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リスティアーナ女王国編
42 悪役主従の知らないところ・後
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ついにバンッとテーブルを叩いてアルベッラが立ち上がった。
そしてギルバートのことを睨みながら、その顔を青ざめさせた。ギルバートは慌てたような口調で言った。
「で、では聞くが、アルフレッドが仮に魔王だとして、ペリタン山脈での麻薬の原料となる花を焼く理由はなんだと言うのだ。麻薬が出回っていたほうが都合がいいではないかッ! 言いがかりも大概にして欲しい」
「おおーこわいこわい。まぁ、わたしんとこの勇者がリスティアーナ女王国に入ってますからねぇ。もしやペリタン山脈のユメミソウのことだって、ヴァールストレーム王がアルフレッド王子と一緒に証拠隠滅を図った可能性もありますでしょ?」
にやにやといやらしい笑みを浮かべながらネジャリフは言い切った。
これはネジャリフにとって、またとない好機であった。
ネジャリフはギルバートがアルフレッドと共に麻薬の原料となる花を焼いたことをもちろん把握していた。魔王がどんな怪物であろうとも、その存在への畏怖を利用してリスティアーナ女王国を潰そうと思っていたのだから。
そこにきて、アルフレッド王子が魔王なのでは? と、考えたネジャリフはリスティアーナ女王国とヴァールストレーム王国、両方を陥れる方法を思いついたのだった。最初は魔王を手玉に取ろうと思っていたが、魔王がアルフレッド王子であるのならばそれはそれで好都合だとネジャリフは思った。
幸運にも、勇者という最高の手札まで転がり込んできたとあって、まさにこの上ない状態にあった。
いつだってヴァールストーレム王国にしてやられてきたネジャリフは、ついに! と拳を握りしめた。
だが、魔王が花畑を焼いたことで自分の野望がヴァールストレーム王に露見してしまったことは明らかだった。
(そうであれば……)
そう思ったネジャリフはすぐに方向転換をした。
魔王がアルフレッド王子なのでは? と、不安を煽り、ヴァールストレーム王国への不信感を高めるのだ。どちらに転んでもネジャリフにとってはおいしい状況である。
ヴァールストレーム王国に不信感が煽り、御し易いプラウゼン王国とリスティアーナ女王国に誘いをかけ、一緒に攻め込むこともできる。
ネジャリフは勝利を確信した。
人間は勝ったと思ったときこそが一番隙だらけであることは、長年商業の世界に身を置いていたネジャリフは知っているはずであった。
だが、――宿敵への勝利を確信し、ネジャリフは一瞬気を抜いてしまっていた。
ペルケ王国の盲目の王・リュシャンの静かな声が会議室に響き渡ったのは、そのときだった。
「ネジャリフ元首。ペリタン山脈の麻薬の情報は入っていないのに、どうしてそれがユメミソウだと知っておられるのか」
各国の面々がどよめき始める。
それぞれの国の宰相と王がひそひそ言葉を交わす中、ネジャリフの背中を嫌な汗が伝った。
ギルバートは「おや?」とわざとらしく首をかしげると、いまだとばかりに口にした。
「ネジャリフ元首。我が国では、サザランド連合国こそがリスティアーナ女王国で魔王崇拝を煽動していたという報告があがっている。魔王崇拝の集団が麻薬中毒者の巣窟であることも調べがついている。ペリタン山脈で麻薬を栽培していたのはあなたのほうなのでは?」
「なんと! よくもまあ……そんな絵空事をわたしらの前で口にできるものですねぇ」
ネジャリフも言い返すが、会議室のどよめきは大きくなるばかりだ。
ギルバートが言った。
「先日、ヴァールストレーム王国に書簡が届いた。ぜひ、この場で証言したいという者に来てもらっている。各国の方々、身元のきちんとした証人であることを私がここに宣言する」
「はぁぁ~?」
会議室の大きな扉が騎士たちによってひらかれ、そこに立っていたのは気だるそうな表情を浮かべた大剣を背負った青年と、ひょろっとした長身の猫背の男だった。その猫背が今日はいつもよりも心なしかまっすぐ伸びていることは、その大剣を背負った青年しか知らない。
ギルバートは自分こそ、勝利を確信して気を緩ませてはならないと思いつつも、勇んで口にしたのだった。
