霊力に覚醒しなかった者。当時は強く興味を覚え、実験体にしようとしていた。結果的に現地で見つけた他の者を実験体にしたが。
「しかし15才を超えて霊力が発現する事などないはず! 確かにあの少年は無能力者であった! そんな者がそれほど強力な術が扱える様になるなんて!? それではまるで……」
言いかけたところでパスカエルはハッと気づく。そうだ、かつて人間は誰もが魔力を持っていなかった。この力は600年前に、六王の手によって人類にもたらされたものだ。
無能力者であった六王もまた、大精霊と契約を結ぶ事でその力を得た。現在の魔術師を以てしても未だに超える者がいないと言われる、最強の大精霊の力を。
「まさか!? あり得るのか!?」
六王以降、新たな契約者は現れていない。だが。もし本当にあの時の少年が、何らかの方法で契約者となったのであれば。
(レイハルトに私の事を聞いたのは何故? 決まっている。私への復讐だ。つまり契約者としての力を私に振るう気か……!?)
こうなると話は変わってくる。仮にリクが契約者だったとして、その力を振るわれても対抗できる自信はある。だが「大精霊の契約者」が力を振るってくるのはまずい。これが明るみに出れば、大儀はリクの方に傾くからだ。
人の間では、救いをもたらした大精霊への信仰は今も厚い。契約者の存在が今の世に表沙汰になれば、その影響力は間違いなく皇帝をも凌ぐ。
大精霊の契約者が白だと言えば黒いものでも白くなるし、その逆も然り。そんな存在がパスカエルを「悪」と断じれば、これまでどれだけ帝国への貢献があろうとも、世間はパスカエルを「悪」と断定し、味方する者は一人もいないだろう。
(まずい……。そうなれば研究どころではなくなる……! もし契約者であったとしても、私であれば苦戦はしても勝てはするだろう。だが契約者の可能性がある限り、対立するという構図そのものがまずい! 何か手は打っておく必要がある……!)
いくつか打てる手はあるが、確実なのは西大陸に上陸させない事だろう。幸い、今は皇帝の誕生祭も近く、厳格な入国制限が敷かれている。様々な部署や王族にまで影響力を行使できるパスカエルであれば、それほど難しい話ではない。
「パスカエル様? もしも~し」
アメリギッタは先ほどからパスカエルに話しかけていたが、当の本人には何も反応がない。思考の海に埋没しているのだ。アメリギッタは、この状態になったパスカエルは、自力で戻ってくるまで話しかけても無駄だろうと考え、部屋を出る。
(パスカエル様には恩があるけどぉ。どうしようかしら)
下級貴族の生まれでありながらもアメリギッタは優れた魔力を持っていた。しかし過去に有能な魔術師を輩出した実績もない家であり、次女であるアメリギッタは貴族院に通わせてもらえなかった。
ある事件でアメリギッタの魔力に目を付けたパスカエルは、そんな彼女を重用していた。思う存分力を振るえる環境を与えられたし、恩義のあるパスカエルのために働く事は構わない。むしろ積極的に加担してきた。しかし理玖がパスカエルに悪感情を抱いていると感づいた時、ある思考が働く。
(さすがにお兄さんを敵に回して生きられるとは思えない。パスカエル様が策を弄しても、お兄さんの実力なら正面から力ずくで突破できる。……散々お兄さんたちとは敵対してしまったけど。今からでも身の振り方を考えた方がいいカモ)
何せお兄さんサイドに死人は出していないし、と呟く。アメリギッタ自身、何か確たる信念があってパスカエルに仕えている訳ではない。かつて自分を散々な目に合わせてきた実家や他家の者達はもう見返せているし、これ以上パスカエルに仕える事のメリットとデメリットを天秤にかける。
(まぁ今すぐお兄さんも帝国に乗り込んでくる事もないだろうし。しばらくは様子見でいいかな)
レイハルトが上手くやっていればこんな事にならなかったのに、とアメリギッタは溜息を吐いた。
「……という感じだったわ」
「…………アメリ、今の話は本当かい?」
「うふふ。本当よ。私も目の前の出来事には夢を見させられている気分になったもの。初めてお兄さんと会った時、逃げの一手を取っていてよかったわ。お兄さんの実力は間違いなくパスカエル様をも上回っていたわよ?」
「…………」
アメリギッタから事の顛末を聞いたパスカエルは、生まれて初めてとなる奇妙な感覚に襲われていた。しばらくしてそれが戸惑いや混乱の類である事に気付く。原因はアメリギッタの話す「お兄さん」であった。
「しかし……いや、本当に……? 魔術を操るドラゴンと化したレイハルトをそこまで容易く……? いや、やはり人のドラゴン化は通常のドラゴンよりも弱体化していたのでは……? まだサンプル数が少ないからはっきりとした結論はでないが……」
