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伝説の傭兵団が目覚める時

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「……! まさか……! そんな……!」

 ガリグレッドはレクタリアとの間で感じていた繋がりが消えた事に驚きが隠せなかった。

 ガリグレッドの元々の人格は幻想歴まで遡る。かつては女神シルヴェラが統治する国でシルヴェラの使徒として仕えていた。その時の名はジョナード。

 ジョナードは以降、シルヴェラに与えられた魔法の力で自身の血族に転生を繰り返していた。

 そして時は幻魔歴が終わって新鋼歴に入ったばかりの頃。テンブルク王国の国王だったジョナードはアルグローガの誘いに応じ、五国会談を経てゼルダンシア帝国の一部となる。

 だが納得しての併合ではなかった。その時のジョナードには妹がいたが、半ば無理やりアルグローガに奪われたのだ。

 妹はそのままアルグローガの子を身ごもり、帝都で人質の様な扱いを受けていた。

 ジョナードは転生を繰り返す事で、いくつも戦乱を経験してきた。特に幻魔歴末期から新鋼歴近代までは本当に争いが多かったし、ジョナード自身その中で様々な感情に翻弄されてきた。

 そして今の世になって、久しぶりにガリグレッドとして転生した時。幾星霜の時を経てシルヴェラと再会した時は、これは運命であると感じ入っていた。

「せっかく……! ここまできたというのに……!」

 地下にいるレクタリアの反応が消えた理由。可能性としては2つしか考えられなかった。

 魔法復活の儀式を行ったが、何らかのアクシデントにより儀式そのものが失敗したか。もしくは邪魔が入り、害されたかである。

「確認せねば……!」

 ガリグレッドは城の一室から出る。その部屋には様々な貴重品が集めらえており、ガリグレッドはそこにある王の錫杖に用があったのだ。右手に錫杖を持ちながら階段を降りる。

(もしシルヴェラ様が、万が一にでも消滅という事態にあっていれば……! 私の転生魔法もその効力を失う事になる……!)

 ガリグレッドの転生も、絶え間なく行える訳ではない。次いつ血族に転生するかはガリグレッド自身にも分からないのだ。

 今の時代にシルヴェラと出会えたのは、本当に奇跡と偶然の産物であった。

「ガリグレッド様。今までどちらに? ヴィンチェスター様がお探しでしたよ。おや、その錫杖は……」

 廊下でハイラント派の貴族とすれ違う。ガリグレッドは何とか平静を装いつつ、ヴィンチェスターの行き先を聞いた。

「ヴィンチェスター様は今どちらに?」

「皇宮へと行かれました。ウィックリン陛下の面会ついでに、次の后候補を見に行かれたのでしょう」

「そうですか」

 本来であれば、この錫杖を簡易大幻霊石として用いる予定だった。

 波動が満ちた時にもしヴィンチェスターが怪物と化していなければ、錫杖を使わせてもいいかと考えていたのだ。

 だが今はその前提条件が覆された可能性があるし、ヴィンチェスターも呑気に皇宮へ行っている場合ではない。

(どうする……! いや、何をするにせよやはりシルヴェラ様の状態を確認するのが先決……! 私も地下に……!)

「おお、そこにおったか、ガリグレッドよ」

 名を呼ばれて顔を上げると、そこにはヴィンチェスターがランダインとログバーツを伴って歩いてきていた。

「探しておったのだぞ。……む、それは! 王権の象徴たる錫杖ではないか……!」

「……は。魔法が復活した時には、ヴィンチェスター殿に必要になる物ですので。こうして探しておったのです」

「おお、そうか! では……」

 その時だった。遠くで爆発音が響き、兵士の悲鳴が上がる。

「!?」

「なんだ!?」

 広間にいる兵士や貴族たちも何事かと騒ぎ出す。そこに伝令の兵士が走ってきた。

「も、申し上げます! 皇宮より突如、反乱者が現れました……!」

「反乱者だとぉ!? アルフォース家か!?」

「い、いえ! それが……相手は6人でして……!」

「なにぃ!? たった6人にどうしてここまでの騒ぎになる! さっさと鎮圧せんか!」

 ヴィンチェスターは怒りから伝令の兵士を怒鳴りつける。だが兵士は委縮しながらも震える声を振り絞った。

「そ、それが……! 奴ら、あまりに強すぎて……! とてもではありませんが、敵いません……!」

「な、なんだとぉ……!?」




 
 レクタリアたちが地下に潜入してきたルートは、帝都貴族街……それも中心地に繋がっていた。

 俺たちは物陰に隠れながら移動する。周囲にはルングーザ領とテンブルク領の領兵が多く巡回していた。

「完全に抑えられてんなぁ……」

「騎士団も直前に現れた獣や怪物の相手をしていたし、両軍を抑えきれなかったんだろうな」

 俺たちはこの場から近いという事もあり、ディアノーラとアデライアに案内してもらって皇宮近くまで移動する。そこもやはり抑えられている様子だった。

「結構厳重だなぁ……」

「おそらく陛下を始め、主だった皇族を軟禁しているのではないだろうか」

「邪魔者はさっさと城から追い出そうってか」

 ありそうではあるな。アデライアも不安げな視線を皇宮に向けている。

 しかしここからどうしたものかね。とりあえずアデライアを連れて、貴族街を離れるのも手と言えば手だが。

「ヴェルトさま。そして黒狼会の皆さま」

 アデライアは顔を上げ、しっかりとした口調で話す。

「この一度だけで構いません……! どうか群狼武風として、私に雇われていただけませんか……!」

「姫様!? それは一体……」

 ディアノーラはアデライアの真意を確認する。

「このままヴィンチェスターを捨ておけないのです……! 何もゼルダンシア皇族による治世を継続させるためにお頼みするのではありません。相手はあの結社と手を組み、魔法や人の進化という曖昧な手段で新たに皇帝位を簒奪しようとする者。私にはそれが、ゼルダンシア皇族による治世よりも良いものだとはどうしても思えないのです……!」