「――この者は、サザランド連合国で神託のあった『勇者』で間違いないか」
そしてギルバートのことを睨みながら、その顔を青ざめさせた。ギルバートは慌てたような口調で言った。
「で、では聞くが、アルフレッドが仮に魔王だとして、ペリタン山脈での麻薬の原料となる花を焼く理由はなんだと言うのだ。麻薬が出回っていたほうが都合がいいではないかッ! 言いがかりも大概にして欲しい」
「おおーこわいこわい。まぁ、わたしんとこの勇者がリスティアーナ女王国に入ってますからねぇ。もしやペリタン山脈のユメミソウのことだって、ヴァールストレーム王がアルフレッド王子と一緒に証拠隠滅を図った可能性もありますでしょ?」
にやにやといやらしい笑みを浮かべながらネジャリフは言い切った。
これはネジャリフにとって、またとない好機であった。
ネジャリフはギルバートがアルフレッドと共に麻薬の原料となる花を焼いたことをもちろん把握していた。魔王がどんな怪物であろうとも、その存在への畏怖を利用してリスティアーナ女王国を潰そうと思っていたのだから。
そこにきて、アルフレッド王子が魔王なのでは? と、考えたネジャリフはリスティアーナ女王国とヴァールストレーム王国、両方を陥れる方法を思いついたのだった。最初は魔王を手玉に取ろうと思っていたが、魔王がアルフレッド王子であるのならばそれはそれで好都合だとネジャリフは思った。
幸運にも、勇者という最高の手札まで転がり込んできたとあって、まさにこの上ない状態にあった。
いつだってヴァールストーレム王国にしてやられてきたネジャリフは、ついに! と拳を握りしめた。
だが、魔王が花畑を焼いたことで自分の野望がヴァールストレーム王に露見してしまったことは明らかだった。
(そうであれば……)
そう思ったネジャリフはすぐに方向転換をした。
魔王がアルフレッド王子なのでは? と、不安を煽り、ヴァールストレーム王国への不信感を高めるのだ。どちらに転んでもネジャリフにとってはおいしい状況である。
ヴァールストレーム王国に不信感が煽り、御し易いプラウゼン王国とリスティアーナ女王国に誘いをかけ、一緒に攻め込むこともできる。
ネジャリフは勝利を確信した。
人間は勝ったと思ったときこそが一番隙だらけであることは、長年商業の世界に身を置いていたネジャリフは知っているはずであった。
だが、――宿敵への勝利を確信し、ネジャリフは一瞬気を抜いてしまっていた。
ペルケ王国の盲目の王・リュシャンの静かな声が会議室に響き渡ったのは、そのときだった。
「ネジャリフ元首。ペリタン山脈の麻薬の情報は入っていないのに、どうしてそれがユメミソウだと知っておられるのか」
各国の面々がどよめき始める。
それぞれの国の宰相と王がひそひそ言葉を交わす中、ネジャリフの背中を嫌な汗が伝った。
ギルバートは「おや?」とわざとらしく首をかしげると、いまだとばかりに口にした。
「ネジャリフ元首。我が国では、サザランド連合国こそがリスティアーナ女王国で魔王崇拝を煽動していたという報告があがっている。魔王崇拝の集団が麻薬中毒者の巣窟であることも調べがついている。ペリタン山脈で麻薬を栽培していたのはあなたのほうなのでは?」
「なんと! よくもまあ……そんな絵空事をわたしらの前で口にできるものですねぇ」
ネジャリフも言い返すが、会議室のどよめきは大きくなるばかりだ。
ギルバートが言った。
「先日、ヴァールストレーム王国に書簡が届いた。ぜひ、この場で証言したいという者に来てもらっている。各国の方々、身元のきちんとした証人であることを私がここに宣言する」
「はぁぁ~?」
会議室の大きな扉が騎士たちによってひらかれ、そこに立っていたのは気だるそうな表情を浮かべた大剣を背負った青年と、ひょろっとした長身の猫背の男だった。その猫背が今日はいつもよりも心なしかまっすぐ伸びていることは、その大剣を背負った青年しか知らない。
ギルバートは自分こそ、勝利を確信して気を緩ませてはならないと思いつつも、勇んで口にしたのだった。
「――この者は、サザランド連合国で神託のあった『勇者』で間違いないか」
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