「んー。見たところ、レイハルトさんの魔力は姫様を上回っていた様に思えたけど。でもレイハルトさんが通常のドラゴン以下だったとしても、お兄さんが戦略級の術を湯水の様に使っていたのは事実よ? それに皇国の姫にも謎の術を施していた様子だったし」
「君が切り落としたはずの腕が、何事も無かったかのように元に戻ったという話だね」
「そうそう。血の一滴に至るまで元通りに戻ったわ。皇国の姫も驚いていたし、あれは本人の術じゃない事は明らかよ」
パスカエルは自分が帝国最強の魔術師である自覚がある。王族も強力な魔力を持つ者が多いが、自身は現王族最大の魔力を持つヴィオルガをも超えている確信があった。
魔術に対して、本当にあらゆる意味で天才なのだ。いくつも新たな魔術を生み出したが、その多くはパスカエルにしか扱えないものだった。理論を発表しても、多くの魔術師はそれを再現する事ができない。例えヴィオルガであったとしても。
それでもヴィオルガが、古の血を色濃く継いだ存在である事には違いなかった。そのためパスカエルは自身の研究のため、ヴィオルガの血肉を求めた。
だがそれらの野望は「お兄さん」の存在により阻まれてしまった。天才であり、最強でもある自分に「お兄さん」と同じ事ができるだろうかとパスカエルは考える。
(条件次第では可能なはずだ。私にはセイクリッドリングがあり、独自の魔力運用法もある。戦略級魔術の連発でドラゴンを相手取る事も不可能ではないはずだ。つまりアメリの話す「お兄さん」とやらも、そうした条件を満たしていた可能性がある)
自分よりも優れた魔術師を見た事がないため、パスカエルにはどうしても「お兄さん」が自分よりも強い存在だとは思えなかった。
アメリギッタも気に入っている人物の様だし、彼女の評価にはバイアスがかかっているだろうと考える。
「アメリ。そのお兄さんはセプターやセイクリッドリングなどは使っていなかったかい?」
「それがね。何も使ってなかったのよ」
「……なんだって?」
「セプターもセイクリッドリングも。皇国の術士が使う符も。それどころか、魔力すら微塵も感じなかった。だから不思議なのよ。どうして魔力を持たないお兄さんが、あんな大規模な術を扱えたのか。時に干渉したとしか思えない、大魔術を行使できたのか」
アメリギッタには既に、理玖が人類最強の術士である確信があった。目の前で術を見せられても、それを再現できる気がしない。
どれほど優秀な水魔術師でも、一人で戦場に巨大な氷柱を出現させ、局地的な大寒波を叩き込む事はできないだろう。理玖の事は自分たちとは別ベクトルの、理の外の存在だと認識していた。
だがパスカエルは違う。帝国魔術師は皇国術士を上回り、その帝国魔術師最強である自身を上回る者などこの世に存在するはずがないと確信している。「お兄さん」はおそらく自分に近い、天才と称される側の術士なのだろうとパスカエルは考えた。
「何らかの方法で魔力を察知されない様にしているのか……? そういえばレイハルトの魔術も消したと言っていたね?」
「そうよ。大量の炎の魔術を全て、両手でパンッって叩くだけで消失させていたわ」
「何か魔力を完全に消し去る術を身に付けているという事か……」
魔力を消失させる手段はいくつかある。だが前準備は必要だ。話に聞く様な、戦闘の最中に指向性を持って発動させるのは、パスカエルを以てしても不可能と言えた。
「ふぅむ。そのお兄さんという人物に興味がある。是非見てみたいね。アメリ、名前は分からないのかい?」
「名前はリクよ。そう呼ばれていたわ」
「リク……?」
はて。どこかで聞いたような名だとパスカエルは逡巡する。
「顔付きは典型的な皇国人ってところかしら。黒髪黒目のね。あ、でも肉体はすごいわ! 全身にいくつも大きな傷痕が刻まれているの! そうそう、あとは目ね。あの強い殺気に満ちた目。あ、左眼は使えないのか、眼帯をしていたけれど。……そういえばあの時。お兄さんの右目、光っていたような……?」
「黒髪黒目……片目……?」
「そうそう。あ、あとね。ドラゴンから元の姿に戻ったレイハルトさんに、パスカエル様の事を聞いていたわ。人の幻獣化を目の当たりにしてパスカエル様の名前を出すんだもの。もしかして昔の関係者かとも思ったわ」
「………………」
黒髪黒目の皇国人。左目は失っており、人の幻獣化を見てパスカエルとの繋がりを感じ取れる者。名はリク。
パスカエルはここでようやく約七年前、自身が直接赴いた群島地帯での出来事を思い出した。
「ふ……ふふ……ふふふ……」
「パスカエル様……?」
