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リスティアーナ女王国編
06 悪役主従と信仰3
しおりを挟む「魔王様~~! どうか我々にお力をお貸しください」
そのしゃがれた声に連動するかのように、洞窟の中にオオオッと不気味な声が響いた。
さっき少年が言っていた通り、鍾乳洞のように湿っぽい場所で、設置された魔導灯に照らされて壁面もてらてらと光っている。
入り組んだ横穴だらけの迷路のような洞窟で、僕とケイトは魔導灯の設置されていないほうの小さな道へと進んだ。その道の先に光の差し込んでいる小さな穴があり、僕たちが覗き込むと、ぽっかりとひらけた大きな空洞におおよそ百人ほどの黒いローブの人間たちが集まっているのが見えた。
少し段になっているところに、偉そうにしている黒装束の男と「生贄の祭壇」とすぐに理解してしまうような仰々しい黒い台が置かれていた。ケイトと僕はそのちょうど上辺りに空いた穴から、下を覗いているのだった。
響いた声に、僕は思わずハッと息を呑み、隣をちらっと見てしまった。
「魔王様~~! ああ、魔王様~!! どうかこの世に破滅を!!」
この世に破滅を……なんという恐ろしい願望だろう。
僕は思わずハッと息を呑み、隣をちらっと見てしまった。
「魔王様~~! ああ、魔王様~!! どうか卑き貴族たちに制裁を!!」
なるほど……さすがはリスティアーナ王国だ。きっとこの魔王崇拝の集団は、平民たちで構成されている可能性が高い。だが、魔王が一体どんな制裁を下すと思っているのだろう。
僕は思わずハッと息を呑み、隣をちらっと見てしまった。
「魔王様~~! ああ、魔王様~!! 生贄はたくさん用意いたします!!」
……た、たくさんだと! 魔王の原動力は破壊衝動のようなものだと信じてきたが、先ほど見かけたような美少年たちをたくさん用意されて、魔王は一体どんな無体なことを強いるというのだろう。
僕は思わずハッと息を呑み、隣をちらっと見てしまった。
「どうぞご賞味くださいませ~!!」
僕は思わずハッと息を呑み、隣をちらっと見てしまった。
だが――ずっと無表情だった隣のケイトの眉間に皺が寄り、それはだんだん深くなり、本当に魔王みたいな顔になった。それを見て僕は思った。
あ、本当に魔王なんだった。
そして、信じられないほど不機嫌そうな顔になったケイトが言った。
「エマ様……いい加減にしないと怒りますよ」
「魔王様はお怒りか」
「……怒りますよ」
本当にケイトは怒っているようだった。ちょっとした冗談のつもりだったのに。
ケイトの口が引き攣っていたので、確かに自分が魔王であったら笑えないかもしれないと思い、少し反省した。だが、この黒装束たちはたくさん生贄を用意しようとしているのだ。それはまずかった。
「冗談はさておき、これはまずいな。ケイト。せめてもう少し情報を集めたほうがいいだろう」
「そうですね……どこかであの黒いローブを奪うかなんかして……あ」
そう言ったケイトが動きを止めたかと思うと、すぐさま僕を背に隠すように追いやった。耳を澄ませていると、二人分の足音と話し声が聞こえてきた。僕はピリッと緊張感を漂わせているケイトの背中から顔を覗かせ、こっそりとその先を見た。
どうやら僕たちがいる魔導灯の設置されていない小さな横道ではなく、さっきまで歩いていた外へとつながる道を誰かが歩いているようだった。
話し声からして、年も若い気がする。
ケイトの手から、いつもの黒い靄が現れたのは――そのときだった。僕の目の前で燻る炎のように立ち上がるその黒い霞は、まるで蛇のようにうねうねと向こう側の道へ顔を忍ばせたかと思うと、その瞬間。「あれ?」と声を上げた、黒装束の二人を包みこみ――パタッと二人が倒れるのが見えた。
驚きすぎて声を出すこともできず、ただ目を瞬かせている僕にケイトが言った。
「眠らせました」
それを聞いて僕は思った。
「魔王か!」
「丸呑みにしますよ」
「ヒッ」
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