 言わんとする事は理解できる。ヴィンチェスターにせよ結社の口車にのせられただけだろう。自分の信念や誇りにかけての行動だとは思えない。

「で、このままめちゃくちゃな治世が行われる前に、城を取り戻して欲しいと」

「はい……! そ、その。激しい戦闘の後で大変お疲れなのは重々承知なのですが……!」

 アデライアは心から申し訳なさそうに声をあげる。

「報酬は望むもの全て。私にできること、その全てを以てお支払いさせていただきます……! 私自身、皇族の末席に名を連ねる小娘に過ぎません。そんな私では、皆さまをお雇いできるほどの対価をお支払いできるとは限りません。ですが……!」

 その声からは必死さが伝わってきた。フィンは面白そうにこっちを見てくる。

「どうするの、ヴェルト。姫様にここまで言わせてさ~」

 ロイも静かに頷く。

「今だけは久しぶりに隊長とお呼びしましょうか?」

 ……ったく。みんなやる気じゃねぇか。

 俺はアデライアの頭に手を乗せると、そのまま髪の毛をくしゃくしゃにした。

「ヴェルトさま……?」

「自分で自分の価値を落とす様な事は言うな。俺たちはアデライアだからこそ助けたいと思ったし、レクタリアと戦いもした。俺たちの雇い主だというのなら……群狼武風の主は、やっぱ誇れる人じゃないとな」

「…………!」

「アデライアのために、今日だけ群狼武風の再結集といこうか。ヴェルト隊隊長の俺がローガの代行を務める。異論は?」

「ないよ~」

「ねぇって」

「ありません」

「ない」

「ないのぅ」

 こんなにきつい連戦は久しぶりだな。

 だが過去にはもっと苦しい時もあったし、みんなこの程度の修羅場は何度も通ってきている。今さらここで止まる様な足も持っていない。

「それじゃ作戦会議といこうか。過去にもやった事があるアレでいこう」

「アレ?」

「敵の首魁の名は分かっているし、あいつらもまだ帝都を抑えたばかり。指令室の設置や情報伝達の経路など、まだ整っていないだろう。これまでやってきた潜入任務に比べたら、楽な部類だ」




 
 俺たちは皇宮に向かって堂々と歩いていた。6人でアデライアとディアノーラ、それにリリアーナを囲む様に歩く。

 皇宮の前に立つ兵士はこちらに気付き、声をあげた。

「止まれ! 一体なんだ、そいつらは!」

「逃走していた皇女アデライアを捕えた。護衛騎士のディアノーラ、それに侍女も一緒だ。ヴィンチェスター様より、ウィックリン陛下の部屋へとお連れする様に言われたのだが」

「なに……!?」

 俺たちは物陰から兵士を襲い、その装備一式を剥ぎ取っていた。

 今はテンブルク領の領軍に扮してアデライアを連行するという演技をしている。こうして正面から堂々と皇宮に乗り込む算段だった。

「本当だ……! 情報通り、目が赤いぞ!」

「侍女はフェルグレッド聖王国民か……!」

「ディアノーラも本物だな。正真正銘の皇族だ」

 名を呼ばれたディアノーラは、強い眼差しを兵士に向ける。

「アデライア様をウィックリン陛下に会わせるという条件で、大人しくしているのだ。早く通すがよい」

「なにぃ……」

「本当だ。ヴィンチェスター様には既に許可をいただいている。早く通してくれんと、アルフォース家の剣士がいつ暴れるか分からんぞ」

「わ、わかった。通るがいい」

 俺たちはそのまま皇宮へと足を踏み入れる。そのままアデライアの指示に従って廊下を歩いた。

「うまくいったねー!」

「指示の確認をする符丁が無かったところを見るに、坊の言う通りまだ体制を整えておらんようじゃのう」

「ま、駄目なら駄目で、正面突破するだけだったがな!」

 血の気が多い意見だ。だが今の俺たちにはそれが可能な実力が確かにある。

「あちらです」

 アデライアの指し示す部屋の前には4人の兵士が固めていた。俺はそこでも同じ様に事情を話す。

「なに……皇女アデライアだと……!?」

「確かに本物だ……」

「そういう事だ。こっちもヴィンチェスター様の命令なんだ。部屋に入れてくれ」

 そうして堂々と部屋へと入る。部屋にはディザイアが立っているだけであり、ウィックリンの姿は見えない。

 おそらくその奥に見える扉の奥だろう。ディザイアはディアノーラの姿を確認すると、目を大きく見開いた。

「ディアノーラ……! それにアデライア様も……! 無事であったか……!」

 扉を閉め、なるべく奥へと移動する。そこで俺たちは兜を脱いだ。

「!! お、お主らは……!」

「久しぶりだ、ディザイア殿」

「黒狼会……! そうか、お主らが……!」

 ディザイアの言葉に、俺は首を横に振る。
 
「今日、この瞬間だけは。アデライア姫に雇われた群狼武風だ」
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