「ふふふふ……あ、ははは……うふふふふふふふふふふふふふふふ!!!!」
まさかと思う。心当たりを思い出したところで、確信はない。だが名は同じ。こんな偶然はあるのかとパスカエルは大きく笑った。
「まさか! まさかまさかまさか! あの時の! 少年か!? おお、これは何という偶然、なんという奇跡! あり得ない! だがあり得る! 生きて! 生きていたのか! あの時の実験から!」
「もしかして。思い当たる節でも?」
「ああ、ああ! 思い出した今でも信じられないがね! だがもしあの時の少年だとすれば、やはり不可解だ! あの少年は確かに、魔力なんて微塵も持っていなかったのだから!」
皇国貴族の生まれでありながら霊力に覚醒しなかった者。当時は強く興味を覚え、実験体にしようとしていた。結果的に現地で見つけた他の者を実験体にしたが。
「しかし15才を超えて霊力が発現する事などないはず! 確かにあの少年は無能力者であった! そんな者がそれほど強力な術が扱える様になるなんて!? それではまるで……」
言いかけたところでパスカエルはハッと気づく。そうだ、かつて人間は誰もが魔力を持っていなかった。この力は600年前に、六王の手によって人類にもたらされたものだ。
無能力者であった六王もまた、大精霊と契約を結ぶ事でその力を得た。現在の魔術師を以てしても未だに超える者がいないと言われる、最強の大精霊の力を。
「まさか!? あり得るのか!?」
六王以降、新たな契約者は現れていない。だが。もし本当にあの時の少年が、何らかの方法で契約者となったのであれば。
(レイハルトに私の事を聞いたのは何故? 決まっている。私への復讐だ。つまり契約者としての力を私に振るう気か……!?)
こうなると話は変わってくる。仮にリクが契約者だったとして、その力を振るわれても対抗できる自信はある。だが「大精霊の契約者」が力を振るってくるのはまずい。これが明るみに出れば、大儀はリクの方に傾くからだ。
人の間では、救いをもたらした大精霊への信仰は今も厚い。契約者の存在が今の世に表沙汰になれば、その影響力は間違いなく皇帝をも凌ぐ。
大精霊の契約者が白だと言えば黒いものでも白くなるし、その逆も然り。そんな存在がパスカエルを「悪」と断じれば、これまでどれだけ帝国への貢献があろうとも、世間はパスカエルを「悪」と断定し、味方する者は一人もいないだろう。
(まずい……。そうなれば研究どころではなくなる……! もし契約者であったとしても、私であれば苦戦はしても勝てはするだろう。だが契約者の可能性がある限り、対立するという構図そのものがまずい! 何か手は打っておく必要がある……!)
いくつか打てる手はあるが、確実なのは西大陸に上陸させない事だろう。幸い、今は皇帝の誕生祭も近く、厳格な入国制限が敷かれている。様々な部署や王族にまで影響力を行使できるパスカエルであれば、それほど難しい話ではない。
「パスカエル様? もしも~し」
アメリギッタは先ほどからパスカエルに話しかけていたが、当の本人には何も反応がない。思考の海に埋没しているのだ。アメリギッタは、この状態になったパスカエルは、自力で戻ってくるまで話しかけても無駄だろうと考え、部屋を出る。
(パスカエル様には恩があるけどぉ。どうしようかしら)
下級貴族の生まれでありながらもアメリギッタは優れた魔力を持っていた。しかし過去に有能な魔術師を輩出した実績もない家であり、次女であるアメリギッタは貴族院に通わせてもらえなかった。
ある事件でアメリギッタの魔力に目を付けたパスカエルは、そんな彼女を重用していた。思う存分力を振るえる環境を与えられたし、恩義のあるパスカエルのために働く事は構わない。むしろ積極的に加担してきた。しかし理玖がパスカエルに悪感情を抱いていると感づいた時、ある思考が働く。
(さすがにお兄さんを敵に回して生きられるとは思えない。パスカエル様が策を弄しても、お兄さんの実力なら正面から力ずくで突破できる。……散々お兄さんたちとは敵対してしまったけど。今からでも身の振り方を考えた方がいいカモ)
何せお兄さんサイドに死人は出していないし、と呟く。アメリギッタ自身、何か確たる信念があってパスカエルに仕えている訳ではない。かつて自分を散々な目に合わせてきた実家や他家の者達はもう見返せているし、これ以上パスカエルに仕える事のメリットとデメリットを天秤にかける。
(まぁ今すぐお兄さんも帝国に乗り込んでくる事もないだろうし。しばらくは様子見でいいかな)
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